亡霊サミット

田丸哲二

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第一章・重要機器を巡る争い

重要機器の極秘事項

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 亡霊は死の苦痛と過去の哀しみを映像記憶として魂に残留させ、傷と血のイメージに敏感であり、魂の消滅に強い恐怖感を抱くと云われているが、大和拓郎は無感覚の特異体質の持ち主であり霊体改造の適応力があった。

「拓郎って、ドMなんだよ。多重ゴーストとか、そんなカッコよくないから」
「福子が確実に仕留めていれば、こんな真似をしなくてよかったんだ。少しは感謝しろ」
「ごめん。痛くないの?気持ちわる」

 霊波動の熱で腕の傷口は焼きごてを当てたように血が沸騰して瞬時に固まり、隣りの福子が瘡蓋を指でツンツンして調べている。

「それで5分過ぎたけど?」
「ふん、片腕で戦えるのかしら?」
「そっちは片眼でチンチンもヤバいのに、よくそんなこと言えるね?」

 福子が指摘したように、ヴィクトルは左眼を負傷して右眼の瞼にも切り傷があり、股間部分はうっすらと血が滲んで、黒ムカデが進軍した事で生地の損傷も広がっていた。
 
「黒服の損傷が進めば、霊界ゾーンは通れなくなり、霊体を防備する事も不可能になる筈だ。こっちは時限装置を解除し、ホームに帰らせてもらうよ」

 アルミケースを両手で抱き締めた和也が後方に下がり、拓郎と福子を残して逃走する準備を始め、ドミニカは自分以上にヴィクトルの黒服の損傷が激しい事を不安視した。

「No problem. I'll fight」(問題ない。戦うぞ)
「However, aluminum cases cannot be followed」(しかし、アルミケースは追えない)

 ヴィクトルは股間部の皮膚に黒ムカデの歯が刺さり、数分前からむず痒い痛みに神経が逆撫でされ、黒ムカデをコントロールして威嚇させたのも苦肉の策であり、福子という工作員を抹殺する事しか考えてなかった。

『The mission should be prioritized』(ミッションを優先すべきだ。)

(ある意味、福子の爪を立てた急所潰しは黒ムカデを興奮させ、黒蚕が吐き出す糸を縫う歯元が狂って皮膚を食い破り、拷問、打撲、裂傷などに抵抗力のあるヴィクトルにも効果的なダメージになった。)

 股間部を拳で叩いて「Hmm」と気合を入れて冷徹な表情で「C Plan」とドミニカに指示し、左腕のワープ装置に映る座標をタップして後方の空間に亀裂を出現させ、日本の工作員を片眼で睨み付けて極秘事項を暴露し、ドミニカが日本語で補足する。

「The device is not complete. You'll have to destroy it eventually, but at least try your best」(その機器は完成してない。いずれ破壊する事になるが、せいぜい努力しろ。)
「C プランは完成前の爆破。リミテッドシリーズのスタートね」

「なんだよ。逃げるつもり?」と福子が怒り、拓郎がダッシュして空間の亀裂へ向かうヴィクトルを追い、離れた位置で見ていた和也が声を上げて止める。

「よせ、大和。危険だ」

 拓郎は平和主義であり撤退する者を追う性格ではなかったが、ウクライナの使者・ユージンの魂を抹殺したヴィクトルは許せなかった。しかし、霊界ゾーンに吸い込まれる危険性があり、福子も心配して拓郎の背中を追う。

(KGBの情報は正しく、重要機器が日本に送られたのは霊界サミットに出品し、日本での完成を目指す為であり、各国の亡霊議員は世界の危機を救う計画を決議する。)

 和也は拓郎から視線を外してアルミケースを床に置き、ダイヤルキーを慎重に回して六桁のキー番号を合わせ、時限装置を解除して自分の役割を果たし、仲間が無事に戻る事を願う。

「拓郎。霊界ゾーンは暗黒の海だよ」
「わかっている」

 拓郎は左の手の平を背後に向けて福子を制し、空間の亀裂の手前でヴィクトルに霊波動を打ち込み、黒服の損傷を広げて霊界ゾーンでの自爆を狙う。

 霊界ゾーンの入口付近ではドミニカがヴィクトルを手招くが、ヴィクトルは態と遅れて日本の工作員を暗黒の渦に誘い込む。

「Come on」
「Don't come again」(もう来るな)

 ヴィクトルと拓郎の思惑が交錯して至近距離で顔を突き合わせ、拓郎がノーモーションで左手の掌底しょうていをヴィクトルの下腹部に打ち込み、霊波動が股間部の黒虫を粉砕してヴィクトルの肉体にも衝撃を与えるが、ヴィクトルは両手で拓郎の左腕を掴んだまま霊界ゾーンへ侵入し、ドミニカに続いてワープをスタートさせるが、空間の亀裂が閉じる寸前に福子が拓郎の体を抱え込んで救出するのが見えた。
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