血と肉とあばら骨のキーボード

田丸哲二

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第二現象・柘榴の花と母の首

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 六月下旬の梅雨の時期、松田圭介は黒いジャケットを着て小さなバッグを持って横浜線の電車で八王子に行き、特急列車に乗り換えて甲府駅に降り立つと、グレーのワンボックスカーで迎えに来ていた安堂刑事に声を掛けられた。

「圭介、久しぶりだな。いやに逞しくなったじゃねーか。大学一年生だって?」

「ええ、安堂さん。ご無沙汰です」

 田舎町で難解な事件があると必ずと言っていい程このベテラン刑事が県警から派遣される。窃盗、詐欺、選挙違反などが珍しい過疎化した町で恐ろしい殺人事件が起きるとは誰も思っていない。

「まさかこんな再会で残念だが、警察を恨むなよ。母が失踪して二年程か?」

「ええ、そうですね。もう諦めてはいたのですが」

 圭介は助手席に乗ってそう懐かしそうに話したが、正直もう会いたくはなかったし、当分田舎に帰るつもりもなかった。

 安堂刑事とは因縁があり、科学的に解明不能な事件があると相談される事があったが、母が失踪してからは関わっていない。

 しかし、今回は自分に纏わる事件である。

 母は若年性アルツハイマー型認知症が進行して、施設から抜け出して森で行方不明になって数か月捜索したが見つからず、祖母も圭介も生きてはいないだろうと諦めた。

「これで殺人事件になったな」

 安堂刑事はハンドルを握りながら、顔を顰めて助手席の圭介に投げ掛けた。

 それは一昨日の早朝、実家の古い家の庭に段ボール箱が置いてあった事から始まっている。畑に行こうとした祖母がそれを見つけ、包まれた新聞紙を開けると炭のように真っ黒になった人間の頭部が出てきた。

「柘榴の花が添えられていた事をどう思う?」

 贈り物には柘榴の紅い花が添えられていた。その鮮やかな紅色と黒く燻された首とのコントラストが圭介の頭の中でイメージされる。

「最近の出来事を含めて、犯人は俺に興味を持っている気がします」

 圭介は死神に取り憑かれたような気分だった。

「それで、警察の考えは?」

「検視の分析では失踪した直後に殺害され、黒く変色した木片の焦げ跡から、死後焼かれた可能性があるという事だ」

「最悪ですね。正直に言うと、大学に入学してあの町から解放された気分だったのですが」

 圭介はそう嘆いて、車窓の風景に視線を漂わせた。

 甲府駅から一時間ほど走ると、山梨県の外れにある野山に囲まれた人口二千人程の南都留部柘榴町に着く。

 幼い頃にそこで恐ろしい事件があり、圭介はそのトラウマに悩まされて自分の不思議な能力をでき得る限り封印してきた。

 しかし、左の上腕にある痣が浮き上がってひりひりしている。
 
『勝手に妄想を映し出すな』

 薄曇りの空からポツポツと雨が降り始め、ワイパーが動いて濡れたフロントガラスを拭う。すると、その水滴が砂粒になり、目の前が一瞬にして埋もれたような感覚になって、母の手がワイパーに重なって砂を掻き出した。

『圭介、圭介……』

 指の爪が割れ、血が吹き出して砂に混じっても、母は必死に土の中に埋もれた幼い圭介を掘り起こそうとしている。
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