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第3話 敗北からの誓い
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冷たい夜風が頬を撫でる。
気がつけば、訓練場は静まり返っていた。
セラフィーナの姿もなく、残っているのは地面に横たわるレオンと木剣だけだった。
全身に鈍い痛みが走る。
立ち上がろうとしても力が入らず、ただ地面を見つめるしかなかった。
(……結局、俺は何もできなかった)
必死に剣を振ったつもりだった。
だがセラフィーナにとっては、あまりにも甘かった。
一振りで気絶させられた現実が、レオンの胸を深く抉る。
嘲笑よりも、無言の現実の方が痛い。
努力しようとしても、現実は容赦なく突きつけられるのだ。
あの時、魔王に剣を届かせた感触も――今となっては幻だったのではないかと思える。
ならば、自分に残された唯一の可能性。
剣で魔王に傷を負わせた、あの一瞬の事実に賭けるしかない。
(……俺は、この剣にすべてを懸けるしかない)
倒れ込んだままの胸の奥で、炎のような決意が静かに燃え上がっていた。
脳裏には今なお、妻である勇者の死や処刑台に挙げられた国王たちの姿、そして彼らを希望としていた人々の絶望に歪む顔が焼き付いて離れなかった。
あの光景を二度と繰り返させてはならない。
「……だからこそ、やるんだ」
かすれた声が夜の訓練場に響く。
誰に聞かせるでもない独り言。
木剣を杖にして、なんとか膝を立てる。
視界は揺れ、汗と血が頬を伝った。
(俺は弱い。だが、この弱さから目を逸らしてはいけない。妻を失い、王国を失ったのは俺が無力だったからだ。ならば……)
誰もいない闇に向かって、静かに宣言する。
今までのように学問に逃げることはもうしない。
剣を捨てることもしない。
この弱さを認めた上で、何度でも立ち上がる。
空を見上げると、雲間から星が瞬いていた。
その光は小さく儚い。
レオンは痛む体を引きずりながら立ち上がり、もう一度木剣を握った。
血のついた掌が震えている。
それでも構えを崩さず、夜空に向かって剣を振るう。
剣の音が、夜の静寂に響いた。
弱さを噛み締めながら、それでも剣を振り続ける。
その姿は誰にも見られていなかった。
だが、その一振り一振りこそが未来を変える始まりになると信じていた。
翌朝。
学院へ登校したレオンの前に、セラフィーナともう一人の男子生徒が現れた。
短髪の茶髪に屈強な体格。重装鎧と大盾を扱う、ガレス。
将来、勇者パーティに名を連ねることになる存在だ。
「レオン。昨日のあなたの様子を見て思ったの。戦闘を甘く見ているんじゃない?」
セラフィーナの言葉は鋭く、胸に突き刺さる。
自分の必死が、彼女にとっては未熟さとしか映らないのだと突き付けられる。
さらにガレスが口を開いた。
その声は穏やかで、紳士的だった。だがそこには揺るぎない重みがあった。
「君の学業の才は誰もが認めている。政治や経済の講義でこそ君は輝くだろう。だが……」
「だが?」
「もし戦闘や魔法に固執するなら、君は魔王に対抗する戦力にはなれない。むしろ命を散らすだけだ。正直に言えば、退学を考えた方がいい」
「え?」
ガレスは冷たくはなかった。むしろその眼差しには真摯さと、仲間を無駄死にさせまいとする強い意志が宿っていた。
「君が退学すれば、その分一人の定員が空くことになる。この学院は王国の未来を担う精鋭を育てる場所だ。無理に戦闘にこだわって落ちこぼれるよりも、優秀な新入生を受け入れた方が王国全体の戦力になる」
「……」
その言葉には軽蔑も怒気もなく、純粋な忠告と責任感の響きがあった。
だからこそ、レオンの胸を強く抉った。
(……やはり、俺の道は間違っているのか? 俺ってそんなにダメな生徒なのか……)
呆然とするほどのショックに言葉を失っていた。
退学を勧められるなど想像もしていなかったのだ。
その場に沈黙が落ちると、セラフィーナとガレスはそれ以上言葉を交わさず、背を向けて去っていった。
残されたレオンは拳を震わせたまま、ただ二人の背中を見送るしかなかった。
気がつけば、訓練場は静まり返っていた。
セラフィーナの姿もなく、残っているのは地面に横たわるレオンと木剣だけだった。
全身に鈍い痛みが走る。
立ち上がろうとしても力が入らず、ただ地面を見つめるしかなかった。
(……結局、俺は何もできなかった)
必死に剣を振ったつもりだった。
だがセラフィーナにとっては、あまりにも甘かった。
一振りで気絶させられた現実が、レオンの胸を深く抉る。
嘲笑よりも、無言の現実の方が痛い。
努力しようとしても、現実は容赦なく突きつけられるのだ。
あの時、魔王に剣を届かせた感触も――今となっては幻だったのではないかと思える。
ならば、自分に残された唯一の可能性。
剣で魔王に傷を負わせた、あの一瞬の事実に賭けるしかない。
(……俺は、この剣にすべてを懸けるしかない)
倒れ込んだままの胸の奥で、炎のような決意が静かに燃え上がっていた。
脳裏には今なお、妻である勇者の死や処刑台に挙げられた国王たちの姿、そして彼らを希望としていた人々の絶望に歪む顔が焼き付いて離れなかった。
あの光景を二度と繰り返させてはならない。
「……だからこそ、やるんだ」
かすれた声が夜の訓練場に響く。
誰に聞かせるでもない独り言。
木剣を杖にして、なんとか膝を立てる。
視界は揺れ、汗と血が頬を伝った。
(俺は弱い。だが、この弱さから目を逸らしてはいけない。妻を失い、王国を失ったのは俺が無力だったからだ。ならば……)
誰もいない闇に向かって、静かに宣言する。
今までのように学問に逃げることはもうしない。
剣を捨てることもしない。
この弱さを認めた上で、何度でも立ち上がる。
空を見上げると、雲間から星が瞬いていた。
その光は小さく儚い。
レオンは痛む体を引きずりながら立ち上がり、もう一度木剣を握った。
血のついた掌が震えている。
それでも構えを崩さず、夜空に向かって剣を振るう。
剣の音が、夜の静寂に響いた。
弱さを噛み締めながら、それでも剣を振り続ける。
その姿は誰にも見られていなかった。
だが、その一振り一振りこそが未来を変える始まりになると信じていた。
翌朝。
学院へ登校したレオンの前に、セラフィーナともう一人の男子生徒が現れた。
短髪の茶髪に屈強な体格。重装鎧と大盾を扱う、ガレス。
将来、勇者パーティに名を連ねることになる存在だ。
「レオン。昨日のあなたの様子を見て思ったの。戦闘を甘く見ているんじゃない?」
セラフィーナの言葉は鋭く、胸に突き刺さる。
自分の必死が、彼女にとっては未熟さとしか映らないのだと突き付けられる。
さらにガレスが口を開いた。
その声は穏やかで、紳士的だった。だがそこには揺るぎない重みがあった。
「君の学業の才は誰もが認めている。政治や経済の講義でこそ君は輝くだろう。だが……」
「だが?」
「もし戦闘や魔法に固執するなら、君は魔王に対抗する戦力にはなれない。むしろ命を散らすだけだ。正直に言えば、退学を考えた方がいい」
「え?」
ガレスは冷たくはなかった。むしろその眼差しには真摯さと、仲間を無駄死にさせまいとする強い意志が宿っていた。
「君が退学すれば、その分一人の定員が空くことになる。この学院は王国の未来を担う精鋭を育てる場所だ。無理に戦闘にこだわって落ちこぼれるよりも、優秀な新入生を受け入れた方が王国全体の戦力になる」
「……」
その言葉には軽蔑も怒気もなく、純粋な忠告と責任感の響きがあった。
だからこそ、レオンの胸を強く抉った。
(……やはり、俺の道は間違っているのか? 俺ってそんなにダメな生徒なのか……)
呆然とするほどのショックに言葉を失っていた。
退学を勧められるなど想像もしていなかったのだ。
その場に沈黙が落ちると、セラフィーナとガレスはそれ以上言葉を交わさず、背を向けて去っていった。
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