暁の虎

こより。

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生まれ持ったもの

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「なんだてめえ、なめてんのか?1年がいきって金髪にしてんじゃねえぞ?」

俺は入学式早々体育館裏に呼び出されていた。
早過ぎる。展開が早過ぎる。
慣れてはいたが、この展開の早さは新記録だった。

と言うのも、実はこの展開、入学式30分前の出来事なのである。

すごい、これが高校というところか。

俺は言い慣れた台詞を、そして事実を、
少しビビリながら、いやかなりビビリながら伝えた。

「すみません、これ、生まれつきなんです…」

そう、俺は何故か、生まれつき髪色が金色なのである。ただ、全てが金色なわけではなく、まばらに黒も入っているが、金色が8割を占めている。

この金髪のせいで、俺は少し生きづらい人生を送ってきた。
黒染めすれば良い話だと思うかもしれないが、これがまた不思議な話で、黒に染めたところで翌日には綺麗に金色に戻ってしまうのだ。
一度医師に相談したことがあるが、原因がさっぱり分からないということで、とりあえずは適当な病名をつけてもらい、学校教育の現場ではなんとか受け入れてもらってきた。

しかし、中学になった時から、周囲の目線が明らかに変わり、
いじめの対象や不良達の格好の餌食として常に問題を抱えていた。

だから俺はこの展開に関しては少し耐性がついていたわけなんだが、

高校生ともなると不良のレベルもランクがあがっているもので、
理解させるのにかなりの労力を費やすこととなる。
覚悟はしていたが、やはり、少し早過ぎるこの展開に、俺は事実を述べはしたが動揺を隠しきれなかった。

やや震える手を隠すようにポケットにしまい、下に向けていた視線を恐る恐る不良達の方に向けた。


不良達はきょとんとした顔をし、仲間と顔を見合わせ、盛大に大笑いした。

俺も紛れて引きつりながら笑っていると、

「何笑ってんだよてめえ」

先ほどまで大笑いしていた不良達の目犬にはシワがより、見事なまでに完成された不良の顔がそこにはあった。俺の瞳を撃ち抜くかのような眼光の鋭さに、俺は慌てて目線を下に戻した。

そしてついに、不良の手が俺の胸ぐらにのびる。

きた…!

ここで俺は最悪のケースが起こった場合用意しておいた最終奥義を解禁した。

「ドゥ…ドゥユーキルミー…?!オォ…ジーザス…オォオジーザス…!!」


完璧だった。
もうまさに完璧な発音だった。今までの中でダントツ一位の発音。
こんな時のために秘策として中学3年の時から英語を練習していたのだ。厳密にはそれらしい言葉を映画をみてシャドーイングしていただけなのだが。
でもまあ継続は力なりとはこういうことなのか、
なんて思考を巡らせる余裕はなかったが、
俺は冷や汗をたらしながらも全力で外人になりきった。

そう、俺は片方の親が外人のハーフなんだ、だから髪色が少し日本人離れしているんだ、ということを伝えたかったわけだ。

と言っても、こんな子供騙しが通用する確率は極めて低いことは百も承知。
ただ、どうせ何したってうまくいかないんなら当たって砕けろだ。
俺は他にも手当たり次第の英単語を並べ、持っているものを全てを出し切り、そして燃え尽きた。



不良達は先ほどとは雰囲気の違うきょとん顔をし、デジャブのように顔を見合わせた。

バレたか…

俺は目蓋をギュッと閉じ、歯を食いしばった。

そして、
不良の1人が口を開けた。


「お前、もしかしてハーフってやつなのか?」


「…!」


俺は全身の力が一気に抜けた。





完全勝利の瞬間だった。

あまりにも簡単に騙せたことに若干半信半疑だったが、
不良達の眼差しは確かに物珍しそうなものを見るかのような目に変わっており、
瞳とは言葉の次に語りかてくるものだということをこの時強く感じた。

俺はとてつもない優越感に満たされたが、同時に、
意外と冷静な思考が頭をよぎった。

騙したと言うことは、バレてはいけないと言うなんとも生きにくい状況を作ってしまったと。ただでさえ生きづらさを感じてきたのに、更に生きづらくなったのではと。


しかも相手が相手なだけに、
バレた時のことを考えるととてつもなく面倒に思えた。

はぁ…入学式早々こんなに転校したいと思ったのは初めてだった。

こんなことならもう一層のこと殴られておけばよかった。
嘘を突き通すぐらいなら真実を突き通すべきだったと、
完全勝利という言葉からそっと完全という言葉を取り除き、この状況にちょっとだけ勝利したと思うようにした。

呆気にとられてる俺をみながら不良が続けた。

「なあ、お前ハーフならなんとかネームとかあるんじゃねえの?なんて名前なんだよ」


「…!」


あ、完全に見落としていた。
そうだ、ハーフの設定ならミドルネームが必要じゃないか。

これはまずい…!
俺は予想外の質問に咄嗟にこう答えた。


「ニック」


うわあだっせぇえ…てゆうか更に嘘を重ねてしまった、、

「お前ニックって言うのか笑 なんかあまんり外人顔じゃねーけどまあいいや。本物の英語初めて聞いたわ。とりあえずよ、その金髪明日までに黒染めしとけよ。それで許してやるよ。とりあえず式でてこいよ。」

そう言い放ち、
不良達は俺の前からけらけら笑いながら去って行った。

「…」


俺は入学式に出る精神状態ではなくなっていた。当たり前だ。
俺はたった今、日本人としての卒業式を迎えたからである。

ニック…


憎い名前だ…ニックなだけに…


こうして、
俺は、ハーフとして半端じゃない刺激的すぎる高校生活をスタートさせたのであった。


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