デッドフラワーズ

narieline

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 結局俺は、処方された薬が効く前に3日間で飲むのを辞めた。朝目が覚めるのをガマンするのは辛かったので、睡眠薬だけは服用した。
 すると朝までぐっすりと眠ることがかできた。健康は睡眠からという言葉もあながち嘘ではないのかもしれない。だが、病気は少しづつ俺を蝕んだ。
 いけちゃんは最後の荷物を運び出したらしい。合鍵が新聞受けの中に放り込まれていた。彼が手入れしていた台所は見る間もなく散らかった。会社には処方箋に「軽度の鬱」という診断書を提出し、1ヶ月間の休養をもらった。その時上司から「そんなに休んだら、もしかしたら返って来る頃には机ないかもね~」と軽口を叩かれて、俺は奥歯をギュッと噛み締めた。「ご迷惑かけてすみません」と言うのがやっとだった。
 何かもがしんどく、俺を取り巻いた空気はどんどんよどよでいく。いけちゃんが去り、俺は一時的に会社も去った。
 そしてシスター・レイはこの頃から姿を現さなくなった。俺が自虐的になればなる程、夢を見なくなった。夢の背景はモノクロームで、彼女の瞼の色も口紅も、あの爪先もどんな色だったかも忘れた。彼女もまた俺の元を去った。

 鬱々とした感情で自分を押し殺して生きるか。
 それとも嬉嬉として生きてシスター・レイに年ごと命を奪われるか。
  
 今ひとつ言えるとしたら、自分には選ぶ権利も無いという事だ。

 休暇を貰って、俺は殆ど家にこもった。夜の街は俺にとっては眩しすぎた。赤や水色、ピンクのネオン管、行き交う酔っ払い、悪臭を放つ道路はハレーションを起こしそうだった。街に行けばそれは現実にシスター・レイに出会ってしまいそうな気がして怖かった。街中の騒音が、俺を押し潰した。
 初診から2週間後に予約を入れた病院から電話が入ったが、無視をした。睡眠薬もあとわずかばかりしかない。
 俺は緩慢な死を選ぼうとしていた。実際気がつけば自殺の方法をネットで調べていた。すぐには実行するのはためらわれたが、方法があると分かると、それだけでも何故か気持ちが楽になった。

 ある夜の深夜、けたたましくスマホが鳴った。
 俺は条件反射でそれを手にした。知らない番号は取らない主義だが、思わず反応して出た。
 「こっち、マジで退屈なんだけど」俺はとまどった。シスター・レイが電話をかけてきたのだ。絶対絶命の女王陛下は退屈のあまり痺れを切らして俺に電話をかけたのだ。俺はひゅう、と息をした。
 「何を今更?」俺は憎まれ口を叩いた。
 「お前にとって俺が生きようが生きまいが関係ないだろ」
 「そういう話じゃないの。あなたに異変が起きている」
 「確かにな。俺はどうやら生きたくないらしい。君をハイにさせる気はさらさらないよ」
 「いつものアメリカンダイナーに来て。あなたに本当のことを教えてあげる」
 本当のこと、に思わず引っかかった俺は、思わず彼女の言うことを承諾した。
 「こっちはくたばりそうなんだ、手短に頼むよ」
 「お願いだから生きていて」
 「どうたが」と返事する前に電話が切れた。
 部屋の無音が響き、時計の針はゆっくりと動いていく。時間はこれほどまで自分を押し潰していくのか、シスター・レイに会うまで無限に続いて行くような気がした。
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