ゴーストに恋して

田丸哲二

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第四章・暗黒エネルギーの流出

リアルワールドの危機

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 翌朝、連は『ミレフレ』の小説の素晴らしさと、MOMOEと触れ合ったドキドキとワクワク感で、朝焼けの空をふわふわと浮かんでいる気分だった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 洗面所の鏡の前で口の周りを泡だらけにして歯磨きをしている連を見て、妹の佳子カコが心配して声をかけたが、笑顔で泡を垂らす兄に呆然とする。

「かなり変ですよ」

「いつもでしょ?」

 ダイニングテーブルで娘と母が話すのを父が新聞を読みながらコーヒーを飲む。普段と変わらぬ朝の風景であるが、佳子カコが意味深な発言をした。

「真夜中に物音がしたのよ。それにお兄ちゃん、誰かと話しているみたいだった」

 佳子の部屋は二階にあり、連の楽しそうな声が聴こえて不審に思った。

「まさか、彼女を連れ込んだのか?」

「やだー、お父さんったら」

 ある意味、父宏太の推理が的中したがゴーストとは想定してない。母道子に至っては「私に似て空想好きなのよ」と笑っている。

 連は顔を洗って部屋に戻り、制服に着替えてiPhoneの画面をチラッと見て、心の目覚ましが鳴ったように晴れやかな顔付きになった。

 鞄を持って階段を駆け下り、家族が不審な表情で観察しているのも気にせず、ダイニングテーブルに置かれたパンとバナナを口に放り込んで慌ただしく玄関へ向かい、靴を履くと両手を広げて外へ飛び出す。

『夢じゃない。ファンタジーは存在する』

 通りを軽快に歩きながらiPhoneを手に取り、画面にコメントがふきだしになって表示されているのを見返して連がクールに微笑む。

[レン、ちょっと消えるね。]

『音声アシスト機能も使えるのか?』

 連は冷静さを取り戻して、想像と現実の融合を素直に受け入れた。SiriがMOMOEに改名したと思えばグッド。不思議な現象であっても、自分が見て触れて感じた事を信じよう。

『気分はガリレオ。学術的伝統の殻を打ち破らなければ、新しい叡智を得られる筈がないのだ』

「それにゴーストは消えるのが特技」

 iPhoneの画面にそう呟き、ポケットに戻してふとモモエが夜空に消える前に、「見つかるとヤバいから」と言ったのを思い出す。小説『ミレフレ』のラストシーン。少女が不安そうに崩れる城塞を振り返ったのも気になった。

『リアル・ワールドも危ういのか?』

 学校前の通学路で連は文子と順也と久美子と合流し、一緒に五条霧笛学園の門を通ったが、金曜日に直立不動で連を睨む指導員、江国先生の姿がない。

 その日、学校での授業は普段通り始まり、連もいつになく勉強に集中して、静かに席に座って周辺の視線を感じながら、友だちと担任の景子先生もケムに巻く。

『シークレット・モード』

 わるいけど今はまだ話せない。連は本能的にMOMOEと相談してから、オープンにすべきだと考えた。

『それが人間がゴーストに対する礼儀』


 そして午後の休憩時間、教員室で長年無欠勤の江国が体調を崩して休んでいる事が話題になり始め、空席のデスクを見ながら景子先生が隣の夏目先生に話しかけた。

「珍しいですわね?」

「ええ、病気になるのは不摂生だと言ってた人ですから、余程の事なのでしょう」

「私、お見舞いに行って来ましょうか?」
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