ゴーストに恋して

田丸哲二

文字の大きさ
58 / 84
第八章・狙われた学園

小説『ゴーストに恋して』2

しおりを挟む
 意識が電波に乗ってネットを飛び、夢から覚めたように現実に戻ると、僕はサークルの仲間にその事を伝え、ゴーストを救出する方法はないか相談した。

 三人とも小学校の頃からの友だちで、ファンタジー小説に魅了され、中学生になると小説サイトに投稿するようになった。

「少女の部屋が一瞬だけ見えたけど、名前しかわからない」
「モモエ?でも、名前だけでは探しようがないよ」
「電撃のショックでゴーストになって、小説サイトで遊んでいるなんて誰も信用しない」
「読んだ者にしか、この感情は理解できないだろうな?」

 学校でも休憩時間になるとゴーストの話をして、放課後は町の中心地にある市の図書館に集まって対策を練る。

「空想の塗り絵だけが、少女の楽しみなんだ」
「想像がリアルに感じたのは想いが強いから」
「しかし、なんて父親だ。酷すぎる」
「最低な父親から、ゴーストを助けよう」
「でも、どうやって?あれから見てないだろ」

 初めて幻の小説に遭遇してから一週間が過ぎ、『ミレフレの塗り絵』はサイトから消え、僕もゴーストにコンタクトする事はできず、仲間もモモエの身を心配した。

『まさか……ほんとのゴーストに?』


 土曜日の午後、いつものように僕らが図書館に集まっていると、派手な服を着てベールを被った老婆に声をかけられた。

「ふーん、面白い話をしているね?」
「はい。リアルでファンタジーな物語です」

 高台の古い屋敷に住む老婆を町の年寄りはオカルト小説家だと笑ったが、世間付き合いをしない老婆の実態を知る者はいない。

「ネットのゴーストかい?」

 僕らは陰で『魔女先生』と呼び、図書館に現れる頃に閲覧テーブルに集まり、興味を惹くように聴こえるか聞こえないくらいのボリュームで喋り、話題に入るのを待っていた。

「ええ、モモエという少女です」
「幻の小説がネットにあり、少女が見て触れると鮮やかでリアルな世界に変わる」
「でも、少女は部屋に囚われていて」
「スタンガンだろ?これでも地獄耳でね。殆ど盗み聴きして理解してるさ」

 そう言って魔女先生は微笑み、ある方法を提案したが、試すのは自己責任だと言って念を押し、ある小説のストーリーを引用して話し始めた。

『ゴーストにはゴースト』と切り出した魔女先生は後日、白髪のカツラとメイクを取って有名な美人ファンタジー作家である事を僕らに明かしたが、それはずっと先の事である。


「……霊能探偵が消えた少女を探す為に家族を森の中の古いお屋敷に集め、リビングの広い円卓を囲んで霊的な実験をした」

 魔女先生の語りは臨場感があり、幽霊屋敷の情景が目に浮かび、僕らは息を呑みながら図書館のテーブルの上に電圧を調整する装置を思い浮かべた。

「この機械は?」
「まさか、スタンガンの代わり?」
「心配ない。至って安全ですから」
「蜘蛛の巣、張ってるし」
「旧日本軍が拷問に使っていた機械だからね。これで電流に乗って、ネットをランデブーしましょう」

 僕らは登場人物になったつもりで質問し、魔女先生も話を合わせて付き合ってくれたが、それくらいこの場に居合わせたメンバーはファンタジーを信じていた。

 そして日曜日の夜、各自が自主的にスタンガンや電圧機器を用意して体に電流を流し、モモエのゴーストにコンタクトを試みた。

『凄い。みんな成功したんだね?』
『友だちを信じてるからね』
『それと魔女先生のおかげです』
『じゃー、ゴーストを探索しようか』

 四人の中学生と魔女先生は波長のチャンネルを合わせ、ほぼ同時期に意識がネットワークに入り込んでアバターを形成した。

『カッコいい』とみんなで笑い、僕らは深夜0時にネットサイトを飛び回り、幻の小説とモモエの痕跡を追跡し、三日後に『ミレフレの塗り絵』を発見してモモエの部屋に入った。

 …………(省略)このシーンから想像を超える展開となり、数年後を経て恋物語に進展してゆく。

『僕は今でも、ゴーストに恋をしている……』

 end.
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...