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第七章・洗脳された信者
街に増える洗脳者
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剣道着姿で頭に手拭いを巻いた文子が和室の畳の上で座禅を組み、左側に竹刀を携え、正面にスマホを置いて画面に念を送り、『霊感がアップしたと』という連のLINEコメントに満足している。
[レンに気合い、全力で送ってた。波動なみのフミパワー。]
[フミちゃん。大丈夫?熱ない?]
[まー、僕らもやってたけど。まさか、フミちゃんまで?」
久美子と順也は文子らしくないコメントに心配したが、連は小学校の頃の文子に戻ったみたいで[サンキュー]と笑顔でスタンプを押し、それを見た文子は視線を下に向けて照れている。
その時、LINEグループに入った景子も高級住宅街の通りを歩きながら、スマホをバッグから出して連のコメントを見て驚き、慌てて疑問を書き込んだ。
[じゃー江国先生は?まさか、学園長と入れ替わっているって事?]
景子は童話の投稿を頼まれ、渡された本が手引書に変貌した件で直接会って確認しようと思い、学園長の家に寄り道する事にした。
尊敬する湊香奈江が自分を利用したとは思えず、洗脳されたとしても強い精神力で克服すると信じたかった。
「景子先生。今どこ?」
「ちょっと気になって、学園長の家の近くにいる。連くん。その情報、本当なの?」
連から電話があり、景子は連とスマホで話しながら通りに立ち止まり、高台に建つ豪邸を見上げ、上階の窓からこっちを見下ろす学園長の姿に恐怖した。
顔も背格好も湊香奈江と同じだが、逆光のせいか眉間に皺を寄せ、陰湿な笑みを浮かべて景子を睨み蔑んでいる。
「LINEに書いた質問だけど。多分、学園長が江国先生なんだと思う。つまりチェンジ」
「そうみたいね。また後で連絡します」
景子はそう言って電話を切り、踵を返して通りを早足で歩き出し、坂道を下って高台の豪邸から遠ざかった。
その時、湊家の祖父母が庭先に出て敵意のこもった視線を景子に向け、近所の玄関から出て来た若者にも同じ気配を感じた。
『江国先生が学園長に成りすまし、私を騙して禁断の書を広めようとした。しかも家族と近所の住民を洗脳している?』
江国は小走りで逃げる景子を窓から眺めて信者に指示を出し、祖父母と三人の若者が小さく頷いて庭から通りに出て歩き出す。
景子は焦って躓き、立ち上がると全速力で走り出し、追って来る信者たちを振り切りって角を曲がった。
「大丈夫。暗黒の書を見なければ平気だわ』
息を整えて、そう自分に言い聞かせて歩き出すと、目の前に駅前の書店で手引書を万引きした田代が現れ、魔文字の浮き出た右手の人差し指と中指でオデコをツンと突かれた。
「みっけ~」
田代雅志は住まいとは逆方向だったが、体内に潜む魔文字が江国に誘われて足がこっちへ向き、偶然にも数十分前に注意された景子に出会したのである。
「邪魔しないで」
景子は腕を振り払って田代の横を走り抜けたが、古代ヘブライ語の二文字が景子のオデコに貼り付き皮膚にめり込んでゆく。
「フッフ……」と田代はその場に佇み、笑みを浮かべて景子の後ろ姿を眺め、追って来た三人の若者と老夫婦が田代に歩み寄り、無表情で景子を見送った。
信者同士は闇の波長で通じ合い、モノクロームの視界を共有している。しかし洗脳された者にも個人差があり、意識の奥で争っている者と崇拝する者がいて、田代は有能で熱心な信者だと言えた。
『田代ね?』
『はい、伝道者の江国さまですね?』
能力の高い江国と田代は暗黒の波長で意思を通じ合せて会話し、江国の招待を受けて祖父母と若者たち一緒に高台の豪邸へと歩き出す。
江国は田代の素質を感じて司祭さまに紹介し、第二の伝道者として迎えるつもりだったが、既に司祭は黒い蛾を飛ばして田代にコンタクトし、魔王に最適な身体が見つかったと喜んでいた。
『言は神と共にあり、言は肉体となり宿るか……』
ダーク司祭が『ヨハネによる福音書』の一節を引用し、魔王の降誕を示唆する呟きが江国の頭の中にも聴こえる。
[レンに気合い、全力で送ってた。波動なみのフミパワー。]
[フミちゃん。大丈夫?熱ない?]
[まー、僕らもやってたけど。まさか、フミちゃんまで?」
久美子と順也は文子らしくないコメントに心配したが、連は小学校の頃の文子に戻ったみたいで[サンキュー]と笑顔でスタンプを押し、それを見た文子は視線を下に向けて照れている。
その時、LINEグループに入った景子も高級住宅街の通りを歩きながら、スマホをバッグから出して連のコメントを見て驚き、慌てて疑問を書き込んだ。
[じゃー江国先生は?まさか、学園長と入れ替わっているって事?]
景子は童話の投稿を頼まれ、渡された本が手引書に変貌した件で直接会って確認しようと思い、学園長の家に寄り道する事にした。
尊敬する湊香奈江が自分を利用したとは思えず、洗脳されたとしても強い精神力で克服すると信じたかった。
「景子先生。今どこ?」
「ちょっと気になって、学園長の家の近くにいる。連くん。その情報、本当なの?」
連から電話があり、景子は連とスマホで話しながら通りに立ち止まり、高台に建つ豪邸を見上げ、上階の窓からこっちを見下ろす学園長の姿に恐怖した。
顔も背格好も湊香奈江と同じだが、逆光のせいか眉間に皺を寄せ、陰湿な笑みを浮かべて景子を睨み蔑んでいる。
「LINEに書いた質問だけど。多分、学園長が江国先生なんだと思う。つまりチェンジ」
「そうみたいね。また後で連絡します」
景子はそう言って電話を切り、踵を返して通りを早足で歩き出し、坂道を下って高台の豪邸から遠ざかった。
その時、湊家の祖父母が庭先に出て敵意のこもった視線を景子に向け、近所の玄関から出て来た若者にも同じ気配を感じた。
『江国先生が学園長に成りすまし、私を騙して禁断の書を広めようとした。しかも家族と近所の住民を洗脳している?』
江国は小走りで逃げる景子を窓から眺めて信者に指示を出し、祖父母と三人の若者が小さく頷いて庭から通りに出て歩き出す。
景子は焦って躓き、立ち上がると全速力で走り出し、追って来る信者たちを振り切りって角を曲がった。
「大丈夫。暗黒の書を見なければ平気だわ』
息を整えて、そう自分に言い聞かせて歩き出すと、目の前に駅前の書店で手引書を万引きした田代が現れ、魔文字の浮き出た右手の人差し指と中指でオデコをツンと突かれた。
「みっけ~」
田代雅志は住まいとは逆方向だったが、体内に潜む魔文字が江国に誘われて足がこっちへ向き、偶然にも数十分前に注意された景子に出会したのである。
「邪魔しないで」
景子は腕を振り払って田代の横を走り抜けたが、古代ヘブライ語の二文字が景子のオデコに貼り付き皮膚にめり込んでゆく。
「フッフ……」と田代はその場に佇み、笑みを浮かべて景子の後ろ姿を眺め、追って来た三人の若者と老夫婦が田代に歩み寄り、無表情で景子を見送った。
信者同士は闇の波長で通じ合い、モノクロームの視界を共有している。しかし洗脳された者にも個人差があり、意識の奥で争っている者と崇拝する者がいて、田代は有能で熱心な信者だと言えた。
『田代ね?』
『はい、伝道者の江国さまですね?』
能力の高い江国と田代は暗黒の波長で意思を通じ合せて会話し、江国の招待を受けて祖父母と若者たち一緒に高台の豪邸へと歩き出す。
江国は田代の素質を感じて司祭さまに紹介し、第二の伝道者として迎えるつもりだったが、既に司祭は黒い蛾を飛ばして田代にコンタクトし、魔王に最適な身体が見つかったと喜んでいた。
『言は神と共にあり、言は肉体となり宿るか……』
ダーク司祭が『ヨハネによる福音書』の一節を引用し、魔王の降誕を示唆する呟きが江国の頭の中にも聴こえる。
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