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第一章・幻の小説
霊界のニューウェーブ
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現実の世界で連が面談室で気絶した事が学校中の噂になり、ネットの世界では幻の小説の噂が現実になる。この時、連を中心にして霊界のニューウェーブが巻き起こったが、本人を含めて関連性を疑う者はいない。
この学校の空間に流出したスピリチュアルな波長を察知し、暗黒のチューナーのダイヤルを微調整して、この学校に出現した霊界の入り口に割り込もうとする邪悪な者が存在した。
連にコンタクトした少女を追い、闇の書物を流布しようと試みる。暗黒と光りの波が押し寄せ、熾烈な戦いが始まる兆候だったのである。
「連が面談室で気絶したらしいよ」
「えっ、なんで?」
「分からない。芝居って、噂もあるけど」
「連だったら、やりかねないわね」
「でも、保健室に運ばれたのは真実。景子先生も顔面蒼白だったらしい」
体育館に隣接した道場で剣道の防具を外して汗を拭う文子にマネージャーが声を掛け、文子は早目に練習を切り上げて保健室に向かった。
しかし連はもう帰ったと保健室の先生に言われ、鞄からスマホを出すとLINEに着信があり、久美子と順也からコメントがあった。
[文ちゃん。一大事だ。]
[今、Bi-húnにいる。]
[連のやつ。仮病だったんだろ?]
文子が眉間に皺を寄せてそう書き込むと、すぐに久美子から返信がある。
[とにかく、Come on]
それで文子は急いで学校近くのカフェ『Bi-hún』に向かった。そこは四人の溜まり場で、ここでよくネット小説の話をしたり、将来の夢を語ったりしている。
特に連はマスターの高木博之とも仲が良く、バラエティーなビーフン料理のレシピを教わり、春休みにはバイトをして店員の遠藤由美からも可愛がられた。
「幻の小説が復活したんだって?」
文子は店に入って来るなり順也と久美子に質問した。下駄箱で靴を履き替えて学校の玄関を出る時、スマホで小説サイトの掲示板の書き込みを見て知った。
「そうなんだよ。連が面談室で気絶した時、あの小説が投稿されてたんだ」
「変でしょ?」
連は窓側の席でヘッドホンをして、澄ました顔でiPhone9でマイミュージックを聴き、テーブルには氷の溶けたアイスコーヒーのグラスが置かれている。
順也と久美子の質問攻めにあい、リラックスモードに入ったのだ。
隣の席で順也と久美子が小皿のビーフンを分け合い、文子は連と向かい合わせの席に座って手を顔の前に出して指を鳴らした。
「まさか偶然?連、気絶って演技じゃなかったのか?」
文子に睨まれるのを連が横目で見て、ヘッドホンを少し外して聴こえないフリをして微笑む。
「ふざけないで答えなさい。心配したんだからね」
「それが、憶えてないらしいんだよ」
「ビリビリって痺れたのは嘘じゃないって」
「ふーん」
文子は納得してなかったが、連がヘッドホンを外してテーブルの上に置き、真剣な表情で「レン、嘘つかない」と呟き、この話題を終わらせようとする。
「ノイズは消え、森の湖畔は静まり返った。とにかく僕は元気だよ」
実際、連は瞼の裏に見たパスワードの記憶もなく、頭の中にデーターが流れ込みiPhoneが再起動して、小説サイトに投稿した事も知らなかった。
しかしiPhoneの設定を見れば、この世界には存在しないWi-Fiスポットに接続され、連の身体に霊的なエネルギーが流出した事に気付いただろう。
文子が部活の練習後に好んで飲んでいるレモネードをカウンター内でマスターが作り、店員の由美がテーブルに運んで、空いたグラスとお皿を片付ける。
カフェは白を基調としたインテリアで、窓には観葉植物がガラスから射す陽光を柔らかく遮って、シンプルでナチュラルな雰囲気に若者からミドル層まで人気があった。
「レンくん、小説の方は上手くいってる?」
「もちろん」
遠藤由美は大学生で連に恋愛相談された事があり、名前は伏せていたが、きっと文子の事で悩んでいるのだと思った。
『男女の友情は永遠か?恋心で友達関係を壊したくないし、自由を束縛されるのも嫌なんだ』
由美は友情にも恋にも永遠なんて存在しなくて、物語の中にだけレンくんの自由があるんじゃないの?と答えた。
「見て。もの凄い勢いで閲覧数が上がっている」
「このままランキング1位なるのは確実ね」
「大賞も取るって掲示板に予想が出てる」
そう話す順也と久美子に連が指を立てて横に振り異議を唱えた。文子が登場した事で発言にスパイスを効かせたくなる。
「気が早過ぎないか?ダイヤモンドの原石が此処にいる。最優秀賞を取るのは僕であり、もうすぐ輝き出しますよ」
「ふーん、石炭じゃなかったんだ。でも、元気そうで良かった。心配して損したけどさ」
文子が笑顔でレモネードを飲み、カウンターでマスターと由美が談笑し、順也と久美子はスマホで小説サイトを開いて幻の小説を調べている。
「作者の名前、Len & Momoeって、共作ってことかな?噂になった時は作家名Mだった筈だけど」
「レンとモモエ?」
「連じゃないよね」
「そんな才能ないって」
「ジョンとヨーコみたいですね」
ビートルズ好きのマスター高木博之が順也と久美子に声をかけて、『All You Need Is Love』を店内に流し、「この曲好き」と由美が呟き、連と文子、順也と久美子も耳を傾けて心をメロディーに乗せた。
この学校の空間に流出したスピリチュアルな波長を察知し、暗黒のチューナーのダイヤルを微調整して、この学校に出現した霊界の入り口に割り込もうとする邪悪な者が存在した。
連にコンタクトした少女を追い、闇の書物を流布しようと試みる。暗黒と光りの波が押し寄せ、熾烈な戦いが始まる兆候だったのである。
「連が面談室で気絶したらしいよ」
「えっ、なんで?」
「分からない。芝居って、噂もあるけど」
「連だったら、やりかねないわね」
「でも、保健室に運ばれたのは真実。景子先生も顔面蒼白だったらしい」
体育館に隣接した道場で剣道の防具を外して汗を拭う文子にマネージャーが声を掛け、文子は早目に練習を切り上げて保健室に向かった。
しかし連はもう帰ったと保健室の先生に言われ、鞄からスマホを出すとLINEに着信があり、久美子と順也からコメントがあった。
[文ちゃん。一大事だ。]
[今、Bi-húnにいる。]
[連のやつ。仮病だったんだろ?]
文子が眉間に皺を寄せてそう書き込むと、すぐに久美子から返信がある。
[とにかく、Come on]
それで文子は急いで学校近くのカフェ『Bi-hún』に向かった。そこは四人の溜まり場で、ここでよくネット小説の話をしたり、将来の夢を語ったりしている。
特に連はマスターの高木博之とも仲が良く、バラエティーなビーフン料理のレシピを教わり、春休みにはバイトをして店員の遠藤由美からも可愛がられた。
「幻の小説が復活したんだって?」
文子は店に入って来るなり順也と久美子に質問した。下駄箱で靴を履き替えて学校の玄関を出る時、スマホで小説サイトの掲示板の書き込みを見て知った。
「そうなんだよ。連が面談室で気絶した時、あの小説が投稿されてたんだ」
「変でしょ?」
連は窓側の席でヘッドホンをして、澄ました顔でiPhone9でマイミュージックを聴き、テーブルには氷の溶けたアイスコーヒーのグラスが置かれている。
順也と久美子の質問攻めにあい、リラックスモードに入ったのだ。
隣の席で順也と久美子が小皿のビーフンを分け合い、文子は連と向かい合わせの席に座って手を顔の前に出して指を鳴らした。
「まさか偶然?連、気絶って演技じゃなかったのか?」
文子に睨まれるのを連が横目で見て、ヘッドホンを少し外して聴こえないフリをして微笑む。
「ふざけないで答えなさい。心配したんだからね」
「それが、憶えてないらしいんだよ」
「ビリビリって痺れたのは嘘じゃないって」
「ふーん」
文子は納得してなかったが、連がヘッドホンを外してテーブルの上に置き、真剣な表情で「レン、嘘つかない」と呟き、この話題を終わらせようとする。
「ノイズは消え、森の湖畔は静まり返った。とにかく僕は元気だよ」
実際、連は瞼の裏に見たパスワードの記憶もなく、頭の中にデーターが流れ込みiPhoneが再起動して、小説サイトに投稿した事も知らなかった。
しかしiPhoneの設定を見れば、この世界には存在しないWi-Fiスポットに接続され、連の身体に霊的なエネルギーが流出した事に気付いただろう。
文子が部活の練習後に好んで飲んでいるレモネードをカウンター内でマスターが作り、店員の由美がテーブルに運んで、空いたグラスとお皿を片付ける。
カフェは白を基調としたインテリアで、窓には観葉植物がガラスから射す陽光を柔らかく遮って、シンプルでナチュラルな雰囲気に若者からミドル層まで人気があった。
「レンくん、小説の方は上手くいってる?」
「もちろん」
遠藤由美は大学生で連に恋愛相談された事があり、名前は伏せていたが、きっと文子の事で悩んでいるのだと思った。
『男女の友情は永遠か?恋心で友達関係を壊したくないし、自由を束縛されるのも嫌なんだ』
由美は友情にも恋にも永遠なんて存在しなくて、物語の中にだけレンくんの自由があるんじゃないの?と答えた。
「見て。もの凄い勢いで閲覧数が上がっている」
「このままランキング1位なるのは確実ね」
「大賞も取るって掲示板に予想が出てる」
そう話す順也と久美子に連が指を立てて横に振り異議を唱えた。文子が登場した事で発言にスパイスを効かせたくなる。
「気が早過ぎないか?ダイヤモンドの原石が此処にいる。最優秀賞を取るのは僕であり、もうすぐ輝き出しますよ」
「ふーん、石炭じゃなかったんだ。でも、元気そうで良かった。心配して損したけどさ」
文子が笑顔でレモネードを飲み、カウンターでマスターと由美が談笑し、順也と久美子はスマホで小説サイトを開いて幻の小説を調べている。
「作者の名前、Len & Momoeって、共作ってことかな?噂になった時は作家名Mだった筈だけど」
「レンとモモエ?」
「連じゃないよね」
「そんな才能ないって」
「ジョンとヨーコみたいですね」
ビートルズ好きのマスター高木博之が順也と久美子に声をかけて、『All You Need Is Love』を店内に流し、「この曲好き」と由美が呟き、連と文子、順也と久美子も耳を傾けて心をメロディーに乗せた。
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