亡霊サミット

第一章・重要機器を巡る争い

黒服の攻略

　坂本和也はヴィクトルに胸ぐらを掴まれて宙吊りにされた数分前のシーンを思い返し、『盾になったユージンの霊体が粉々になって空中に飛び散り、その塵が黒服に付着して黒虫を弱らせたのでは？』と推測した。

「福子、急所蹴りのチャンスだぞ。ユージンの残魂ざんこんが殺虫スプレーの役割をしている」

（和也の観察眼は正しく、ユージンはシェフチェンコがヴィクトルに抹殺されるのを目撃し、霊体の塵が黒服に損傷を与えると捉え、股間部に爪痕を残したのである。）

「マジ？でも、気持ち悪いんですけど」

　黒虫は弱っているが踏み付けても潰れず、床を這い回る黒蚕の幼虫二匹とムカデ一匹を和也がピンセットで摘み、硝子瓶に捕獲した。（坂本和也は霊アイテム開発チームの一員であり、霊虫の捕獲道具を常備している。）

「福子。嫌なら相手を変えるか？」
「いえいえ、やりますよ。拓郎はマッチョガールとやりたいんでしょー」
「言い方に語弊があるな。お互い、手合わせした相手の方がやりやすい。坂本さんは時限装置の解除をお願いします」

　アルミケースに仕掛けられた時限爆弾はダイヤルキーの誤作動と、敵に奪われた時を想定してタイムリミットが設定してあり、拓郎に指摘された和也は腕時計を見て確認し、「30分」と告知する。

　ドミニカは『社会の窓』の意味が分からず、自信満々の顔付きで迫る日本の工作員を見て首を傾げたが、ヴィクトルがアルミケースのロック部分にタイマーが表示した事を指し示し、その時に股間部の生地に損傷がある事に気付く。

「It's torn」（破れている）

　ヴィクトルは指摘されて苦笑したが、ドミニカに「B plan」とサインを送り、日本の工作員を倒してアルミケースの爆発を確認するミッションに変更し、霊ゾーンをワープして帰還する事を示唆した。（アルミケースを奪取した場合は霊ゾーンが通過不能になり、中国経由の航空機を手配してある。）

「アルミケースアが爆発したら、困るのはそっちだろ？私たちは手間が省けて助かるよ」
「問題ない。30分以内に解除する」
「じゃ、5分であなたの魂を締め上げて、再起不能にしてみせるわ」

　拓郎はドミニカの宣告を「ふん」と鼻で笑い、截拳道ジークンドーの基本姿勢で軽くジャンプして、ドミニカが上半身のPUMP UPポンプアップと黒虫のwaveウェーブで筋肉を一回り増強するのを見て、『腕一本犠牲にするか？』と覚悟した。

　福子はヴィクトルと一定の距離を保ち、上半身を左右に揺らしてヴィクトルの右眼と股間の急所に視線を向け、和也がヴィクトルの背後に回り込み、眼鏡を外して不恰好な構えをするのを待ち、「黒服も破れるんだねー。これで攻撃の選択肢が増えたから、防御しきれないと思うよ」と言って、「めんどくせー」と嫌がる和也に通訳させる。

「Let's capture the black clothes. There are two options for attack, and there will be no defense」（黒服を攻略してみせる。攻撃の選択肢は二つあり、防御はできないだろう。）

　ヴィクトルは福子を睨んだまま背中で和也の通訳を聴き、アルミケースを足元に置いて股を広げ、「Try kicking it」（蹴ってみろ）と福子を挑発した。

　福子は「舐めてんの？」と上唇を舌で舐めて、さり気なく三つ編みのピン留めを外して先っぽに矢尻を仕込み、ヴィクトルの股越しに三つ編みを胸まで垂らした福子を眺めた和也が、「Amazing girl」（素晴らしい少女）と褒める。

（特性の小型矢尻は両刃に微妙な湾曲が施してあり、滑らかな軌道で風を切り裂き、福子は初日の練習で三つ編みを振り回して空中に飛ぶ蚊を切り落とし、発案者である和也を驚愕させた。）

『いくよ』と福子が和也にアイコンタクトし、距離を詰めてヴィクトルの股間に前蹴りを連打し、膝で簡単にプロックされて離れたが、その瞬間に和也がダッシュし、ヴィクトルが絶妙のタイミングで再度股を開き、スライディングした和也が股をくぐり抜けてアルミケースを奪った。

　ヴィクトルは虚をつかれて「Wow」とガニ股で一歩前に出たが、福子がジャンピングキックを狙っている事を読み、左腕で蹴りを振り払って右拳の一撃を福子の胸に打ち込んだ。

　しかし福子は空中でキリモミして紙一重で躱し、振り回した三つ編みの先っぽの矢尻がヴィクトルの右眼を掠め、両手で顔を覆ったヴィクトルの前に膝立ち着地すると、瞬時に右手を突き出して股間の生地の切れ目に指を差し込み、ムギュっとヴィクトルの急所を握り潰す。