あふれる愛に抱きしめられて

田丸哲二

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帰郷と再会

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 数日後、紗織は故郷に住む神野洋介に逢いに行くことになった。新幹線のグリーン車の切符を宴会の最後に渡されて、みんなから結婚する時は呼んで欲しいと懇願されたからである。

 もちろん紗織は結婚はあり得ませんと釈明したのだが、みんな雨女と虹を架ける男が結ばれると望み、雨上がりの青い空を思い浮かべた。


「私は僅かな人を助けただけで、大雨が降って亡くなった人は沢山います。被害妄想だって言われるけど、雨女の悲しみで私の心は濡れそぼり、渇いた頃には砂埃と異臭が漂っている。だから私は幸せな結婚はできない」

 紗織は集まってくれた人々に最後にそう言って謝り、プレゼントされたチケットを無駄にする訳にもいかず、数年振りに帰郷すると約束した。


 長野の千曲川のほとりに神野洋介は住み、去年の台風で被害にあってから、何故かそれを機に雨女を捜し始め、紗織を罠にかけて呼び寄せた。

『きっと、雨のめぐり逢いが好きなんだ。彼は雨の日に何度かプロポーズし、抱きしめられた私が別れを告げるパターンが続いている』

 そんな過去の別れのシーンを思い起こし、東京駅から新幹線に乗り、夕方には長野駅に着いてホームから空を見上げると雨が降ってきた。

『いつも通りの情景が私を待ち受け、彼も疲れ切った雨女が帰って来たと空を見上げているだろう……』
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