ループ前、俺の嫁は勇者だった

NeoX777

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第2話 逃げないと誓う日

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学院の一日は、いつもと同じように始まった。

朝の鐘が鳴り、学生たちは訓練場や講義室へと散っていく。

だが、レオンの胸には重い決意があった。

以前の自分なら、剣の稽古から逃げ出し、魔法の実技も避けて学問の講義に逃げ込んでいただろう。
政治や経済の知識を積み上げることで、戦えない自分を誤魔化していたのだ。

しかし――もう逃げない。
あの日の悔恨を繰り返さないために。



訓練場では、朝の光を浴びながら学生たちが木剣を交えていた。
掛け声が響き、砂埃が舞い上がる。

レオンは一歩を踏み出し、手にした木剣を強く握りしめた。

この日は学院の自由学習時間。
剣を選ぶ者もいれば、魔法や学問に没頭する者もいる。
生徒たちは思い思いに腕を磨いていた。

柄を持つ手が汗で滑る。
体はぎこちなく、振り下ろした剣は空を切るばかり。

周囲の学生たちが笑い声を上げた。

「相変わらず下手くそだな、レオン!」
「剣より本を振り回した方が似合ってるんじゃないか?」

冷やかしが飛ぶ。

以前のレオンなら、顔を真っ赤にして逃げ出しただろう。
だが今は違う。
レオンは唇を噛み、剣を構え直した。

(……こいつらは憎らしい奴らじゃない。やがて魔王の前で絶望と恐怖に顔を歪め、無惨に散る運命を知っている。俺は、あの日、彼らすら守れなかった)

胸の奥に悔しさが鋭く突き刺さる。
だからこそ、笑い声など気にする余裕はなかった。

(俺は強くなる)

震える足を踏ん張り、もう一度剣を振るう。
体は思うように動かず、何度も転んだ。
それでも立ち上がり、剣を握り直す。

倒れては立ち上がり、立ち上がっては再び転ぶ。
その姿に、周囲の嘲笑は次第に小さくなっていった。



かつてのレオンなら魔法の授業に足を運んでいた。
だが今のレオンは魔法を切り捨てた。
詠唱に向かうのではなく、剣を握り続けることを選んだのだ。

魔法は自分に合わない。
ならば――あの時の感触を信じるしかない。

(俺は一度だけとはいえ、魔王の頬を斬った。勇者ですら届かなかった一撃を、俺は確かに刻んだんだ)

震える手に、あの刃越しの衝撃がよみがえる。
たとえ無謀でも、あの瞬間だけは確かに魔王に届いた。

(ならば、俺は魔法ではなく剣にすべてを懸ける。必ずもう一度あの一撃を――いや、それ以上を放つために)

何度転んでも立ち上がり、無様でも振り続ける。
剣こそが、自分が未来を変える唯一の道だと信じて。



夕暮れ。
訓練場に残っていたのはレオンただ一人。

手のひらは豆だらけで血が滲み、声も枯れていた。
それでも剣を振り続ける。

空に夕日が沈み、星が瞬き始めても、木剣を握る手は止まらなかった。

「はあ、はあ……」

荒い息を吐き、レオンは肩で呼吸していた。

誰もいない訓練場に、かすれた声が響いた。
無様で笑われ、蔑まれようとも――もう逃げはしない。
そう誓った夜だった。



ふと、観客席の影に人影があることに気づく。
銀髪をポニーテールにした少女。セラフィーナだった。

腕を組み、レオンを見下ろしている。

「……本当に馬鹿ね。魔法も捨てて剣だけ?」

毒舌めいた声が闇に溶ける。
だがその瞳には、いつもと違う色が混じっていた。
嘲笑と共に、わずかな驚き。

何度倒れても立ち上がるレオンの姿に、セラフィーナでさえ言葉を飲み込む瞬間があった。

セラフィーナは心の奥で呟く。(……なぜそこまでして?)

ほんのわずかな戸惑いが、冷たい仮面の下に走る。
しかし唇に浮かんだのは、やはり嘲笑だった。

やがてセラフィーナはため息をつき、腰の剣を抜いた。
鞘走りの音が夜気を震わせる。

「いいわ、私が相手してあげる。魔術師だけどね。剣だけでもあんたくらいなら遊び半分で叩きのめせるわ」

言うが早いか、セラフィーナは訓練場に降り立ち、レオンの前に立ちはだかった。
構えた瞬間から圧が違った。

――ッズ!

軽く振るわれた一撃に、レオンは必死に受け止めようとしたが、木剣ごと弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

息が詰まり、視界が揺れる。
それでもレオンは立ち上がった。

―――ッド!

だが次の瞬間には再び打ち倒される。

セラフィーナの剣筋は無駄がなく、レオンの拙い動きでは到底対抗できなかった。

圧倒的な差。
それでも、レオンは剣を拾い上げ、構え直した。

血の滲む手で、今にも折れそうな木剣を握りしめながら。

レオンにとっては必死だった。
だがセラフィーナにとっては甘すぎた。

ためらいもなく振るわれた一撃が、レオンの意識を刈り取った。



気がつけば、夜の訓練場には誰もいなかった。
冷たい地面に横たわりながら、レオンは自分の弱さに改めて向き合わざるを得なかった。

拳を握る。
悔しさに胸が灼けるようだ。
全身が痛みに悲鳴を上げても、その奥底から這い上がってくるのは燃えるような誓いだった。

(このままじゃ終われない。必ず強くなる。必ず――あの日を変える!)

暗い夜空の下で、レオンの心に小さな炎が確かに灯っていた。
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