ループ前、俺の嫁は勇者だった

NeoX777

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第17話 炎鬣の魔人ザハル

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辺境のグランツ村。かつては穏やかな農村だったが、今は魔族に占拠され、家々は黒煙に覆われ、広場には魔族の旗が翻っていた。
エリシアは茂みの影から村を見据え、静かに光剣《ルミナスブレイド》を握りしめる。

「必ず……三人を助け出す」

彼女の視線の先、村の中央には巨大な鉄檻が据えられていた。その中には学院最優秀と謳われた勇者候補――セラフィーナ、ミレイユ、ガレスの姿があった。
彼らは鎖で拘束され、憔悴しきった表情を浮かべていたが、エリシアの姿を見た瞬間、その瞳に光が戻った。

「エリシア様……!」
「本当に来てくださったのですか……!」
「まだ……希望はある!」

絶望に沈んでいた三人が、彼女の登場によって再び希望を取り戻したのだった。


まず待ち構えていたのは、醜悪な魔族の兵どもだった。獣のような顔を持つオーク、棍棒を振りかざすゴブリン、そして赤い皮膚に角を生やしたインプたち。
彼らは嘲笑しながら迫るが、エリシアの瞳は揺るがなかった。

「邪魔をするな!」

光剣が閃き、鮮烈な光が闇を裂く。彼女は踏み込み一閃でオークを薙ぎ倒し、跳びかかるインプを回転斬りで切り裂く。リズムを崩さず、次々と敵を蹴散らしていく姿は、まさに光の嵐だった。

「人間の娘が……!」

怒声を上げる魔族兵たちも、彼女の剣撃の前に崩れ落ちていく。やがて広場の中央には、屍と呻き声だけが残った。

檻の中から、セラフィーナが鋭い声を投げた。
「エリシア様、油断なさらないで!」

静寂を切り裂くように、重い足音が響いた。
広場の奥から現れたのは、筋骨隆々の巨体。燃えるような鬣の髪を逆立て、全身に呪紋を走らせた魔人――ザハル。

「お前が人類で最も強い勇者候補と言われる小娘か。よくぞここまで踏み込んできたな。退屈しのぎにはちょうどいい」

ザハルの両腕は岩のように硬化し、一歩踏みしめるごとに地面が軋む。
その圧倒的な威圧感に、空気が震えた。

「あなたが……この村を支配している魔族か」

「ハッハッハ! そうだ。名をザハル! 強き者を打ち砕くことこそ、俺の悦び!」


ザハルが地面を叩き割り、衝撃波が走る。エリシアは跳躍してかわし、光剣を振り下ろす。だがその刃は、ザハルの岩石の腕に阻まれ火花を散らした。

「ぬるい! もっと骨を折らせろ!」

豪腕の一撃が大地を砕き、破片が雨のように飛び散る。エリシアは紙一重で避けながら、光剣を横薙ぎに振るった。

「光剣・ルミナスブレイド!」

光が奔り、ザハルの胸に傷を刻む。しかし巨体はびくともせず、口角を吊り上げた。

「ククク……悪くねえ! だが俺の拳を受け止められるか! 魔王顎砕拳デモンズ・ジョーブレイカー!」

漆黒の魔力を纏った拳が振り下ろされる。大地が揺れ、轟音が村を包む。
エリシアは咄嗟に光剣で受け止めたが、その衝撃は全身を打ち据え、足元の石畳が砕け散った。

「……くっ!」

しかしエリシアの瞳は、決して折れてはいなかった。背後には救うべき仲間がいる。その思いが、光剣をさらに輝かせていくのだった。


エリシアの斬撃とザハルの剛拳が幾度もぶつかり合い、火花と衝撃波が広場を覆った。斬撃が岩腕を裂けば、拳が大地を粉砕し互いに一歩も譲らぬ攻防が続く。

「ふん……小娘にしてはやるではないか!」
「私は……負けない!」

光と闇が激しく交錯し、村全体が震動する。

鉄檻の中で戦いを見守る三人は、その光景に息を呑んだ。
「これほどの力を……! さすがはエリシア様……!」
「希望の剣だわ……!」
「あれが……真に俺たちを導く存在……!」

彼らの胸には再び熱が灯り、絶望の檻の中から歓喜の声が響くのだった。


ザハルの目が妖しく光り、呪紋が灼けるように輝き始めた。巨体から発せられる圧力が倍増し、地面がひび割れる。

「遊びは終わりだ、小娘……! これが俺の本気だ!」

両拳に黒炎のような魔力が渦巻き、空気そのものが重くなる。
エリシアは息を呑み、剣を構え直した。

「……来なさい!」

ザハルの魔王顎砕拳デモンズ・ジョーブレイカーが再び振り下ろされる。
エリシアは全身の魔力を一点に集中させ、光の障壁を展開した。まるで“聖光の盾”のように剣先から広がる光壁が拳を受け止める。

――ズガァァンッ!!


轟音とともに光壁が砕け散り、衝撃は彼女の身体を包み込む。
「……ぐあっ!」

エリシアの身体は宙へと吹き飛ばされ、激しく地面へと叩きつけられた。
土煙が舞い上がり、鉄檻の中の三人が悲鳴を上げる。

「エリシア様!!」

土煙の中から現れたザハルは、不敵な笑みを浮かべながら倒れ込むエリシアの髪を乱暴に掴み上げた。彼女の身体は無抵抗に持ち上げられ、そのまま村の家屋の壁へと叩きつけられる。乾いた轟音とともに壁が砕け、瓦礫が飛び散った。

ザハルは鼻で笑い、嫌味ったらしく言い放った。

「ふん……衝撃を魔力で散らしたか。悪あがきにしては見事だが、その魔力は限界寸前。次は耐えられまい」

エリシアは瓦礫の中でうめきながらも、光剣を支えにしてゆっくりと立ち上がった。膝は震え、呼吸は荒い。だがその瞳だけは消えることなく、なおもザハルを見据えていた。
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