ループ前、俺の嫁は勇者だった

NeoX777

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第4話 退学の忠告

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胸に突き刺さる言葉を残し、セラフィーナとガレスは去っていった。

学院の石畳に一人取り残されたレオンは、その場に立ち尽くす。
拳を握り締めても震えは止まらない。
昨夜の痛みがまだ全身を蝕んでいるのに、それ以上に心が揺さぶられていた。

(……俺は本当に、戦う資格がないのか?)

頭の奥で疑念が渦を巻く。

学問なら評価される。
だが剣も魔法も足りない。
仲間からも王国からも必要とされないのなら――と、絶望の声が囁きかける。

だが同時に、処刑台で見た光景が鮮明に甦る。
勇者を失った世界。
民衆の絶望。
妻の死。
あの未来を二度と繰り返してはならない。

(……俺だけは、退いてはいけないんだ)



放課後。

すべての授業が終わり、生徒たちが寮や街へ戻っていく時間。
レオンは一人、重い心を引きずりながら学院の一角――武具庫へと足を運んだ。

訓練用の木剣ではなく、鉄の剣を手にするために。
まだ少年の腕には重すぎるそれを両手で持ち上げると、ずしりとした重みが全身に伝わった。

「……これが、俺の未来を切り拓く武器だ」

魔法はもう捨てた。
自分には合わない。
残された可能性は剣だけだ。

魔王の頬に刻んだあの一閃――幻のように思えるあの感触に、すべてを賭けるしかない。

夜の訓練場に居残り、レオンは鉄剣を振り下ろす。
重さに振り回され、足元がよろめく。
剣筋は乱れ、握った掌はすぐに痛みで赤く染まった。

それでも、剣を振るうことをやめなかった。

空に星が瞬いている。
静まり返った学院の闇に、鉄と汗の匂いが漂う。

ひと振り、またひと振り。
荒い息を吐きながら、膝が折れそうになっても、立ち上がって剣を振った。

「はあ……はあ……」

夜明けが近づく頃、レオンは膝をつき、剣を杖にして必死に呼吸を整えていた。
全身は痛みで悲鳴を上げていたが、その瞳には昨日までにはなかった光が宿っていた。

(……退学を勧められたからこそ、証明してやる。俺が無駄じゃないことを。必ず剣で未来を変えてみせる)

その決意を胸に、レオンは再び剣を握りしめた。
まだ弱い。
だが弱さを抱えたままでも進むしかないのだ。



翌朝。

学院の廊下に生徒たちのざわめきが広がった。

ガレス、セラフィーナ、そしてミレイユ――将来勇者パーティになると噂される学院トップ3が並んで歩いていたのだ。
その姿に、生徒たちは思わず憧れの眼差しを向け、道を開ける。

だが、彼らの目的はただ一人、レオンだった。

レオンが頑なに退学届を出さないことに業を煮やし、この場で直接、文句を突きつけるためにやってきたのである。

そしてその言葉は、多くの生徒たちの目の前で放たれた。

学院中の視線を浴びる中、周囲の生徒たちも次第に勢いづき、やがて口々にレオンに向かって「出ていけ!」とコールを始めるのだった。

怒号が飛び交い、廊下全体が圧力の渦と化す。
無数の視線が突き刺さり、レオンの足は鉛のように重くなる。

(……俺は、本当に邪魔者なのか?)

胸の奥が冷たく締め付けられる。
孤立感と屈辱が、昨日の傷以上に深く心をえぐった。
声を上げたくても喉が震え、言葉が出てこない。

その中で、ミレイユが一歩前に出る。
冷ややかな瞳でレオンを射抜き、鋭く声を張り上げた。

「あなたがいるせいで、一人の優秀な生徒が入って来れないのよ! その生徒は将来、王国にとって重要な存在になるかもしれないのに! あなたが居座るせいで、その芽が潰されているの!」

彼女の声は激情に震え、周囲を焚きつける。

「そんなのは国賊と同じよ! 王国の未来を邪魔するつもり!?」

ミレイユの激しい言葉は火種となり、周囲の憎悪を一気に燃え上がらせた。
生徒たちは興奮に駆られ、さらに大きな声で「出ていけ!」と叫び始める。

耳を塞ぎたくても塞げない。
全ての声が矢のように突き刺さり、レオンはただ必死に立っていることしかできなかった。

群衆の熱が渦を巻き、レオンを飲み込もうとしていた。
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