レイロク・猫のミュージック

田丸哲二

文字の大きさ
4 / 6

第四楽章・希望

しおりを挟む
 涼子と友太は猫の群れを引き連れて地下鉄の駅を出ると、三ツ沢上町の公園前にあるマクドナルドに入り、テラス席に座って電車の中で見た幻想的なシーンを話し合った。

「父が海に流されるのを見たよ……。きっと、港でフィールドレコーディングをする父の写真を見たからだね」

 猫たちは周辺に集まってポテトとナゲットとドリンクを白いテーブルの上に置く二人を見守り、涼子はまだ少し涙目で、電車の最後尾の車両の床に座って目を閉じ、ヘッドホンから聴こえる波の音に耳を澄ますシーンを思い起こす。

「フラッシュバックみたいに、父が学校の子供たちの歌や港の人達の話しにマイクを向け、和やかに笑ってた」

「オレには津波しか見えなかった。たぶん、心の中にあるイメージが蘇ったんだろうな」

「もしかして」

 涼子はふとテラス席の周辺で戯れる猫たちに視線を向けて、この子たちの死を想像した。黒猫は三毛猫とテーブルの下に居たが、涼子の想いを感じて隣の席に飛び上がってちょこんと座る。

「君たちもあの場所で亡くなったの?」

「うん。オレもそう思った。この猫たちはあの震災の津波で亡くなった亡霊なんだ」

「おばあちゃんが呼んだんだね。お父さん亡くなってから、おばあちゃんおかしくなったから」

「認知症だっけ?」

「うん。猫と散歩して、鳴き声に合わせて歌ったりしてた。猫を私と間違えて、話したりするんだよ」

 それを思い出したのか、涼子は涙目で笑って祖母と過ごした楽し日々を懐かしむ。

 友太はあの悲惨な光景を思い出し、暗闇の中へ落ち込みそうだったが、涼子の笑顔を見て水の底から心が浮き上がった。

『涼子は猫みたいに可愛い』

 広角を上げて鼻をツンとさせ、少し照れた感じの微笑みが悲しい心を救う。

 友太はあの日、学校の友達と丘の上へ逃げて、津波が去った後に家族全員が死んだ事を知った。そしてこっちの親戚に世話になり生活しているが、自分だけが生き残った罪悪感からずっと抜け出せずにいる。

『でも、今初めて生きてて良かったと思った』

 そう心の中で呟くと、涼子がテーブルを手で叩いてドリンクを飲み干し、リュックに残ったポテトとナゲットを詰め込んだ。

「そうと分かったら、ちゃんと最後までやらなきゃね」

 友太は涼子に恋心を読まれたかと驚き、疑問符の付いた表情で見惚れてしまう。

「なにボケーっとした顔してんのよ。君も手伝うんだぞ。分かってる?」

「うん。それで……何を?」

「だから、ミュージックよ。猫の亡霊のメロディーを私たちで奏でてあげるの」

 涼子は友太を睨んで力強く命令し、猫たちも涼子に加勢するように間近に集まり、まるで人間の言葉が分かるように睨む、黒猫も三毛猫もアビシニアンも友太の答えを待った。

「分かったから。そんな見るなよ」

 そう言い終える前に猫たちはぷいっと友太に背け、涼子と一緒に立ち上がって歩き出したので、友太は椅子からコケそうになる。

「じゃー、また明日ね。君がボケーってしてる間に、そのタブレットに私の連絡先入れといたから」

 友太は拍子抜けした感じで慌てて席を立ち、「それじゃ、また」と手を振って猫の群れを引き連れて去って行く涼子を見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

処理中です...