ムーンライト

くるみぱん

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ムーンライト

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「ありがとうございました~!」

今、レジから聞こえる女性店員の可愛らしい顔と声に癒されている。
最近はオレの顔を覚えたのか、「お疲れ様です!」なんて声をかけてくれるようになった。
今度はオレから声をかけてみようか…?


そんなことを考えながら、手に持っていた青いパッケージのビスケットを買い物かごに入れようとしたその時。
いきなり横から伸びてきた大きな手が、その箱を奪い取った。

なんだ?!

オレは驚いてそちらに視線を向ける。

身長170センチのオレより随分上にあるその顔は、透けるような白い肌、オレを見つめる大きな二重瞼の垂れ目は優しく細められている。サラサラの前髪はふわりと片方の目にかかっている。

オレは言葉を失う…。



「懐かしいね、これ」



少し高めの穏やかな声。




「ソ…ラ…か?」



喉がつかえてうまく発声できない。

男は大きなボストンバッグを肩にかけ、ニコッと笑って首を横に傾げる。


「お久しぶり、アキトくん」


ガチャンっと大きな音がして、足元に落ちたカゴの中で缶ビールと弁当のパッケージが跳ねた。

そこからは何がどうなったか記憶がない。


コンビニの自動ドアを出た時には、オレは男に手を引かれていた。
すぐそばの駐輪場まで来て、彼は立ち止まりこちらを振り向く。

「アキト君、注目浴びてたよ!驚き過ぎ」

あはは、と爽やかに笑うその男は本当にソラなのか?

「アキト君、変わってないね。僕、すぐわかったよ。相変わらず体格いいね。スーツの上からでもよくわかる」

こんなにべらべらしゃべるのはソラじゃない!誰なんだ、こいつ!

そんなオレの心を見透かしたかのように、ソラは言う。

「信じてよ、僕、ソラだよ。アキト君の家に行ったら、おじさんが今ここで一人暮らししてるって教えてくれたんだ。留守だったんで、飲み物でも買って玄関で待とうと思ってた。そしたら、アキト君がいたんで、ラッキー!」

目じりを下げ、垂れ目は更に下がって、大きな口が三日月になっている。

あれ…?視界が潤む…。



「ば、ばかやろう!驚かすんじゃねえよ!」

やっと声が出た。

紺色のハーフコートの両ポケットに手を入れたまま、やけに余裕な表情が憎たらしい。

「ははは、ごめん~」

コートの裾から伸びるブルージーンズ。身長は多分180を超えている。足がやたら長い。
何より、この辺ではちょっと見ないほどの美男子だ。

「お、お前…、ほんとにソラか…?」

訝し気に聞くオレを見て、くすくすと笑うソラは、やはりあの時の無邪気な面影を残し、ほっぺが丸く膨れている。



「アキト君、今日、これ一緒に食べよう」


手にしたコンビニ袋の中から青い箱を取り出して、微笑む。


「話したいことが山ほどあるんだ」




冬の澄んだ夜空を仰ぐと、満月がやけに近くに見える。

今夜はビールじゃなくて…

「牛乳あったかな?」

月を眺めながら、オレは呟いた。

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