デッドフラワーズ

narieline

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 俺は、隣町の心療内科の待合室で予約の時間を待っていた。
 こうなった事に微塵の疑問も持たなかった。会社でのミスや遅刻、留守の間に失われていくいけちゃんの荷物、食欲不振に深酒、そして早朝覚醒。何かがおかしいとネットで調べてみたら、いわゆる鬱の入り口に立っているのではないかという事に気がついた。そして何よりも忌々しいシスター・レイの存在。彼女が俺の命を狙うならば、生きる意思を奪うならば、その前に消滅させればいい。彼女がシラフでいられるように、俺は命を放り出した。
 
 要するに俺が死ねば彼女も死ぬ。

 それとも彼女の事だから、他にターゲットを見つけるかもしれない。ともかく俺は彼女から存在を隠したかった。現れる度にウォーターリリーの香水の匂いを嗅ぐことにすら疲れていた。あいつは悪魔だ。良識を振りかざした悪魔だ。世間話で俺の様子を伺って、心の中では俺の寿命を計っている。

 日差しがブラインド越しにグレーに染まる。看護師に名前を呼ばれた俺は、診察室へと向かった。

 初老の男性は眼鏡をかけ直し、診察前に療法士が行った質問の一覧に目を通す。そして睡眠時間や食事を摂っているか、仕事には行けているか、という確認を行った。仕事はギリギリ行けているがミスばかりやらかすと伝える。それ以外は全部バツ印だ。
 俺はふと、シスター・レイの存在を思い出し、一通り話した。そこで医者は首を傾げた。
 「その女性は現実に存在しているのですか、それとも夢の中だけ?」俺は縦に首を振った。
 医者はしばらく考えて、それからフッと肩の力を抜いた。「なるほど。もしそれが現実だと言い張るならば統合失調症とも考えられますが、それとも様子が違うようだ」今度は俺が首を傾げた。
 「今のあなたは抑うつ状態ですね。このまま放置すれば鬱になっていたでしょう。薬を出します。この薬は多くの患者に使われているので…」と、薬の説明を始めた。
 「お大事に」その〆言葉と共に提供されたのはSSRIの抗鬱剤と睡眠薬だった。
それを受け取りながら俺は自分に対して疑問を感じた。俺は自分を消滅させたいと願いながら、薬に頼って生き長らえようとしているのではないか?
薬の束が入った紙袋をリュックにしまいながら、手が震えた。

 どちらにせよ、シスター・レイはやってくる。
 彼女がやってくる。日毎、日毎に。

 俺はやはり統合失調症なのかもしれない。シスター・レイは自分にとっては確かな存在だ。現実と同じ領域で夢は毎晩訪れる。とんだ袋小路に嵌められたものだと、俺は小さく嗤った。
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