血と肉とあばら骨のキーボード

田丸哲二

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第三現象・消えたあばら骨

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 その夜、圭介は夕食を食べ終えると子猫を連れて二階の部屋に行き、封印していた過去をできる限り思い起こした。

『確か、五歳だった……』

 圭介は目隠しをして誰かに手を引かれ、ここで待っていれば母が迎えに来ると言われたが、穴の中に落とされて生き埋めにされた。

『その後は悪夢の記憶しかない』

 地中から斬り殺された死者の腕が何本も伸び出て、足や腕や髪を掴まれ、暗黒の世界へ引き摺り込まれる。昔、柘榴の木の下に生贄にされた死霊が、圭介を血の海に沈ませて溺れさせようとした。

 鬼の形相で土を掘る母の顔が、その死霊たちの血塗れの顔と重なり、恐怖の対象になってしまった。

『そう言えば、母も何かに怯えていた』

 精神的に危うくなって、圭介が中学三年になると若年性アルツハイマー型認知症が進行し始めた。

 介護施設に入っていた母が徘徊して失踪したが、もし拉致されて殺害されたとしたら?首のない遺体を発見するのはそれほど難しい事ではない。

『犯人は首を贈り、俺を誘っている』

 圭介は子猫を抱き寄せてベッドから起き上がると、美加に電話して母の遺体探しの協力を頼んだ。

「美加、明日の朝、車で迎えに来てくれ。子猫と一緒に母の捜索を始める」

「歌姫のメンバーも連れて行って良いか?オタクだけど、町の事にも詳しいから役立つと思うぜ」

「もちろんバンドを結成しよう。これから呪いの戦いが始まり、それを母の遺体が指し示すと思っている。仲間は大歓迎だ」

 壁側の勉強机の上にカガミラノの腕時時計が置いてあり、その横に座った子猫が圭介にアドバイスしているように思えた。

『独りではなく、仲間と戦うのよ』

 翌日の朝、歌姫のメンバーが再結成されたが、美加が連れて来た二人は小太りのオカルトオタクだった。

 青いジャージを着てボサボサの髪に無精髭、ダウンジングのL字型の針金を持ち、これで地中に埋められた死体を探索できると、薄気味悪い笑顔を浮かべて圭介の前に現れた。

 数珠を腕に巻き、首には十字架のペンダントをぶら下げている。

「宜しくお願いします」

「二人とも、圭介をヒーローとして崇めているんだって」

「ウサポンって呼んでください」

「俺、ボンタです」

 宇佐美裕也、三十歳。大塚和人二十九歳。二人とも独身で、この地の歴史と呪術を研究し、圭介が霊能力者である事も知っていて憧れの存在だった。

「こちらこそ、よろしく。それじゃ、まず病院に寄ってくれ。安堂刑事に母の首を見せて欲しいと頼んである」

「俺らも見れるんすか?」

 宇佐美と大塚が嬉々としてピンクのラパンの後部席に乗り込み、美加が苦笑いして圭介が抱いていた子猫の頭を撫でる。

「頼むよ、マミー」

 昨夜美加に子猫が案内してくれる筈だと伝えると、勝手に「マミー」と名付け、バンドのマスコットガールになった。
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