亡霊サミット

田丸哲二

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第一章・重要機器を巡る争い

霊波動の応用

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 ヴィクトルは顔を背けて矢尻の刃先が右眼の角膜を切り裂く寸前に瞼を閉じ、皮膚が切り裂かれて血の滴が飛ぶとすぐに見開き、福子が指先で股間を突くのを覗き込み、膝蹴りを打ち込むが激痛で下半身に力が入らず、よろよろと後退して両手で股間を押さえて悶絶した。

「チャーンス」とガラ空きになったヴィクトルの顔面に福子が回し蹴りを放つが、途中で片足を上げたまま固まり、床を這う黒ムカデの群れからぴょんぴょんと後退した。

 アルミケースを床に置いて爆破解除を試みる和也もダイヤルを回す手を止めて、黒ムカデが這い上るアルミケースから離れ、福子の隣で呆然と立ち竦む。

「動くと噛まれるわよ」

 拓郎の腕を十字固めに決めたドミニカが福子と和也に忠告し、仰向けの拓郎が首を横に向けて、牙を剥く黒ムカデを見て驚嘆した。

「KGBは虫を操れるのか?主人の危機に出陣するとは健気なアイテムだ」

 数分前、拓郎はノーモーションでドミニカの胸の中心に掌底しょうていを打ち込み、胸内に衝撃波を与えたが黒服と分厚い胸筋に発力は吸収され、逆にドミニカに右腕をロックされ、両足で挟み込まれて十字固めに移行された。

「5分も必要なかったわね」
「どうかな?」

 ドミニカは5分で拓郎を再起不能にしてみせると宣言したが、4分と訂正して徐々に力を込めて右腕を折り、日本の工作員に絶望感を与えてからチョークスリーパーで抹殺し、ゆっくりと重要機器の爆発を観賞するつもりだった。

「4 minutes……」

 和也がアルミケースのタイマー表示[27:02]を見て福子に「虫を切り殺せないか?」と囁き、福子は「多過ぎて無理。毒虫かもしれないしね」と断り、両者とも拓郎には見向きもせずに、右眼を細めて睨むヴィクトルの出方を伺っている。

「仲間はあなたを見捨て、時限装置を止める事に躍起になっている」
「いや、信頼だとしたら?」
「強がってないで、苦痛に泣き叫べ」

 腕の骨がギシギシと軋むが拓郎は平然と応対し、ドミニカが激怒して関節を逆側に捻じ曲げたが、拓郎は左の掌底しょうていをその肘関節に当てて霊力を集中して衝撃波を打ち込んだ。

「What?」

 右腕の内部に浸透した発力が細胞を粉砕し、空中に飛び散った塵がドミニカの黒服に降り掛かり、状態を起こした拓郎は空中に浮遊する塵を左手で集めて、床を這う黒ムカデの方に振り撒き、アルミケースへの道を空けて和也が駆け寄って確保した。

「これで形勢逆転。30分以内に時限装置を解除し、ユージンを殺したKGBを闇に葬る」

 片腕を失いながらも立ち上がって、黒ムカデが戻る主人を睨んで宣言し、黒服の損傷部分を手で押さえたドミニカが首を傾げて呟く。

「無感覚な多重ゴーストがいると聞いた事があるけど、自分の腕を消滅させるとはね」
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