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第16話 孤独な決断
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ある夜、エリシアの机の上に、一通の封書が置かれていた。深い青の封蝋には学院の紋章が刻まれている。震える指で封を切ると、整然とした筆致の文字が目に飛び込んできた。
> エリシアへ。
> 王立学院の名において命ずる。
> 今回の救出任務は、君ひとりで遂行せよ。
> 断じてレオンを同行させてはならない。彼に功績を与えることは許されぬ。退学者である彼に功績が発生すれば、学院の威信に関わる。
> 校長 エルドラン
短い文面が、冷たい刃のように胸に突き刺さる。拒む余地はない。候補としての責務が、エリシアの心を締め付けていく。
「……分かりました」
誰に聞かせるでもなく、エリシアは呟いた。灯りに照らされた手紙の文字が、彼女を孤独へと導いていく。
翌朝、《暁の灯》の仲間たちはまだ眠っていた。レオンの寝顔を見つめ、エリシアはそっと息をのむ。何度も呼びかけたい衝動に駆られたが、校長の命令がその口を閉ざした。
「レオン様、ごめんなさい……信じて待っていてください」
小さく呟き、足音を殺して部屋を出る。仲間に別れを告げることすら許されぬのが、彼女に課せられた孤独な運命だった。
学院の門を出たエリシアは、振り返らなかった。背を向ければ、決意が揺らぐからだ。仲間を犠牲にしてでも果たさねばならぬ使命がある――そう自らに言い聞かせながら。
心の中では、レオンの姿が焼き付いて離れなかった。
「必ず戻る……」
エリシアは剣を握りしめた。
光剣が、まだ見ぬ戦場を照らすかのように微かに輝いていた。
翌日、レオンたちはエリシアが姿を消したことに気づいた。部屋にはもう彼女の気配はなく、残された気配から彼女が単身で三人の救出に向かったことを悟る。
「なんで黙って……俺たちも行こう!」カイルが立ち上がる。
「でも……場所が分からないよ……」リディアが不安げに声を震わせる。
「準備もないまま飛び出したら危険すぎる」ティオも顔を曇らせた。
レオンは黙って彼らを見回し、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「無闇に追えば、俺たちまで危険に晒される。エリシアはすごい剣士だ。必ず道を切り拓けるはずだ。だから――信じて待とう」
その言葉に三人は悔しげに唇を噛んだが、やがて静かにうなずいた。仲間を信じることこそ、今の自分たちにできる唯一の選択だった。
その夜、人気のない中庭にひとりの影が現れた。黒い外套に身を包み、顔を隠したその人物は、レオンたちにそっと近づく。月明かりに照らされたその顔は――王立学院の寮監カリナだった。
「しっ、声をあげないでください……」
カリナは周囲を見回し、誰もいないことを確かめると、突然その場にひざをついた。
「エリシアは一人では勝てません。どうか……どうか助けてください!」
(カリナ先生が俺に敬語を……?)
レオンは一瞬、躊躇した。
さらにカリナは頭を地面に擦り付け、土下座の姿勢をとった。その衝撃にレオンたちは息を呑む。
「せ、先生、おやめください!」
レオンは慌てて駆け寄った。だがカリナは顔を上げず、声を震わせて言い放った。
「今はあなたの方が、私よりも上の存在です。私など、足元にも及ばぬ……恥を承知でお願い申し上げます。どうか、エリシアを助けてください!」
レオンは躊躇しつつも答えた。
「もちろんです……ですが、場所が分からずに動けません」
カリナは深く息をつき、そして囁いた。
「場所は辺境の《グランツ村》です。王都から北西へ三日ほどの行程、山岳地帯と森の境にある小さな集落……そこで勇者候補の三人が囚われています」
「グランツ村?」
「はい、私も同行します。皆さんだけに任せるわけにはいきません」
その言葉にカイルが身を乗り出す。
「なら俺も行く!」
「わ、私だって……」リディアが勇気を振り絞る。
「もちろん俺も!」ティオが拳を握りしめた。
レオンは仲間たちの顔を順に見て、小さく微笑んだ。
「……ありがとう」
カリナは静かに頭を下げた。
「あなた方は、すでに連れ去られた学院最優秀の勇者候補三人の実力を凌いでいます。その力に敬意を表し……共に来てくださること、心から感謝します」
> エリシアへ。
> 王立学院の名において命ずる。
> 今回の救出任務は、君ひとりで遂行せよ。
> 断じてレオンを同行させてはならない。彼に功績を与えることは許されぬ。退学者である彼に功績が発生すれば、学院の威信に関わる。
> 校長 エルドラン
短い文面が、冷たい刃のように胸に突き刺さる。拒む余地はない。候補としての責務が、エリシアの心を締め付けていく。
「……分かりました」
誰に聞かせるでもなく、エリシアは呟いた。灯りに照らされた手紙の文字が、彼女を孤独へと導いていく。
翌朝、《暁の灯》の仲間たちはまだ眠っていた。レオンの寝顔を見つめ、エリシアはそっと息をのむ。何度も呼びかけたい衝動に駆られたが、校長の命令がその口を閉ざした。
「レオン様、ごめんなさい……信じて待っていてください」
小さく呟き、足音を殺して部屋を出る。仲間に別れを告げることすら許されぬのが、彼女に課せられた孤独な運命だった。
学院の門を出たエリシアは、振り返らなかった。背を向ければ、決意が揺らぐからだ。仲間を犠牲にしてでも果たさねばならぬ使命がある――そう自らに言い聞かせながら。
心の中では、レオンの姿が焼き付いて離れなかった。
「必ず戻る……」
エリシアは剣を握りしめた。
光剣が、まだ見ぬ戦場を照らすかのように微かに輝いていた。
翌日、レオンたちはエリシアが姿を消したことに気づいた。部屋にはもう彼女の気配はなく、残された気配から彼女が単身で三人の救出に向かったことを悟る。
「なんで黙って……俺たちも行こう!」カイルが立ち上がる。
「でも……場所が分からないよ……」リディアが不安げに声を震わせる。
「準備もないまま飛び出したら危険すぎる」ティオも顔を曇らせた。
レオンは黙って彼らを見回し、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「無闇に追えば、俺たちまで危険に晒される。エリシアはすごい剣士だ。必ず道を切り拓けるはずだ。だから――信じて待とう」
その言葉に三人は悔しげに唇を噛んだが、やがて静かにうなずいた。仲間を信じることこそ、今の自分たちにできる唯一の選択だった。
その夜、人気のない中庭にひとりの影が現れた。黒い外套に身を包み、顔を隠したその人物は、レオンたちにそっと近づく。月明かりに照らされたその顔は――王立学院の寮監カリナだった。
「しっ、声をあげないでください……」
カリナは周囲を見回し、誰もいないことを確かめると、突然その場にひざをついた。
「エリシアは一人では勝てません。どうか……どうか助けてください!」
(カリナ先生が俺に敬語を……?)
レオンは一瞬、躊躇した。
さらにカリナは頭を地面に擦り付け、土下座の姿勢をとった。その衝撃にレオンたちは息を呑む。
「せ、先生、おやめください!」
レオンは慌てて駆け寄った。だがカリナは顔を上げず、声を震わせて言い放った。
「今はあなたの方が、私よりも上の存在です。私など、足元にも及ばぬ……恥を承知でお願い申し上げます。どうか、エリシアを助けてください!」
レオンは躊躇しつつも答えた。
「もちろんです……ですが、場所が分からずに動けません」
カリナは深く息をつき、そして囁いた。
「場所は辺境の《グランツ村》です。王都から北西へ三日ほどの行程、山岳地帯と森の境にある小さな集落……そこで勇者候補の三人が囚われています」
「グランツ村?」
「はい、私も同行します。皆さんだけに任せるわけにはいきません」
その言葉にカイルが身を乗り出す。
「なら俺も行く!」
「わ、私だって……」リディアが勇気を振り絞る。
「もちろん俺も!」ティオが拳を握りしめた。
レオンは仲間たちの顔を順に見て、小さく微笑んだ。
「……ありがとう」
カリナは静かに頭を下げた。
「あなた方は、すでに連れ去られた学院最優秀の勇者候補三人の実力を凌いでいます。その力に敬意を表し……共に来てくださること、心から感謝します」
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