ムーンライト

くるみぱん

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母の記憶

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背筋に冷たいものが走った。
オレが助けるなんて言っておきながら、急に怖くなったのだ。
母親なら、女なら、オレがやっつけてやる、なんて、今思えば本当に無知で生意気でどうしようもないガキだ。
中学生の長谷川にもビビってるオレが、大人の男に挑むなんてそんな勇気があるわけない。

「ほん…とうの・・・」

オレが一人逡巡していると、ソラが口を開いた。

ソラがしゃべるのは初対面で名前を聞いて以来だ。
泣いているから、あの時よりもさらにか細い声。

「ほんとうの…おとうさんじゃない…」

母親の再婚相手か。

「そうか…。かあちゃんは?助けてくれないのか?」

ソラは首を振り、嗚咽しながら、手のひらで涙を拭っている。

「しら…ない…」

「知らないのか?かあちゃんは」

ソラは頷いた。

「クソっ!」

悔しくて、腹が立って、思わず拳を床に叩きつけた。

オレには母の記憶がない。顔も覚えていない。
母の愛とか、母性とか、そんなものに触れる機会もなかった。
だけど、どこかでそれを、神聖な、そして絶対的なものだと信じていた。

しばらく考え込んだ後、ソラにティッシュの箱を渡しながら言った。

「お前、今日からしばらくここに泊まれ」

ソラがティッシュで涙を拭きながら、不安げな顔でオレを見つめる。

「心配するな」

安心させるように、努めて笑顔を作りそう言った。


すぐ下に降りて、テレビを観ていた祖母に、ソラの分も夕食を作ってくれと頼んだ。
祖母は「おうちの人は知ってるの?」と聞いてきたので、これから言う、とだけ答えた。

祖母が作ってくれたハンバーグを、ソラは美味しそうにパクパク食べていて、ご飯のお替わりもしていた。
そんなソラを見てオレは少し心が落ち着いた。

オレたちが食べ終わる頃に父が帰宅した。
オレは「ごちそうさま」といって席を立ち、着替えのため奥の部屋に行った父の後を追った。


「父さん」

「ん?どうした?」

父との親子関係は良好だったと思う。父を信頼して、ソラの事情をすべて話すことにした。


「分かった。あとでソラくん?…と話をしよう」

父に話したことで、少しだけだが胸のつかえが取れた。
自分一人でソラを助けるつもりだったが、到底一人で抱え込めることではなかった。
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