さくらとキンパツ

かよ太

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01(完)

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花咲く四月。オレは入学式に出るため、K花学園の校門をくぐりぬけた。

受験のときに見た高校案内書に「見所」とデカく書かれていた通り、校門から校舎の方まで続いている桜並木は、雪のように桜色が舞い散っていて絶景だった。

新たな気持ちを胸に秘めたオレの背中を押してくれるような、この柔らかい景色を味わいながら歩いていると、一番大きな桜の樹に、金色が眼に入った。

樹の上に気持よさそうに眠っている、染めているのか、その樹の端々に風によって見え隠れするまぶしいくらいの金髪(ブロンド)が目立っている。

――――いや、あんなところで悠々と寝られるんだからサルかネコだなあ、ありゃ。

オレは興味津津で、そいつの顔が見える位置にまで移動した。やっぱりネコかもしれない。寝顔といい、いたずら好きそうなオーラといい、うちのちょっと抜けているがバカかわいい飼い猫にそっくりだった。特に日向であたっているときにする、満足そうな顔にかなり似ている。

ぼおっと見ていたけれど我に返った。電車の乗り継ぎに失敗して遅刻気味だったのだ。急いで講堂に行かなくちゃならないのに、こんなことをしていたら大変だ。
しかし、そんなオレを無視して学校のチャイムは無常にも鳴り響いた。

「うっ、わ」

――――オレの声じゃない。

驚いて上を見ると、樹の上のヤツがチャイムの音に驚いて、バランスを崩して発した声だった。

落ちてくる!

手を頭上に覆って身を守ろうとする。けれど、頭上の人間は、オレがいる場所を避けつつするりと着地に成功していた。

「……あん、お前……一年坊主かあ?」
驚いて尻餅をついたため、立ち上がってケツを撫でていると、じいーっと物珍しそうにそいつが覗き込んできた。えらく不躾な声のかけ方と覗き方に腹が立った。

「そうだな、絶対にそうだ。ミルクくさい顔しやがって……ったく俺が連れてってやるから、ついてこいよ」
金髪はオレの腕を引っ張りあげると、捩じあげて引きずりだした。



■ ■ ■



「おい、痛てえよ。ちょっと……!」
慌てて歩調をあわせようとするけれども、頭二つ分は違いそうな身長差のせいで、おもちゃを買ってもらえず、ずるずると親に駄々をこねている幼稚園児のような格好になっているのがすごく恥ずかしい。頑張って上を向くとキンパツの腕には、赤い腕章がついていた。

(もしかして、いや、もしかしなくとも、こいつは先輩なのか)
呆然としているオレに、キンパツは気にもとめない風に話しかけてきた。

「よくこんなところまで来たもんだなあ、お前も。校長みたことあんのか? あのバーコード。うんざりするくらい、ものすごく話が長いんだぜ。話し長くすりゃ毛が伸びてくるかっつーの。……おい、お前きいてんの」
「……聞いてますよ」
無駄話の多いヤツだ。こんなのとはあまり会話をしたくない。絶対、人の話をきちんとききそうにない。現に聞こうとしない。

「おい、隆史(たかし)! お前今までどこに行ってたんだ」
反対側から、忙しそうにしている眼鏡をかけた人が怒りながらキンパツの方へやってきた。

「怒るなよ、こいつが迷子になってたんだもんよ。なあ」

――――ムカ! フザケンナ。

なんでおれが迷子になんなきゃいけないんだ。サボって桜の木でのんびり寝ていたのは自分のくせに。睨みかえしても痛くもかゆくもないご様子で、キンパツはオレの腕をさらにひっぱり、眼鏡の前にさしだす。眼鏡はオレをじっとみて、ため息をついた。

いったい何なんだ。ここの生徒はみんなこんな失礼なやつらばっかりなのか。ここまでくると、不愉快さを隠しきれなくなってくる。

「あーもうわかった。とりあえず早くしろ。もうこれでお前は上がっていいから」
「うっしゃ~。じゃあ、コレ片付けたら帰るわ」
終いには「コレ」扱いになっていた。



■ ■ ■



この学校は、普通科と体育科の校舎が並立しているので、敷地がなかなか広い。桜並木はすでに途切れてしまったけれど、大きな講堂がようやく見えてきた。腕のほうも慣れてきたというか、なんというか。ずっと変わらない状態だ。

「お前さ、顔に出てんぞ」
「……」
「いちおう俺は、お前の先輩で道案内もしてやってるんだけど」
んなもんわかってるよ。ちょっとバカという自覚があるオレでもな、その腕に書いてある「案内役」という言葉くらいは読める。

「さあて、ついた。じゃあな、ここからは一人で行けよ」
お役目ゴメンといった笑顔がむかつくほどまぶしすぎる。ありがとうと感謝も述べたくないくらいにオレはこいつが嫌いになった。いや、大嫌いだ。

「おっと、礼くらいしろよ、お・礼」
何がお礼だ。オレは睨みつけた。「案内役」の先輩が後輩を「案内」するのは当たり前のはずだ。どういう経緯でこの役を任されたのかは知らないが、なんでこっちがお礼なんてしなきゃいけないんだ。と、頭の中でぐるぐるしているオレを楽しむように見たあと、キンパツは掴んでいた腕をさらにぐいと引っぱってきた。

予測しない事態に、オレの身体はついていけずに、そいつの胸にダイビングしてしまった。

「な……! ふざけ……っ!」
急いでキンパツのほうを見上げた瞬間、にんまりと笑ったそいつの顔が、不愉快なくらい視界いっぱいにやってきた。

「………!」
「んじゃあ、またな。後・輩・くん」
トン……ッと肩を押して引き離し、立ち尽くすオレを背にして、あいつは飄々と片手をあげて去っていった。

(…………な、)

「なんなんだよーッ!」

くそ、くそ。くっそーーーーーーーーーーー!
何が悲しくて、オレは男にお礼の代償として……キ、キス! を奪われなきゃならんのだ。
ぜってー許さねえ!

「許さねええからなあああーー!」
そんな、オレたちが再会するのは、なんの因果か部活ときだった……。





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