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第5話 追放
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ここを追われれば、人類は終わる――そんな重圧がレオンの胸にのしかかっていた。
王立学院に残らなければ剣を学ぶ場を失う。剣や木刀をはじめ、戦闘に必要な教材はどれも高額で、平民の彼には到底手が届かない。だからこそ、王立学院の設備を使って訓練するしか道はないのだ。
しかも、学業もおろそかにはできない。剣を鍛えるだけではなく、基礎知識を習得しなければ、高等素材や戦術の理解すらできない。学問も戦闘も、すべてが未来のために不可欠だった。
だが、胸を締めつける葛藤はそれだけではない。
(……妻のエリシア。この世界でも、必ず君と結婚したい)
前の世界で結ばれた幸福を、今度こそ守りたいと願う。だが現実には、剣の道を選び続けるなら、国の政略による結婚の可能性は遠ざかっていく。学業に優れ、政治で役立つことを証明できなければ、エリシアの隣に立つ未来はないのかもしれない。
(それでも、俺は……剣を捨てるわけにはいかない)
苦境に立たされながらも、レオンは唇を噛みしめ、己の胸に問い続けた。失った未来を取り戻すために。勇者を守り、人類を救うために。
その日の放課後、ついにレオンは三人と正面から相対することになった。ガレス、セラフィーナ、ミレイユ――王立学院トップ3と呼ばれる彼らを前に、生徒たちも息を呑んで立ち会う。
レオンは拳を握りしめ、震える声で必死に訴えた。
「……退学はできません。どうか、王立学院にいさせてください」
その言葉が響いた瞬間、空気が変わった。三人をはじめ、周囲の生徒たちの表情は一気に怒りに満ち、重苦しい沈黙が場を支配する。
やがて、その沈黙を破ったのはガレスだった。彼は紳士的な口調を崩さぬまま、しかし冷たく告げる。
「正直に言って、僕は暴力は嫌いだ。だが今の君を見ていると――殴りたい気持ちになるよ、レオン君」
その言葉に、生徒たちの憎悪はさらに燃え上がり、ざわめきが広がる。三人はそれ以上何も言わずに背を向け、去っていった。
残されたレオンの胸に残ったのは、屈辱と決意、そして重苦しい孤独だけだった。
その後、レオンにまともに話しかけてくれる生徒は一人もいなかった。廊下ですれ違っても、視線を逸らされるか、侮蔑の眼差しを投げられるだけだった。
さらに三日後。レオンは学校の職員室に呼び出される。担当教師が重い口を開き、告げたのは――強制退学の処分だった。
「本当は君に自主退学してほしかった。だが強制退学となれば、王立学院としても手続きに余計な税金がかかる。その点だけは……最後に咎めておく」
無慈悲な言葉が突き刺さる。最後の最後まで、この学園はレオンに縁も情けもなかったのだ。拳を握りしめながら、その現実を噛み締めた。
レオンは王立学院を追放された。
退学の荷物をまとめるため、レオンは静かな寮の部屋で鞄に手を伸ばす。視線の先、窓から見えたのは訓練場だった。
そこでは、金色の髪を揺らしながら木刀を振るう少女の姿があった。――エリシア。ループ前の世界で妻となった彼女の姿を、王立学院で初めて目にした瞬間だった。
彼女はこちらに気づいていない。無垢に剣を振り上げる姿は、どこまでも眩しく、そして懐かしい。殺される前の姿を目の当たりにし、レオンの目からは思わず涙が溢れた。
その剣筋は、低レベルの自分でも圧巻だとわかるほど鮮烈だった。勇敢さと美しさ、そして人を惹きつける魅力が一振りごとに宿り、見る者すべてを圧倒していた。生徒たちはもちろん、見守っていた教師までもが魅了されるほどの腕前。
ループ前のエリシアも美しかったが、十六歳のエリシアも変わらず、レオンにとっては引き込まれるほどの美しさだった。その勇敢さと気高さも相まって、彼女は誰よりも輝いて見えた。
その光景を目にした瞬間、レオンの胸は締め付けられた。だが彼はすでに退学を言い渡され、すべてを絶望的と考えていた。王国を守ることも、そしてエリシアと再び結婚することも――その可能性は潰えたのだ。だからこそ、悲しみの涙は止まらなかった。
王立学院に残らなければ剣を学ぶ場を失う。剣や木刀をはじめ、戦闘に必要な教材はどれも高額で、平民の彼には到底手が届かない。だからこそ、王立学院の設備を使って訓練するしか道はないのだ。
しかも、学業もおろそかにはできない。剣を鍛えるだけではなく、基礎知識を習得しなければ、高等素材や戦術の理解すらできない。学問も戦闘も、すべてが未来のために不可欠だった。
だが、胸を締めつける葛藤はそれだけではない。
(……妻のエリシア。この世界でも、必ず君と結婚したい)
前の世界で結ばれた幸福を、今度こそ守りたいと願う。だが現実には、剣の道を選び続けるなら、国の政略による結婚の可能性は遠ざかっていく。学業に優れ、政治で役立つことを証明できなければ、エリシアの隣に立つ未来はないのかもしれない。
(それでも、俺は……剣を捨てるわけにはいかない)
苦境に立たされながらも、レオンは唇を噛みしめ、己の胸に問い続けた。失った未来を取り戻すために。勇者を守り、人類を救うために。
その日の放課後、ついにレオンは三人と正面から相対することになった。ガレス、セラフィーナ、ミレイユ――王立学院トップ3と呼ばれる彼らを前に、生徒たちも息を呑んで立ち会う。
レオンは拳を握りしめ、震える声で必死に訴えた。
「……退学はできません。どうか、王立学院にいさせてください」
その言葉が響いた瞬間、空気が変わった。三人をはじめ、周囲の生徒たちの表情は一気に怒りに満ち、重苦しい沈黙が場を支配する。
やがて、その沈黙を破ったのはガレスだった。彼は紳士的な口調を崩さぬまま、しかし冷たく告げる。
「正直に言って、僕は暴力は嫌いだ。だが今の君を見ていると――殴りたい気持ちになるよ、レオン君」
その言葉に、生徒たちの憎悪はさらに燃え上がり、ざわめきが広がる。三人はそれ以上何も言わずに背を向け、去っていった。
残されたレオンの胸に残ったのは、屈辱と決意、そして重苦しい孤独だけだった。
その後、レオンにまともに話しかけてくれる生徒は一人もいなかった。廊下ですれ違っても、視線を逸らされるか、侮蔑の眼差しを投げられるだけだった。
さらに三日後。レオンは学校の職員室に呼び出される。担当教師が重い口を開き、告げたのは――強制退学の処分だった。
「本当は君に自主退学してほしかった。だが強制退学となれば、王立学院としても手続きに余計な税金がかかる。その点だけは……最後に咎めておく」
無慈悲な言葉が突き刺さる。最後の最後まで、この学園はレオンに縁も情けもなかったのだ。拳を握りしめながら、その現実を噛み締めた。
レオンは王立学院を追放された。
退学の荷物をまとめるため、レオンは静かな寮の部屋で鞄に手を伸ばす。視線の先、窓から見えたのは訓練場だった。
そこでは、金色の髪を揺らしながら木刀を振るう少女の姿があった。――エリシア。ループ前の世界で妻となった彼女の姿を、王立学院で初めて目にした瞬間だった。
彼女はこちらに気づいていない。無垢に剣を振り上げる姿は、どこまでも眩しく、そして懐かしい。殺される前の姿を目の当たりにし、レオンの目からは思わず涙が溢れた。
その剣筋は、低レベルの自分でも圧巻だとわかるほど鮮烈だった。勇敢さと美しさ、そして人を惹きつける魅力が一振りごとに宿り、見る者すべてを圧倒していた。生徒たちはもちろん、見守っていた教師までもが魅了されるほどの腕前。
ループ前のエリシアも美しかったが、十六歳のエリシアも変わらず、レオンにとっては引き込まれるほどの美しさだった。その勇敢さと気高さも相まって、彼女は誰よりも輝いて見えた。
その光景を目にした瞬間、レオンの胸は締め付けられた。だが彼はすでに退学を言い渡され、すべてを絶望的と考えていた。王国を守ることも、そしてエリシアと再び結婚することも――その可能性は潰えたのだ。だからこそ、悲しみの涙は止まらなかった。
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