鈍感兄貴

かよ太

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01(完)



高校三年もそろそろ終わる二月のこと。幼馴染みに誘われてWデートをすることになった。というのも、別の高校に進学した幼馴染みの有紗(ありさ)に「形だけ」の彼氏になってくれと頼まれたからだ。なんでも仲の良いクラスメイトに彼氏を紹介したいと言われたらしい。
さすがに三人で遊びに行く勇気もなく、考えた末に有紗は俺に頼んできたと言うわけだった。幼馴染みが困っているのに断る理由もない。気前よく俺は承諾した。

「兄貴出かけんのか」
「ああ、」
出掛けに弟がリビングから顔をだして、靴を履く俺に怖い顔をしながら話しかけてきた。Wデートの待ち合わせ場所にはまだ時間があるが、その前に有紗と落ち合うことにしていた。俺としては久しぶりに会える有紗と少しでも長く一緒にいたいのが本音だった。家を出て待ち合わせた公園に浮かれ気分でいく。

「無理に付き合わせてほんとごめんね」
「いや、いいよ。久しぶりにこうやって有紗と遊べるんだから」
高校生活もあと少しで終わる。有紗とあまり会わなくなったのも、同じ季節の三年前だった。
仲が悪い訳じゃなかった。ありがちな思春期の男女だったというわけでもない。会えば普通に会話もしていたし、今でもしている。俺たちは花を咲かせながら、Wデートの相手との待ち合わせ場所に向かった。

「有紗ちゃん、こっちだよー!」
佐江(さえ)さんは、センスの良いふわっとしたピンク色の服を着た、どこにでもいそうなかわいい女の子だった。有紗と雰囲気も似ていて、温和しそうな子だ。彼女の隣には、美男子だという長身の男がこちらに背を向けて立っていた。たしかスペックは俺たちの一コ下。身長は長身の180㎝(俺より13㎝も上……)。血液型はA型で、高校では生徒会長をしているイケメンだとか。

「佐江ちゃん、お待たせ」
「有紗ちゃんの彼氏さんですか」
「どーも」
愛想笑いをしたとき、そいつが振り向いた。
俺たちとその男は、顔を合わせて固まってしまった。

「……」
「浩二、行こうよっ」
「ああ」
有紗も俺も上の空。
佐江さんの見せびらかしたい生徒会長殿が、俺の、あの怖い顔を隠しもしない弟だったのである……。



  ■  ■  ■



Wデートの内容なんて覚えていない。家に帰るとただでさえ怖い顔が三割り増しなって俺を睨みつけていた。

「兄貴、有紗と付き合ってたのか」
「うっ……」
弟である浩二の有紗コンプレックスは、半端がなかった。昔から二人で居ると何かにつけて邪魔をしてきた。だから、有紗とは仲のいい女友達という関係しか築けなかったのだ。
誰のせいだと思ってんだ。
幼稚園からのつきあいだった俺たちは、お互いに何も言わずともなんとなく将来「けっこん」するんだろうなーと思っていた。だから互いに理解してしまった。浩二が有紗コンプレックスを拗らせていると。中学で進学するときには別々の高校を選んでいた。

「おい兄貴、聞いてんのか」
「付きあってる訳ないだろ。佐江さんが有紗にお前を紹介したいっていうから、仕方なくだな」
「有紗はだめだ」
即、切り替えされる。威圧感に負けそうで少し肩が震える。しかし、長年のわだかまりもあったので勇気を振り絞った。

「つーか、前から気になってたけど、なんでお前は有紗と付き合わないんだよ」
「何言ってんだ」
「はい?」
「……気づいてるわきゃないんだよな、隠してんだから」
「何を?」
訳の分からないことに首を傾げる俺を見ると、はあ、と溜め息をつくと何かを吹っ切るように首を横に振った。

「何でもねえよ」
「おい……そこまで言うなら全部言えよ。気になるだろ」
「……本当に有紗とつきあってないんだな」
「だから、そんなに心配なら有紗と付き合えって言ってんだろしつこいぞ」
「……兄貴さ、有紗と付きあってないんだから俺があいつのこと好きじゃないってわかんねえの」
お互いにイライラし出した。好きじゃないのになんでこんなことや牽制したりするんだ。有紗じゃないというなら、俺か。

「じゃあ……今まで邪魔ばっかしてたのは、俺に対する嫌がらせだったってのか!」
浩二のシャツを引っ張る。身長差があるので、まったくもって俺が弟に縋っているようにしか見えない。しかし、俺は腹を立てていた。有紗だけじゃない。思い返せば高校だって何人かいい娘はいた。なのに気がつけば決まってこいつの横に並んで笑っていた。自分はちゃっかり女の子といちゃいちゃしてそれで、不甲斐ない間抜けな兄だと陰で笑っていたのだ。

「ああ、嫌がらせだね」
しれっと言う。見下ろされた浩二の目はびっくりするほど怖く、恐ろしかった。

「……俺、お前に何一つ優ってもいねえのに」
掴んだシャツを呆然としながら放した。

(嫌われているにしても……非道過ぎやしないか)
会話をする気力も削がれて、呆然としながら二階の自分の部屋へ行く。俺たちは年子だったから、昔から双子みたいな扱いを受けることが多く、浩二も俺と同じことをやりたがり、そして俺以上に結果を出すのが常だった。もちろんそうなれば、周りから弟さんとは出来が違うのねと幼い頃から言われ続けた。

高校だって必死で勉強した俺に対して、そんなレベルの低い高校に行かなくても、と言われながら同じ高校に入ってきた。有紗のことで疑問に感じていたことが、ここらへんから確信に変わってくる。こいつは比べる必要がないにも関わらず俺に強い対抗意識があるのだ、と。自室に戻る俺を追ってくる浩二にいらだちながら扉を開く。溜息をついた。

「安心しろよ、大学はこの家を出ていくからさ」
「……ちょっとまて……、聞いてないぞ」
食いつく話か? 浩二を胡乱気にみる。

「母さんたちにも言ってないしな。お前も清々するだろ」
虫の居所が悪すぎて嫌みを言ってしまった。何もいわずに去るつもりだったのに。

「なんだよそれ……俺から逃げようって言うのか」
「……逃げる?」
「最近温和しいと思ってたらこれだ。あの大学はここから通えるだろ」
ぐいぐいと部屋に押し込まれる。力の差は歴然としていてあっという間にベッドに押し倒される。

「なにす……っ」
訳が分からなくて起きあがろうとすると肩を押さえつけられ押し戻される。

「やめろ、一人暮らしぐらいみんなやってる……、んっ!」
浩二の唇が、俺のに当たっていた。驚いて口を開けたら、舌を入れられてまさぐられる。

(な……なんなんだよ一体っ!)
浩二の腰あたりをやめろと足で叩いて抵抗するもまったく意味がない。

「は、んっ」
上顎を舐められて、体中に今まで感じたことのないような痺れが走る。

「感じたのか」
「やめ、やめろよっ! なんのつもりっ……、ひっ」
「感じたんだな。……逃がさねえ」
「感じてなんかっ」
「卒業まで覚悟しとけよ、兄貴」
満足そうに耳元で笑うと浩二は部屋を出ていった。

(な……なんだったんだ)
乱れた服を直すこともせずに呆然とベッドに座っている俺には知る由もなかった。口を滑らせたばかりに、一人暮らしを夢見た俺の現実が、なくなるということを。そして、これからアイツの本気を身を以て知ることになるということに……。




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