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地方都市 伊勢会津

数秒で終わる手続きとは一体

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「おぉい、おとぉん…ご存知でしょう…? 目立つのが嫌いな息子でぇございます…。 おいパンチ食らわねぇかぁ?」
「いや、あれはちょっと私も予想外だったって言い訳させてもらえないかな…?」

持ち場から離れる前に言ってあげろよぉ…。並んでんだから市役所に辿り着いた時に言えばいいだろぉ…? なぁに放送で呼び出ししてくれてんじゃい江風さぁん…?
というか呼び出しておいて市役所玄関にすらいねぇって一体俺は何の手続きをすりゃあいいんだ? 旅行行くのに必要な手続き以外の手続きって何だよ…前回まともに旅行に参加出来てないのが原因なんだろうか…?

「あ、お待たせしましたね。ちょっと作業に手間取りまして」

スッと現れる江風さん。でも手には何一つ持ってはいない。手続きってのが一体何なのかもうこれ分かんねぇな…。

「あぁいえ、それはいいんですけど、父さん居たのに何でアナウンスしたんですかね…」
「…………あっ」
「えぇ…」

…割と抜けてるとこあるんだな、あんだけ抜けきってる市長の手綱握ってるのに。
まぁそれはいいんだけども、結局俺がしなきゃいけない別の手続きって何なのか説明してほしいところよなぁ。

「で、俺がやんなきゃいけない手続きって何ですか?」
「あぁそうでした。書類の類はお父様の方があらかじめご用意してくださっていたので、別にやらなきゃいけないのはそんなに難しい事じゃないです。というか掌紋と指紋を記録するだけなんですよね」
「掌紋と指紋?」

まぁ簡単に言えば掌紋ってのはアレだ、赤ちゃんの時にやる成長記録のヤツだ。インクべったー手に塗り付けて色紙に押し付けるアレ。いやー懐かしい…のか? 家にそんなん残ってたかすらちょっと覚えてないなぁ…。

「はい、この機械に手を入れてください。先の方で枝分かれしてるので、そこにそれぞれ指を入れてください。数秒でデータとして記録されますので、それを両手でやってもらえればそれで手続き完了です」
「あ、はい」


…えっ、この為に俺アナウンスで呼び出されたん? ちょっとダメージデカすぎんだけどぉ?
とはいえささっとやんないとなぁ。俺だけこんなんやってんでしょ? 市民旅行なんだし俺が手間取って待たせるワケにもいかんからな。
すーっと機械に手を通してみる。あー、確かに中で枝分かれしてるね、うん。俺の触覚がおかしくなければ、指突っ込む穴が明らかに5個以上あるんだけどめんどくせぇしパーした時にジャストフィットする穴でいいや、うん。
それから数秒入れっぱなしにしてると、分かりやすい電子音がピーと鳴る。恐らくこれで完了的な音だろう。

「はい、ありがとうございます。これで別途必要だった手続きも完了致しました。ではお手数ですがご家族のところでお待ちくださいね」
「あ、分かりました。おっし、おとん行くぞー」
「ん? あぁ先に行っててくれる? 私ちょっと雉撃ってくるから」

説明しよう!
雉を撃ってくるとは、男性版お花摘みの事である!
…最近会社の先輩が「ちょっとレコーディング行ってくる」って言ってて、あれってどういう事なんですかって聞いたら「音入おといれだからだよ」って教えてくれた。ただそれだけですが?



ー ― ― ― ― ― ―



「…さて、睦月さん? やっぱりというかこういう結果になりましたけど、一体彼は『何』なんですか?」

龍希が市役所から出た後、江風さんがボソッと私に言ってきた。

「何、と言われてもねぇ…。15年前だって『あっち』ですら次回来訪時にまでには調べてみせますって言われるレベルで謎だったんだから、私が知るワケないじゃないか」
「…結果の紙が出てきたんですが、最後の『詳細不明』以外、全部『無理』だけで埋め尽くされるとか見た事もありませんよ…」

あーあー…凄い事になってるねぇ…。流石に『これ』じゃ判別すら出来なかったか、としか言えないな。

「ま、なんにせよあちらに向かえば全部分かる…とまでは言わないけど、ある程度は分かるんじゃないかな? 私だって万能じゃないんだよ」
「まぁそうですが…というか、彼の指にリングが付いてたの見ましたか? あれは間違いなく『これ』が保険の為に仕込んだとしか思えないのですが」
「んー…まぁあの子が5歳の時点で『解放』した時がヤバ過ぎて私が色々封印をしたとは言え、それが15年後の今、あっちで通用すると思えなかったんじゃないかな? 私も同意ではあるけども」
「………睦月さんの封印を破壊する程の潜在能力、ですか。最早邪神の類で無い事を祈りたいところですね」



うーん、どうなることやら。
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