血と肉とあばら骨のキーボード

田丸哲二

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第一現象・皮膚に刻まれた痣

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 部屋の真ん中で上半身裸になって座禅を組み、丹田の前に両手を合わせて指を交互に握り締めて体内の血の巡りを感じる。

 中国拳法に気功術という気を体に巡らして外へ発する技があるが、呪術はもっと物理的な霊エネルギーの発生だと祖母から教えられている。

『祖母は能力者ではないが、理論家だと自信満々だ』

 母と霊能力を嫌悪して、妄想シーンを映し出すのは久し振りだったが、短時間で死霊を呼び込み血の磁力を感じた。

 どうやら独学で拳法の修練をして体を鍛えていたのが、皮肉にも呪術にも役だったのかと圭介は目を閉じたまま苦笑いする。

血霊チダマを左の上腕の柘榴の痣に発生させ、それを全身に巡らして両手の中に集める』

 圭介はそう心の中で呟きながら、血液に血霊チダマを宿らせ、上腕の柘榴の実の形状をした痣を中心にして、霊流を足先から指先まで巡らした。

 暗い部屋に柘榴の痣が赤く灯って、全身に移動してゆくのが見えている。

 そして圭介はそれを両手の中で光らせると、蕾の花が咲くように指を開き、目の前に妄想スクリーンを幻出させた。

 昨日のモニターの赤いビームの放射線をイメージし、自分の手首に四角い傷線の痣を刻ませ、両眼を見開きその呪いの痕跡を追う。

『あの呪いの主は……?』

 すると、赤黒い血で濡れた幕が開いて暗黒の世界が映し出された。スクリーンの端の上部から血霊《チダマ》の雫が滴っているが、映像は至って明瞭であった。

『俺が覗くと知ってたのか?』

 圭介は呪いの主が霊力を使って探りに来るのを予知し、自分に恐怖を植え付ける準備をしていたのではないかと不安になった。

 地下の薄暗い一室。
 そこで地獄の儀式が行われていた。

 灯油ランプの薄明かりの下に陶器の壺があり、コールタールの油ぎった血溜まりに猫と犬の死骸がバラバラにされて浸かっている。

 そして裸の女性が石台に寝かされ、ふくよかな胸が露わにされて手術の準備がされていた。

 顔には白い布が被せられ、息を荒げて抗《あらが》っていたが手足を拘束されて身動きできない。

 パソコンとモニターの台上に、肉塊と骨が積まれ、銅線コイルや集積回路が散らばり、何かを製造しているように見える。

 そして天井から吊るした灯油ランプを引き寄せて、ゴーグルと黒いマスクで顔を隠した男がこっちを睨んだ。

『笑っているのか?』

 顔をこっちに向けて、これからやる事を示唆してマスクの下で嘲笑っている。

 手術道具なのか肉切り包丁とノコギリ、ノミと金槌が作業台に並べられ、作業着にビニールのエプロンをしてゴム長靴を履いた男が包丁を手にした。


 圭介は全てが自分を陥れる為の罠だと思ったが、その恐怖に抗えなかった。全身の筋肉が引き攣り、血霊チダマが逆流し、皮膚が膨らんで毛穴から血が滲み出る。

『うぐっ、血霊チダマをコントロールしろ』

 息を整えて、必死にそれを抑え込んだが、男の儀式は続けられた。裸の女性の肋骨を触り、その位置を確認してからまたこっちを振り返って睨む。

 圭介は手を伸ばしてその男のゴーグルとマスクを外そうとしたが、スクリーンを破ったまま数本の霊流に身体を呪縛されて動けなくなった。

『お前は……何者だ?』

 必死に声を上げたが、圭介の問いに答えることなく男は石台の女性に向き直り、胸から腹を肉切り包丁で切り裂き、内臓と血が飛び散って床を濡らし、女性の絶叫が地下室に響き渡る。

「ギャー、グギャー」

 その叫び声で誰か分かった。

 被せられた布が顔にピッタリと張り付き、口を開けたまま絶命したのは……二年前失踪した圭介の母だった。

 ぴくぴくと痙攣している左胸の外側には圭介と同じ柘榴の実の痣がある。

 賢士は衝撃で気を失い。そのシーンを最後にして視界は赤い幕に覆われ、ホラーの妄想は消え去った。

 壁にもたれて座り、全身にびっしょりと脂汗をかき、血霊チダマの逆流で赤くなった瞳で虚ろな表情をして宙を見上げ、地の底から湧き上がる血の涙を暫く流していた。
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