「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

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ハイビスカスのプレゼント

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 一昨日の土曜日、由香里は鉢植えのハイビスカスの花が咲き始めて、恋の花占いに訪れた学生に一輪無料でプレゼントする事を洋介に提案した。

 ハイビスカスの花言葉は「新しい恋」。真っ赤に色付いた一輪の花の寿命は一日しかなく、恋に悩む女子高生には最適だと思ったのである。

「面白半分の客も、この花を彼氏に見せて、本気の花占いを依頼しに来るかもよ」

 休日に花の探偵事務所に訪れる客は増えていたが、殆どが片想いの恋の相談であり、お喋りに終始して、花に聞いてみる依頼は皆無だった。

「みんな喜んでたよ。僕のアドバイスより、ハイビスカスの花の効果があったかも」

 と言っても、テラス席で鮮やかな花をコップに挿してスマホで写真を撮り、SNSに載せている学生が殆どで、水の錬金術師に依頼する気があるとは思えない。

 高校生の暇つぶしと、ハーブティーが目当てだったが、今回の事件はハイビスカスの花びらを起点にして、大事件へと発展して洋介を巻き込んでゆく。


 二階の部屋で座禅を組んで瞑想していた洋介が姉に呼ばれてテラス席へ行くと、女性刑事を紹介され、写真を見せられて質問された。

「この子に見覚えはありませんか?」

「その前に、全体像を説明してくれないか?最近、暑いせいか火の錬金術師の存在を感じて熟睡できないんだ」


 千聖ちさとが眉間に少し皺を寄せて、白いテーブルを挟んで洋介を睨んでいる。

 グリーンの硝子容器に飾られたハイビスカスの花は萎れて喋る気はなさそうだが、女性刑事のせっかちな性格が突出していると洋介は感じた。

 ストレートの黒髪をナチュラルにセットし、メイクアップもさり気なく、街の風景に溶け込もうとしているが赤い唇が主張する。

「そうね。簡単でいい?」

「もちろん、そちらのペースでどうぞ。僕らはアイスコーヒーを味わって聴いてますよ」

 姉がテーブルの上にアイスコーヒーのグラスを三個置き、洋介の隣の席に座って一緒に女性刑事の話を拝聴した。

「火の錬金術師。実は私もずっとそいつを追っているの。あなた方の葉山での戦いも知っているし、水の錬金術師と呼ばれる不思議な探偵がいるという噂も聞いた」

 千聖ちさとはそこまで早口で喋ってアイスコーヒーで喉を潤し、さっき見せた写真について話す。

「その子、昨夜自殺したのよ。私はここ数ヶ月、女優やモデルの自殺を不審に思って調べている。火の錬金術師が関わっていると推測してね」

 まさに概略と言うか、大雑把な説明をして千聖ちさとが微笑み、洋介と由香里を見つめている。

『感想を聞かせて』と顔に書いてあるが、洋介は敢えて表情を変えずに相手の出方を待った。

「では時間を巻き戻して聞くね。この写真の子に見覚えはない?」


 洋介は萎れて枯れたハイビスカスの花が少し色付き、会話に参加する気になったので、視線をそちらに向けながら話し始めた。

「その写真の女性は見てないが、友だちがここに来た可能性はある」

 洋介は土曜日の午後、テラス席で話していた女子高生がスマホに連絡があり、電話で喋りながら、ハイビスカスの花を姉から一輪受け取って急いで出て行くシーンを思い出した。

『ユキコと呼んでいたが……』

『プレゼントがプレゼントされ、刑事が追って来たのさ』

『自殺した現場に、ハイビスカスの花びらが落ちていたのか?』

 洋介が端的で重要な情報をテーブルのハイビスカスから得ると、その推理を補足説明するように姉が教えてくれた。

「そう言えば、友だちの分もってハイビスカスを貰って行った子がいたわね。朝のニュースでアイドルグループの女子高生が亡くなり、藤沢市出身だって言ってた」

「ええ、死因は不明となってますが」

「なるほど。どうせ知ってるんだろ?僕らが会ったのは友だちの女子高生の方だ。つまり貴方は質問をしに訪れたのではなく、協力を要請しに来たのですよね?」

 千聖ちさとは洋介にそう言われて、手間が省けたと思ったのか、初めて嬉しそうな笑顔を見せた。
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