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多種族都市 ヘイムダル

発覚、そして波乱の幕開け

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もうこの体勢になって何分が経ったのだろうか。

俺の家族は普通じゃなかった、それはとてつもない衝撃だった。
父親だと思っていた人が女性で、なおかつ古代エンシェントエルフだった事、母親が妖精女王フェアリークイーン、姉と妹が龍人ドラグノイドだった事。



……ん?



「…あれ? 親がそれぞれ違う種族で更に子供まで違う種族とか一体どうなってんだ?」

そうだ、ってかそもそも女性同士で子供は……まぁ異世界だから無いとは一概に言えないけど、種族自体まるっきり違うとかそんな現象起こり得るのか?

「あぁ、実際の子供じゃないからね。この子らは…というか龍希含めて全員孤児だったのを引き取って育ててたんだよ。桃華とさくらはその事を知ってるから、この事を言ってなかった…というか言ったけど覚えてなかったのは龍希だけだね!」
「おっほぅ、笑顔で言う事じゃねぇなこんちくしょう」

もしも衝撃の発言に攻撃力というものが存在していたなら、俺多分今ミンチになるぐらいの衝撃を受けてるよ。ミンチっていうかチリになってんじゃない?

「というか、じゃあ俺は一体? 俺だけが純粋に日本生まれのただの人間なのか?」

ここまで衝撃受けてるならもう何でも聞いていいよねって半ばヤケになってるのは自分でも分かる。

「ん? いや、龍希も生まれはこっちだよ。なんだったら一番ラノベみたいな出会い方してるぐらいなのに、ってのがこっちも疑問なんだよね。種族なんてサッパリだよアッハッハ!」
「ラノベみたいな出会い方って何だよ」
「現地の騎士団ですら入るのに躊躇する森の中に、おくるみにくるまれて籠に入った状態で放置されてた」
「うわぁラノベだぁぁ! 明らかに主人公クラスのラノベ導入部だぁぁ! でも俺めっちゃ普通ぅぅ!」
「だからよく分からないんだよ。しかも何故か『鑑定』の魔法を防ぐし、以前こっちにいた時は年々どころか日毎に魔力量が増大してたし、増えすぎないように封印掛けたらそれは普通に通る上に何故か記憶まで封印されちゃってるし、龍希って一体何?」



それ俺が最初に聞いてんだよオォン? というか日毎に魔力が増大とか封印が記憶にまでとか、普通じゃねぇ事一杯あんじゃねぇかよ。



「…とりあえず、以前こっちに戻ってきた時に遺伝子鑑定をお願いしてたから、きっと龍希が何なのかは分かると思うんだ。だからとりあえず集合場所に行こうか」
「…まぁここでグダグダ話しててもラチ開かないしなぁ。鑑定結果が出てるんなら、俺も腹くくって事実を受け止める……受け止められるかなぁ」

魔力っていうのを一般人が持ってるとしても、日に日に増大してくのは明らかにおかしいし、鑑定の魔法とやらを防ぐって辺りで更におかしいし、封印しなきゃヤバい程になってたのがとどめでおかしい。外見は普通で内面がぶっ飛んでるとか整合性のバランスが崩壊していく…!
というか魔法かぁ…。この世界はそこまでファンタジーだったか……いやエルフとかの時点でファンタジー確定だったわ。
俺にも魔力は十分すぎるぐらいあるっぽいし、王道を征く正統派魔法とか俺も使えるようになりてぇなぁ…。

と、新世界の第一歩を踏み出した瞬間だった。



ー ― ― ― ―



「鑑定結果が出てるんなら、俺も腹くくって事実を受け止める……受け止められるかなぁ」

色々と話し過ぎたせいで完全に腑に落ちてない表情をしてるけど、龍希は集合場所に行く事を決意してくれたようだ。

…とはいえ自分で話していても、昔から龍希は色々と不思議なところは多かった。

生後1年にも満たないのに、私の鑑定魔法を完全に抵抗レジストした。洗浄クリーン治癒ヒールはすんなり通したくせに、だ。
なんだったら出会い方すらおかしい。果敢に挑戦した冒険者達の生存率の極端に低いあの森で少なくとも1日、凶悪な魔物達から敵意を向けられる事無く過ごしている。というか
成長するにつれ過剰な程に魔力量が増大しているにも関わらず、増え続ける魔力が。普通なら異常とも言える速度で増大する魔力で体が破裂してもおかしくないのに、必要な分だけが体内を循環して
挙句魔力増加を封印したにも関わらず微量ながら増え続けていた事。重ね掛けして完璧に封印していても、気づけば僅かに増え続けていた。

そして最大の疑問が、封印のスキマから増え続けていた魔力が

…ただあの機械が私の封印の上からあの指輪を龍希に装着させたという事……は……!?



ー ― ― ― ―



大気が振動している、というのが正しいのか分からないけど、俺が新世界に新たな一歩を踏み出した途端、揺れた。
物凄い荘厳で巨大な鐘を撞いたかのように、身体の真ん中に響くような振動が伝わった。
そして、目の前の光景を疑った。



誰もが片膝をついてこうべを垂れている。ただ、誰一人として何故そうしてるのか分からないというような、凄く不思議そうな表情を浮かべていた。でも誰もその体勢から戻ろうとはしない。
それは俺より先に外に出ていた父さんカッコカリも、まだエレベーターの中にいた皆も同じだった。


正直に言おう、めっちゃ怖い。



「龍希…! 一度エレベーターに戻って…! 皆動けない…!」
「へぇっ?!」

父さんカッコカリにそう言われたので、チョッパヤで踏み出した足を華麗にムーンウォークで戻す。文化祭で練習させられたムーンウォークがこんなところで役に立つとは。

と同時に、向こうの人達もうちの家族も一斉に立ち上がってガヤガヤと騒ぎ出した。そりゃそうだ、いきなり片膝ついて頭下げてしかも動けないって不気味以外の何物でもねぇわな。

「龍希、感覚的な事を言うから難しいかもしれないけど、皮膚のすぐ上に薄い膜が貼ってある状態を想像してゆっくり外に出てみてもらえる?」
「皮膚の上に薄い膜…薄い膜なぁ…うーん…」

うっすら汗をかいてる父さんカッコカリがそう言ってきたので想像してみる。
なんだろ、皮膚の上に薄い膜……オーラバリア的なアレかなぁと思いながら、言われた通りにゆ~っくり外に足を踏み出してみる。

……おや、おやおやおや。今度は何も起こらない。つまりさっきのは俺関係ない、L.E.D 照明完了。




関係無かったら良かったんだけどね、と思うのはまだしばらく後のお話なんですって。
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