日本育ちの異世界人、里帰りする

若葉 なる

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多種族都市 ヘイムダル

俺の周りに普通なんてなかった

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トンネルを抜けると、そこは雪国でした……ってのは有名な一文だろうと思う。でも「エレベーターを抜けると、そこは異世界でした」って、どう考えても設定特盛し過ぎた、三徹四徹してる三流小説家の導入にしか聞こえないじゃんか。

現実で目の当たりにすると、なんというかこう…頭の上にクエスチョンマーク浮かぶ絵面なんだろうなーって客観的に思ったりしちゃったり。これを現実逃避と人は呼ぶとか呼ばないとか知らない。

「さ、今日一驚いたところでとりあえず集合場所に向かおうか」

そう言って俺の後ろから颯爽と出て行った見知らぬ女性。………誰だよ。
このエレベーターはうちの家族しか乗ってないハズ。江風さんは乗ってなかった。…あいにく驚いたからと言って、俺の普通脳は記憶まですっ飛ばしたりはしてない…と思うんだけど。

…いや、まさか。口調はまさに「その通り」だ。うん、いや、え~…?
やっべぇ、エレベーターから異世界より今が一番頭の中がグルグルしている。でも既にエレベーターから異世界ありえない体験してるから……いやいやいや。

「……ハハッ(高音)」
「おいやめろ消されたいのか」

似てるのが余計に怖い。D社はどこからでもアンブッシュしてくるのだ、消す事なぞチャメシ=インシデントだぞ。

「冗談冗談、まぁ今までの固定概念を壊すような状態になってるから場を和まそうとしただけだよ」

和ませると書いてサツバツとでも読むのかオイ。ケラッケラ笑ってるけどこっちは気が気じゃな……ここ地球じゃねぇんだった。流石にD社も追ってはこれない故の……ホントに来れないと言い切れないのが怖いけどまぁいいや。

「まぁ戻ってきた事で私達も姿だけの話だよ。…しかしまぁ龍希は何一つ変わらないなぁ。本当にどういう事なんだろうか」
「その辺りも詳しく確認しなくちゃいけないわね~。そこも含めて早く集合場所に行きましょ~?」
「龍希は普通にでも愛されてるのかしらね? それでこそ私の弟だわ!」
「普通に愛されるのを誇らしく思うのはどうかと思うんだけど…確かにお兄ちゃん何にも変わってないね」


…もうこれは現実逃避のしようがない。謎の女性の会話に乗るように、自然に会話している我が家の女性陣…つまりこの女性は…


「ようやく理解…というか納得というかしてくれたみたいだね。やぁ龍希、日本で君のお父さん睦月さんだよ。ちなみに種族は古代エンシェントエルフ、覚えておいてね」
「ついでに私達も伝えておきましょうか~。お母さんは妖精女王フェアリークイーンよ~」
「私は何だっけ……あぁそう、龍人ドラグノイドだったかしら」
「そうそう、私もお姉ちゃんとおんなじ。とは言え特徴と言えば角と尻尾ぐらいで、あとはあんまり見た目も変わらないからなぁ」


ギュルンと上半身をひねって後ろに目をやる。一度戻す。考える。もう一度上半身をひねる。戻す。考えるのを放棄する。乾いた笑いが出る。膝から崩れ落ちる。この間3秒程である。

俺の周りに普通なんて無かった。

おかんがなんかキラキラエフェクト纏ってた。姉さんとさくらが尻尾したんしたん打ちつけてた。側頭部からなんか角生えてた。

俺の周りに普通なんて無かったんや!


「あ、ちなみにだけども、私とアリスが日本で使ってた名前も偽名っちゃ偽名だから。ちゃんとした名前はあるけどあっちじゃ確実に浮くからねぇ」
「私はフェリス・フォン・エクスカルって言うのよ~。うふふ、15年振りだから懐かしいわね~!」
「私達姉妹は変わらないわよ。そもそも生まれが日本なワケだし」
「あー…でも正確にはサクラ・フォン・エクスカルって名乗った方がいいのかな?」
「私はアルトリア・フォン・レヴァンティン……やっぱりアルトリアって名前は日本の生活に慣れすぎると微妙に恥ずかしいなぁ…」


アッハッハと俺に言ってるんだか談笑してるんだか分からないような状況の中、俺は膝立ちの状態からおててと額が地面に合流しました。


「ウゾダドンドコドーン!!」


フォンってあれじゃろ、貴族の名前の中に入ってるあれじゃろ……



俺の周りに普通なんて一切無かったやないか!!!
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