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3.お客様のようです
しおりを挟む話が始まる前に注意事項
「」は人の会話に使用
【】は人外が人の言葉を話している時
『』は一対一の会話しかできない念話の時
()は人物が言葉を発さずその時に思った事
以上のことをもちまして、お読みください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから数日後…
この秘境に初めてお客様がいらっしゃいました。
「……人がいる…」
そう言うのは黒人とはいかないものの目の下まで黒く、その下は人のように肌の色をしている謎の種族様がいらっしゃいました。
「こんなところにようこそ。何か御用でしょうか?」
「……お前…ここに住んで、るのか?」
「はい。約10年ほど」
「……じゅうねん…も…?!」
「失礼なの承知でお聞きしたいのですが…種族はなんでしょう?私は人族です。」
「……ひと?…………俺は魔族だ」
「魔族…」
この世界に来て初めてファンタジー要素にありつけましたね。
いや、魔物達がいる時点でファンタジーでしたね。それにしても、まるで私が人でないような疑う目でこちらを伺ってますが、人ですよ?
「……この地で何をしている?」
「ただ暮らしてます」
「……兵器を作っているのではないのか?溶鉱炉のようなものもありそうだったが…」
「いえ、兵器など作りません。たとえ作ってしまったとしても売りません。すぐに廃棄します。」
出来心というのは誰にもあるものです。
ヤバイものというのは亜空間に放り込んでいます。誰も手を出すことはできないでしょう。
「……そうか。」
「…こんなところで立ち話もなんです。これからティータイムなのですがいかがですか?ご一緒に」
「秘境で…ティータイムって…魔物に襲われないのか?…見た所結界もなさそうだが…」
「この近くの子達はご近所さんとして挨拶済みですから大丈夫ですよ。どうぞ。さっき出来上がったんです。ご試飲ください。」
フルーツを乾燥させ、茶葉と配合し、紅茶を作った。
お菓子を少し出してくる。
「挨拶……?」
「こんなところに話せる人なんて来ないと思ってたから…あ、数体ご近所さんも来られるけど驚かないでくださいね。友好的な関係なので」
「エ……?」
その人物は冷や汗をかきながらその席に座った。森から出てきた猛獣に囲まれているのだから無理もない。
「…………」
流石に緊張されますよね。今日来られる予定だったご近所さん達はみんな体が大きいし、少し顔が怖いですから。昨日だったらよかったんですが。まだ体の小さな子達ばかりだから。
「皆さん今日は初めてここにお客様が来られたの。優しくしてあげてください。」
「…」
ググ。ギギィ?ガゥ。ゴゴ。ギャー?
◇お客様視点◇
こ、このプレッシャーの中でなんで平然としていられる?!何者だこの女は!全員長クラス!下手したら即生首決定だぞ!なぜ俺はここにいる!なぜ座ったんだー!
何度も自問自答しているが解決する策は一向に思いつかない魔族の男。
「えっと…そういえばお名前とご用件をお聞きしていませんでした。…あ。ゼウラヒューさん。もうおかわりですか?お気に召したならまた作りますよ。」
ギャー!ギャー!
え、何。興奮してんだけど!おい、相手は魔物だぞ?!そんな不用意に近づくと…ひえっ………紅茶注ぎ足しただけ…?
紅茶を継ぎ足すという行為だけで終わったが、次は何があるかわからないと終始ビクビクと震える男。
「よかった。また明日も来られます?」
ギャァッ♪
(なんでリラックスモードにいきなり突入した?なんだこの紅茶、毒か!そういう毒が入ってるんだな!)
「お客様はどうですか?美味しいですか??」
……無理だ!断れねー。飲まねーと周りの奴らが俺を肉に変える!カタカタと震えながら覚悟を決めて、一口。
口に広がるのはフルーティーな香りと少し甘く温かい紅茶。……体の痺れも意識がぼんやり……することもなくただの紅茶だった。そしてかなり美味しい。これ、アップルティーか?素直に感想を伝えると彼女は嬉しそうに笑った。
「…うまい」
「それは良かった。お菓子もどうぞ。今日はプリンを作ってみました。皆さんには大きいものもあります。お客様には私サイズのを。」
「……プリンって…」
プレッシャーの中に閉じ込められていることも忘れ、すぐに疑問をぶつける。
「甘くて美味しいデザートです。食べてみてください。」
震えもいつの間にか止まっており、目の前の昔見たことがあり聞いたことのある不思議なデザートというのを手元で少し傾けてみたりしたから見たりして、観察し終え、スプーンが渡されたのでそれを使って一口すくう。
感触としてはゼリーのようだ。だがゼリーより固いわけでは無い。崩れそうで崩れず形を保って皿の上で残りが震える。
……やっぱりプリンで間違い無いようだ。
ゆっくり口に運びそれを舌の上に乗せ味わってみた。
口の中で急にとろける甘み。口の外にある時には固形物だったそれは口の中に入った途端に液体に変化した。これは俺の見たことがある。…これは、あの世界のスイーツ!
「うまい!」
「よかった。」
俺の感想を聞いた後、がっつくように魔物達が食い始める。それをみて毒味に使われた気分になったが、そんなことよりもプリンだと手元にあるものに手を伸ばす。大きな図体の魔物達用に作られたでかいのも、俺の手元にあった皿の上にあったものもあっという間になくなりもう無いのかと聞いてしまう。
彼女は楽しそうに、もう1つ用意しますねと家の方に消えた。
【さて、今のうちに聞いておこう。魔族がこの場所に何の用だ?】
【答えによって、我らの態度も変わるぞ?】
【この場所に攻め込むなどと言いのたまえば…】
【魔女にはお前は帰ったと伝え、同胞の餌となってもらおうかの】
和やかな空気から一変し、ソレらは俺に殺意を向ける。
あまりの圧力に、息をするのも忘れそうになった。再び震えが復活しながら答える。長クラスだからもしやと思っていたが、言葉を介してくるとは…さすが秘境の魔物。
「お、れに、てき、いはない」
【ほう?では何故…】
すぐに息をするが、耐えきれないプレッシャーの中に閉じ込められた俺は素直に敵意のないことをさらけ出しても許してはくれない。相手のプレッシャーが緩むことはない。そんな俺の窮地を助け出してくれたのは家の中に消えた女だ。両手に1つずつ小さなプリンの乗った皿を持って緊迫した空気を一変させる。
「皆さん?何故私のお客様が青白いお顔なのかご存知ですか?」
女が帰ってきて発した言葉により俺に向けられた威圧と殺意は消え去った。
【【【【!】】】】
「……っ!はぁ、はぁ、はぁ…」
一気に圧力が消え去ったので息を整える。
魔物達が全員引きつった顔になっており、こんなこともあるのかと驚いていた。
ギャーギャギャー!
グ、グガグ~?
ガァ…グオオーン?
ギイ!ギギギ!
ゴゴ!ゴゴゴ!
あまりにも慌てすぎて、人の言葉でなく魔物それぞれの言葉で返事をしている。
それじゃ伝わらんだろうと白い目で見ていると女が大きなため息をつく。しかしその返答を聞いて更に疑問が増える。
「…弁解は聞きません。私が教えたヒトの言葉で話していましたよね?それは人を脅したりからかったりする時に使うことはしないようにとお約束したはずですが?」
「魔物に人の言葉を教えたのか?」
まさかこの女が関係してたりしないよな…?
何年か前に急に現れ始めた人の言葉を話す魔物。カタコトだった魔物も、徐々に自由に話し出したりがあってそれはリーダー的存在がよく話ができていたので進化を遂げたと仮説を立てたが…教えていた人がいたとしたならば…。
「はい、魔物達の種族別の言葉を学ぶ代わりに教えてあげたんです。」
「…それはちなみにいつから?」
「えっと…8年前くらいでしょうか。」
確か人の言葉を話し始めた奴らが目撃され出したのは…7年前…時期的にあってる。つまりこの女がやったのか!
「てかお前…」
「そういえばお名前を聞いていませんでした。伺っても?」
さっき聞きそびれたからか…だが。
「名を名乗るなら自分からというのが常識だぞ。」
「私としたことが…ごめんなさい。私はこの森の魔女をやっております。」
「……それは名前じゃ無いだろう」
「私は家も名前も捨てました。この森にいる限り私は魔女と呼ばれて生きています。そういえば人の街に出向いた時の名前でよろしければ名乗りましょう。」
「…まあ、それでいい。」
「アン、といいます。」
「……アンか。」
「では貴方は?」
「俺はウィリアム…ウィルと呼ぶといい」
本名を明かさないというならこちらもそのように名乗らせてもらう。まあ、俺を知らない奴、初対面の奴にはいつもこうだけどな。
「わかりました。それで、ウィルさんはここに何をしにいらしたのですか?」
「……俺は、ここに鍛えに来ただけだ。ここはいい鍛錬場なのだ。…流石にこのクラスを1人でとは無理だが…」
◇魔女視点◇
一応ほぼ毎日のようにある時から来ていたというのですが、ここが最奥に位置するのでたどり着かなかったというわけですね。今日は魔族にはあるという翼で自分がどこまで進めているか。最奥地はどんな地形なのかをチェックしようと飛んできたら私の家があるのを見つけ降りてきたと。
「そうですね。ここの魔物達も日々強くなろうと鍛えているようですから…突破は難しいかもしれません。」
「……その原因となるのがあんたの可能性が高いんだが…」
顔を背けて何か呟きました。残念ながら聞き届けられませんが。
少し間が開いたと思ったら、すぐに顔をこちらに向けて問いかけてきました。
「ちょっと待て、あんた魔物達の言葉わかるのか?」
「はい」
「どうやって狩をするんだ。その、後味が悪くなったり…」
「敵意を向けられた時のみ倒しています。まあ、この森の中の魔物はほとんど襲ってきませんから、基本的にはこの秘境から出た魔物達ですね。私のことを知らない魔物は普通に襲ってきますから、糧とさせていただきます。」
「…あんた強いのか?」
「……そろそろあんたではなくアンさんと呼んでくれると助かるのですが。ウィルさん」
「……悪かった。アンさん。」
「はい。」
やっと呼んでくれました。名前を名乗ったのにそれを呼んでくれないので名前覚えない人かと思っちゃいました。
(なんだこの女は…いうことを聞かないといけないという思考になってしまうんだが…)
「……なぁ、次来るとき…ツレを連れてきてもいいか?」
「お連れさまですか?…あまり大人数で来られると難しいので…4、5人程度にしていただければ助かります。」
「…わかった。絞り込む。」
「人を呼ぶのは構わないのですが、なぜ連れてきたいのかお聞きしても?」
「ここの茶菓子の作り方を1人に教えて欲しいのと…いろいろ話を聞きたいんだ。」
「教えるのは構いませんよ。話というのはそんなに人がいるとは思いませんが…まあ、初めてのお客様ですし、お友達が増えそうな機会ですから良しとします。別に明日来るというわけではありませんよね?」
「あ、嗚呼」
「なら、ご予定を…あ。」
「どうした?」
「…いえ、こちらのことです。気にしないでください。そうですね…どのくらいが予定としてはよろしいでしょう?」
「そうだな…5日もらっていいか。」
「はい、わかりました。では、5日後また」
「嗚呼また」
そう言って翼を出して一礼し、空を飛びあっという間に飛んでいかれてしまいました。
「…魔族か。こんなところに鍛錬に来るなんて熱心な方なのかな?」
【魔女様、もし魔族が攻め込んできたらすぐに呼ぶのだぞ。】
【そうだ。まだ魔王は健在だという。連れ攫われそうになったら叫ぶのだ】
「皆さん、心配性ですね。言ったでしょ?私はここを家として住んでいると。攫われたとしても帰ってきますよ。」
【魔族に契約魔法を使われたらどうするのだ…】
【隷属契約となるとそのもののいうことを聞かなくてはならなくなって…】
「魔王さんって強いのですか?」
【分からん…】
「では、皆さんにお願いしようかな。」
【む?】
「魔王の情報を集めるの。」
全員が嬉しそうに顔を緩めた。
【魔女からの頼み事なら大歓迎だ。】
「私より強いのか…あと他のこともついでに頼んでもいいですか?」
【もちろんだ!】
勇者の存在と強さ。戦争は今あるのか。各大きな国の状況。
【魔女からの仕事、しかと承った!】
【すぐに取り掛かる】
「あまり無茶はしてはいけませんよ。」
【うむ!】
皆さんが、森に帰るのを見送り、片付けをして先ほど思い出したことについて取り掛かる。
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