魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ

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最前線の街ホリック

別れは静かに

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 街を出ることにしてから一瞬のように感じた一週間が終わった。
 ジークは旅の基本や冒険者としての心構えを。レイラは食事や生活の術を。ライラは…………やることがなくなったのでグレイと思い出作りのために街を案内した。

 そんな短くも濃密な一週間を過ごしたグレイは領主邸に招かれていた。
 エントランスで出迎えたダイムはグレイをもてなす為に大食堂に案内する途中、会話をする。

「シオから聞いているが街を出るらしいな。すまない、私の力不足だ」
『元々旅をしたかったからちょうど良かった。それにこの街は好き。しばらくしたらまた来る』
「そうか……!」

 恩人から自分の自慢である街を褒められたことにダイムは声がより軽やかな雰囲気になる。
 そうして会話をしながら装飾はそれほどないが品のある扉の前で止まる。
 
「口に合うかわからないが色々と用意させてもらった。今日は楽しんでくれ」

 ダイムが扉を開くとその先には広いテーブルに豪華な食事が置かれていた。
 待機していたメイドに案内され椅子に座ったグレイとダイム。しかし、もう一つ席が置かれていた。

 先ほど二人が入ってきた扉が開き男装の麗人が中に入ってくる。赤く長い髪を束ね背中に流し背筋を伸ばして歩く様はまさに騎士。
 服でも押さえきれない双丘が無ければ男と間違えるような雰囲気を漂わせる。

 そんな彼女はツカツカとグレイまで近づく。

「君が私を助けてくれた命の恩人……少女とは聞いていたが本当に小さい……街を守ってくれたと聞いた。本当にありがとう……!」

 頭を下げるのと同時に赤い束が肩越しに垂れる。右手で髪を後ろに戻しながら頭を上げた彼女は用意された最後の一席に座る。

「改めて、私の娘タリアだ。つい先日、目を覚ましたんだ。君がこの街を出ると聞いて参加すると聞かなくてな」

 ダイムが心配そうにやれやれという感じで何故彼女がいるのか説明する。

『元気になって良かった。もう動いて良いの?』

「問題はない。民が働いているのだから私も動かないわけには行かないからな。肝心な時に寝ていたのだ、働かなくては示しがつかん」

 ジーク達と話すように伝えるグレイに目くじらも立てずにタリアは話す。目力の強い目で問題ない、と伝えてくるタリアを見てグレイはこれが貴族なのだと感じた。
 
「さぁ、冷えないうちに食べようか。スタンピードが終わったおかげで物流も少しずつだが元に戻り始めたんだ」

 レイラにマナーを教えてもらったおかげでぎこちなくはあるもののしっかりとナイフとフォークを使い食べ進むグレイ。
 肉や野菜などレイラの焼く、炒めるといったものとは違う本格的な料理の数々に舌つづむ。

 そんな様子を見て思い出したかのようにダイムが、

「そういえば南に行くのだったな?スタンピードで少し情報が遅れているのだが南からの物流が少ない。十分に気をつけておいてくれ」
『うん、ありがとう』

 タリアやダイムと街のことやスタンピードの事、これからを話し食べ終わったグレイはエントランスまで戻る。

「いつでも歓迎する。何かあった時は尋ねると良い」
「返しきれない恩ができてしまった。もし、貴族関係で問題が起きた時は頼ってくれ」

 領主親子に見送られグレイは冒険区へと歩く。相変わらず視線は感じるが気にしないでギルドの中に入っていく。

「やぁ、この間はすまなかったね。今日はどうしたの?」

 ギルドマスターの部屋に通されシオと二人で会う。随分とグレイの今後に責任を感じていたので挨拶に来たのだ。

『一人で旅に出る事にした』
「…………!そうか、良くも悪くも君が来たから賑やかだったから寂しくなるね」

 やはり少女を街から追い出す原因になってしまった罪悪感からシオは申し訳なさそうに応える。

「罪滅ぼしと言うわけじゃないけど王都に行くことがあったらシュガーと言う女性を尋ねると良い。僕の妹だ、君のことを話しておくから」
『ありがとう』

 シオにも挨拶を終えたグレイは居住区にいる老女の元を訪れる。猫探しを依頼した女性だ。実はあれから何度か猫を見にやってきていた。

「あらあら、街を出ていくの?寂しくなるわねぇ。タマもそう思うでしょう?」
「にゃ~」
『良い子、元気でね』

 グレイは耳や喉の下を撫でゴロゴロとタマを鳴らせる。もはや完全にモフラーである。
 満足するまで撫でた後、老女から焼いたクッキーを貰い別れた。

 家へと戻ったグレイはジークに貰った空間拡張の袋にそれを詰めて準備をする。すると、後ろから声をかけられた。

「どう?挨拶はできた?」
『ロベドには会えなかったけど他の人たちには出来た』
「あの人あれから姿を見てないのよね、まぁ良いでしょ。グレイのこと気に入ってるみたいだから明日には会えると思う」

 レイラは挨拶回りが終わったことを確認し夕飯の準備に戻って行った。そう、グレイは明日ホリックの街を出ていくのだ。

 最後のレイラのご飯を食べて明日の出発に備えて早めに寝る事にしたグレイは別れを惜しむようにレイラとライラの間に挟まれるようにして眠る。
 

◇◇◇
 翌朝、忘れ物がないか確認してグレイは南門にやって来た。持ち物は全て袋の中にしまってあるためかなり軽装となっている。

「結局ロベドは来なかったか」

 レイラ達三人はグレイの出発を見送る為に集まっていたのだがロベドにもシオ経由で伝えたのにきていないことを残念がる。

 そんな四人に馬の蹄の音が近づく。

「良かった、まだ居たな」

 タリアが馬を一頭引き連れてやって来た。鞍は彼女が乗るにしては小さい。

「タリア様!身体は大丈夫なんですか?」
「問題ない、恩人の門出だ。餞別を持って来た。この馬をやろう」

 茶毛でおとなしそうな様子の馬をグレイに引き渡す。鐙もよく見るとグレイの足の届く位置に調整されていた。

『ありがとう、嬉しい』

「ふふ、それならロベドに言ってやるといい。作らせたのは私だが大体のことは奴の計らいだからな」
「その肝心のロベドの姿がないんですけど……」
「ん?あぁ、そういえば私が作った事にしろとか言っていたな。名前は出すなと、忘れていた」

 タリアはわざとらしく忘れていたととぼけたように言う。
 ジークはそれを聞いて顔を赤くしている眼帯親父を想像して一人くすくすと笑う。

 そんなこともありながら出発の時間になった。鐙を踏み、ジークに習ったように馬に乗り込む。袋を鞍に付いた荷物入れに入れ手綱を握る。

「気をつけてね」
「ちゃんとご飯食べて」
「楽しんでこいよ!」
「良い旅路を祈っている」

 世話になった人たちに送られてグレイは笑顔で静かに『行って来ます』とだけ伝え馬を走らせた。

 次第にグレイの姿が小さくなり米粒のようになってレイラ達は振り返り街に戻っていく。

「よーし!俺たちも頑張るか!ギルドに行こう」
「まずは武器を取りに行かないと」
「寂しい」

 活気あふれる街は一人の少女がいなくなったことをかき消すかのように今日も賑わっていく。
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