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第一章・イースター(復活祭)
過去のラブレター
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「ケンジ、なんだって?」
「マンションを出たそうだ」
矢島輝と妙子が喪服を着て青葉台の駅前で立ち話をしている。妙子はさっき輝がガラケーを折りたたんで素早くポケットに押し込んだのを見て、ガンマン?と思ったが口には出さなかった。
二人は大学時代に付き合い、最近籍を入れたが結婚式はまだ挙げてない。角刈りで体格が良く古風な輝に対して、ショートボブの妙子はキュートでお洒落な女性だった。
「そんなに心配だったら、迎えに行けばよかったのよ」
「いや、俺はあいつを信じている」
「そっ、じゃ行こ。セレモニーホールで待ってればいいでしょ?」
「友だちのくせに冷たいな」
「高校の頃、私がアイツにフラれたの知ってるだろ?まだ根に持ってんだよね」
「それ、結婚した相手に言うセリフかよ?」
輝は自分を指差して妙子にそう言ったが、妙子は軽く頷いてプイッと先に歩いて行った。それで仕方なく輝も後ろについたが、その表情は妙子の棘のあるセリフなど関係なかった。
真剣そのものに日本代表選手のように左胸を右の拳で叩く。その喪服の内側の胸ポケットには香典と鈴木悠太が過去に書いたラブレターがしたためてあったのだ。
霧ヶ丘高等学校で妙子も悠太もみんな卒業まで同じクラスだった。特に輝は、小学校の頃に賢士が転校して来てからの付き合いで、かけがえのない親友だと思っている。
ただ賢士は風変わりな奴で、親友などという概念は無いらしく、同じ人間だろ?と輝を馬鹿にしていた。
「僕が死んだら、これ賢士くんに渡してもらえませんか?」
輝は高校を卒業する時に、悠太が今にも泣き出しそうな顔でそう言ったのが忘れられない。誰もいない音楽室で、悠太は是非お願いしたいと深々と頭を下げて輝に手紙を託した。
「もしかして、ラブレターか?」
悠太は同性の賢士を真剣に愛していた。
「男が男を好きになるって、俺にはよくわからんが。悠太が本気なのは知っている」
「はい。輝くんは唯一、賢士くんの親友だと思ってます。ですから輝くんにお願いしたいんです」
「アイツは人を寄せ付けないところがあるからな。しかし、なぜ今じゃないんだ?死んでから渡してどうすんだよ」
「僕の存在がそこにあった。それだけ賢士くんに知ってもらえればいいんです。今、それを渡して嫌われるなんて、僕には耐えられませんからね」
輝はその鈴木悠太の決意を聞いて、感動に胸を震わせた。生まれてからずっと真っ直ぐに生きてきたと自負しているが、悠太の純粋な思いに驚かされた。
輝はその事を思い出して、昨夜から何度か泣いてしまった。分厚い百科事典に挟んであったその時のラブレターを出して、ついに賢士に渡す時が来たかと感慨にふけった。
すると想いは一気にあの高校生の頃に戻った。
「なに泣いてんのよ?」
妙子は後ろを振り返ると、輝が泣きながら歩いているのに驚いて立ち止まった。愚直な男でそれが気に入って結婚したものの、賢士との正反対の性格に未だに困惑させられる。
「君とケンジが友だちってのが不思議だわ」
妙子がハンドバッグからハンカチを出して輝に渡す。輝はそれで滝のように流れる涙を拭きながら思い出話を続けた。
「ユウタ、高2の時にプールで自殺しようとしたんだぜ」
「イジメだっけ?溺れて、そのまま死のうとしたの?」
「ち、違う。愛の悩みだ」
「君が助けたんだよね。さっすがライフガードだわ」
輝は水泳部のキャプテンでインターハイで優勝した経験もあり、ライフガードのライセンスも持っていた。
「ああ、しかし死んでしまった」
輝がその知らせを聞いたのは昨日だった。そして慌てて賢士に電話して、今夜の葬儀に出席するように説得したのである。
「マンションを出たそうだ」
矢島輝と妙子が喪服を着て青葉台の駅前で立ち話をしている。妙子はさっき輝がガラケーを折りたたんで素早くポケットに押し込んだのを見て、ガンマン?と思ったが口には出さなかった。
二人は大学時代に付き合い、最近籍を入れたが結婚式はまだ挙げてない。角刈りで体格が良く古風な輝に対して、ショートボブの妙子はキュートでお洒落な女性だった。
「そんなに心配だったら、迎えに行けばよかったのよ」
「いや、俺はあいつを信じている」
「そっ、じゃ行こ。セレモニーホールで待ってればいいでしょ?」
「友だちのくせに冷たいな」
「高校の頃、私がアイツにフラれたの知ってるだろ?まだ根に持ってんだよね」
「それ、結婚した相手に言うセリフかよ?」
輝は自分を指差して妙子にそう言ったが、妙子は軽く頷いてプイッと先に歩いて行った。それで仕方なく輝も後ろについたが、その表情は妙子の棘のあるセリフなど関係なかった。
真剣そのものに日本代表選手のように左胸を右の拳で叩く。その喪服の内側の胸ポケットには香典と鈴木悠太が過去に書いたラブレターがしたためてあったのだ。
霧ヶ丘高等学校で妙子も悠太もみんな卒業まで同じクラスだった。特に輝は、小学校の頃に賢士が転校して来てからの付き合いで、かけがえのない親友だと思っている。
ただ賢士は風変わりな奴で、親友などという概念は無いらしく、同じ人間だろ?と輝を馬鹿にしていた。
「僕が死んだら、これ賢士くんに渡してもらえませんか?」
輝は高校を卒業する時に、悠太が今にも泣き出しそうな顔でそう言ったのが忘れられない。誰もいない音楽室で、悠太は是非お願いしたいと深々と頭を下げて輝に手紙を託した。
「もしかして、ラブレターか?」
悠太は同性の賢士を真剣に愛していた。
「男が男を好きになるって、俺にはよくわからんが。悠太が本気なのは知っている」
「はい。輝くんは唯一、賢士くんの親友だと思ってます。ですから輝くんにお願いしたいんです」
「アイツは人を寄せ付けないところがあるからな。しかし、なぜ今じゃないんだ?死んでから渡してどうすんだよ」
「僕の存在がそこにあった。それだけ賢士くんに知ってもらえればいいんです。今、それを渡して嫌われるなんて、僕には耐えられませんからね」
輝はその鈴木悠太の決意を聞いて、感動に胸を震わせた。生まれてからずっと真っ直ぐに生きてきたと自負しているが、悠太の純粋な思いに驚かされた。
輝はその事を思い出して、昨夜から何度か泣いてしまった。分厚い百科事典に挟んであったその時のラブレターを出して、ついに賢士に渡す時が来たかと感慨にふけった。
すると想いは一気にあの高校生の頃に戻った。
「なに泣いてんのよ?」
妙子は後ろを振り返ると、輝が泣きながら歩いているのに驚いて立ち止まった。愚直な男でそれが気に入って結婚したものの、賢士との正反対の性格に未だに困惑させられる。
「君とケンジが友だちってのが不思議だわ」
妙子がハンドバッグからハンカチを出して輝に渡す。輝はそれで滝のように流れる涙を拭きながら思い出話を続けた。
「ユウタ、高2の時にプールで自殺しようとしたんだぜ」
「イジメだっけ?溺れて、そのまま死のうとしたの?」
「ち、違う。愛の悩みだ」
「君が助けたんだよね。さっすがライフガードだわ」
輝は水泳部のキャプテンでインターハイで優勝した経験もあり、ライフガードのライセンスも持っていた。
「ああ、しかし死んでしまった」
輝がその知らせを聞いたのは昨日だった。そして慌てて賢士に電話して、今夜の葬儀に出席するように説得したのである。
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