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それからというものの、俺は生活するごとに息をするのも躊躇うぐらい、気を張りつめて毎日を送っていた。死の天使と対面してからというものの、俺は神経を尖らせた。いけちゃんは俺の変化に薄々気づいていたものの「しょうがないわねぇ」と甲斐甲斐しく毎日の料理を作ってくれた。
いけちゃんは基本主夫ではあるが、持ち前の体力を活かして日雇いの土建のバイトに行ったり、運送会社のバイトに行っていたので、生活としては食費を負担してくれたので困ることは無かった。時々余裕のある時は彼はジムに行って身体を鍛える事を惜しまなかった。
時々いけちゃんは「仕事で遅くなるから」と作り置きのおかずをテーブルに残して、仕事に出かけていた。俺は冷めたおかずをレンジで温めて1人でご飯を食べる。しかし、掻き込むほどお腹がすいている気がしなかった。いけちゃんに悪いと完食した時は、胃が痛くなりこっそりトイレで吐いた。咀嚼された卵や青菜、ご飯の粒が液体となって自分の口から押し戻された瞬間、申し訳なくて俺は涙が出た。
いけちゃんに合わす顔もない。
絶対絶命の女王、シスター・レイとは頻繁に夢の中で会うようになった。夢の中では自分は完全に自由で、俺はのうのうと彼女と軽く世間話を交わす。だが、目覚めた後、それが何を意味するのか現実に返ってまざまざと理解し、絶望した。彼女はよく言っていた、「夢に支配されるようになったら私の勝ちだからね」と。
そんなある日、いけちゃんは晩御飯の後軽く1杯飲もうとする俺をやんわり引き止めた。
「話があるの」
と、いけちゃんは正座した。
「あたしに息子がいるのは知ってるよね」
「ああ」俺は返事した。
いけちゃんには息子がいる。今では小学2年生だろうか。認知しただけのあまり縁がない息子だ。いけちゃんがまだ20歳の頃、自分のジェンダーに疑いをかけていて性的指向が定まらない頃、当時付き合っていた女性との間にできた子供だ。1度は家庭を持つことも考えたらしいが、やはり結婚はできなかったという。結婚しない代わりに親権は完全に彼女持ちとなった。よく聞けば彼女の親に自分のセクシャリティがバレて、子供に会わせて貰えなくなったとも聞く。
「ちゃんと聞いてね、あたし、息子と暮らそうと思うんだ」
いけちゃんの突然の告白に俺は動揺した。それは…それって…思いついたのは「擬似家族」という単語だったが、いけちゃんはさらに信じられない事を言った。
「彼女ともう一度やり直して3人で暮らすの」
その言葉を飲み込むのに時間がかかったのは否めない。俺は耳を疑った。
「なあ…」いけちゃんの頬に触れようと手を伸ばしたが、彼は避けるように顔を斜めに向けた。
「あたしという存在は1人しかいないの」と彼は決意を眉間に滲ませた。
しばらく時間が経った。時計の針が進んでいく。 俺は何も言えず、冷蔵庫から発泡酒を取り出してから「考えさせて」と部屋に籠った。すれ違いざま「…うん」言い残すことを我慢したいけちゃんは密かに涙を流した。
全てが失墜していく。自分の命がどうだとかいう話はどうでもよかった。俺はいけちゃんと離れてしまったら主を失った凧のように吹き飛ばされてやがてクルクルと落ちていくだろう。それをもう一人の自分が黙って見ているような感覚がした。
マイノリティの俺にも愛があったのだ。
気付かぬうちにそれを失おうとしている。
俺の中で神経の末端が失われる音を聞いた。
いけちゃんは基本主夫ではあるが、持ち前の体力を活かして日雇いの土建のバイトに行ったり、運送会社のバイトに行っていたので、生活としては食費を負担してくれたので困ることは無かった。時々余裕のある時は彼はジムに行って身体を鍛える事を惜しまなかった。
時々いけちゃんは「仕事で遅くなるから」と作り置きのおかずをテーブルに残して、仕事に出かけていた。俺は冷めたおかずをレンジで温めて1人でご飯を食べる。しかし、掻き込むほどお腹がすいている気がしなかった。いけちゃんに悪いと完食した時は、胃が痛くなりこっそりトイレで吐いた。咀嚼された卵や青菜、ご飯の粒が液体となって自分の口から押し戻された瞬間、申し訳なくて俺は涙が出た。
いけちゃんに合わす顔もない。
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そんなある日、いけちゃんは晩御飯の後軽く1杯飲もうとする俺をやんわり引き止めた。
「話があるの」
と、いけちゃんは正座した。
「あたしに息子がいるのは知ってるよね」
「ああ」俺は返事した。
いけちゃんには息子がいる。今では小学2年生だろうか。認知しただけのあまり縁がない息子だ。いけちゃんがまだ20歳の頃、自分のジェンダーに疑いをかけていて性的指向が定まらない頃、当時付き合っていた女性との間にできた子供だ。1度は家庭を持つことも考えたらしいが、やはり結婚はできなかったという。結婚しない代わりに親権は完全に彼女持ちとなった。よく聞けば彼女の親に自分のセクシャリティがバレて、子供に会わせて貰えなくなったとも聞く。
「ちゃんと聞いてね、あたし、息子と暮らそうと思うんだ」
いけちゃんの突然の告白に俺は動揺した。それは…それって…思いついたのは「擬似家族」という単語だったが、いけちゃんはさらに信じられない事を言った。
「彼女ともう一度やり直して3人で暮らすの」
その言葉を飲み込むのに時間がかかったのは否めない。俺は耳を疑った。
「なあ…」いけちゃんの頬に触れようと手を伸ばしたが、彼は避けるように顔を斜めに向けた。
「あたしという存在は1人しかいないの」と彼は決意を眉間に滲ませた。
しばらく時間が経った。時計の針が進んでいく。 俺は何も言えず、冷蔵庫から発泡酒を取り出してから「考えさせて」と部屋に籠った。すれ違いざま「…うん」言い残すことを我慢したいけちゃんは密かに涙を流した。
全てが失墜していく。自分の命がどうだとかいう話はどうでもよかった。俺はいけちゃんと離れてしまったら主を失った凧のように吹き飛ばされてやがてクルクルと落ちていくだろう。それをもう一人の自分が黙って見ているような感覚がした。
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気付かぬうちにそれを失おうとしている。
俺の中で神経の末端が失われる音を聞いた。
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