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俺は自ら命を絶つ予感に立ち尽くしている。
そんな時シスター・レイは再び現れた。オレンジ色のソファーの向かいにどっかり、と座り込んだ彼女は信じられない程___荒みきっていた。
スパンコールのついた水色のワンピースは所々がほつれて、髪もしっかりカールされておらず櫛も入れてない様子だった。アイシャドウはオレンジで、ダークプラムの口紅が禿げかけている。
「わかる?」シスター・レイは引きつった笑みを浮かべた。
「もう、前みたいにハイになれないの」
彼女はそう言って袖口を肘までめくると、注射針の何本と打たれた跡を見せびらかした。
__つまりは、そういう事だ。
オマケに首元の黒いチョーカーのリボンには金色の刺繍で"I Can't Live With With Out You"と縫い込まれており、そのチョーカーの下は包帯でグルグル巻きにされていた。
__つまりは、そういう事だ。
俺たちはどうやら同じ地点にまで堕ちたらしい。
理由はあえて聞かなかった。その代わり、彼女の為に果汁100%のオレンジジュースを頼んだ。
「少なくともあなたの命は差し引いてあと5年ね」シスター・レイは口を開くなり弱々しくそう宣告した。
「信じられないね。そこまで残っているとは」俺はいつもの癖で自嘲した。
「生きたくないの?」
「君もだろ」
彼女はため息をついた。
「まあ、そんなところね」
「どうして、そうなった?」俺は何も頼まず水を飲む。コーヒーは胃を痛めるから飲めなくなった。
「あなたから命を奪おうとすると」彼女はひとくちオレンジジュースを飲んだ。
「少年が現れて私を憎悪むき出しの目でみつめてくる。彼は私の事を心底憎んでくる。その目が怖いの。彼は私の今までの過ちを全部知っている」
「男の子相手に何故そこまで怯える事がある?」
「その少年は、かつてのあなたよ」
「えっ?」
俺は生まれて初めて「怒り」の感情を覚えた時のことを思い出した。マリーという飼い犬の死。その時俺は確かにそう感じた。
「愛する者を奪われたら怒りをたずさえて取り戻さなくてはいけない。この世の中は不純でいっぱいだから、命をかけてでも守り抜かなきゃいけないことがあるのだ」と。
俺は一瞬動揺した。俺が今かろうじて生きているのは昔の俺が感情をほとぼらせているからなのか。そして、そのエネルギーが自分の中にまだ残っているということなのか。
シスター・レイは泣き出した。「彼は私をメチャクチャにする。今回はあなたの命を奪い取ることはこれ以上できない」彼女のアイラインが滲んで頬を伝った。
「私には時間がある。金もある。何故なら身体を売っているから」彼女がしゃくり上げる。絶対絶命の女王陛下の羽の扇子は羽が抜け落ちてみずほらしいただの扇子と化していた。
「怖いの、あなたが。私に今までの罰を与えようとしているの。あなたの中の少年は真実を知っている。私があなたの命を奪うのではなく「意思」を奪っているという事を知っている。あなたの幼い命は雷のように神聖で残酷。それに触れたら私は感電してしまう。だから」
彼女は首元を斜めに切る動作をする。
「失敗しちゃった…」
彼女は再び泣いた。最初に出会った頃の自信満々な態度が嘘みたいになりをひそめていた。
俺は再び水を飲み言った。
「じゃあ、一緒に死のうか」
彼女は手の甲で顔を拭いながら首を横に振る。
「分かってる?これはたかがあなたの夢の中の話しよ?私とあなたは近い距離にいるけど、交わることは決してない」
「俺にも何も残っていない。これ以上失うものはない。どうして今日君は現れた?」
泣き止んだ様子のシスター・レイは息を整えてこう吐き出した。
「あなたに生きて欲しいから」
彼女はそう言うと、前みたいにクラッチバッグから千円札を取りだした。そしてテーブルに置く。
「俺たちはもう会えないのか?」消えて欲しいと憎たらしくさえ思っていたシスター・レイが、急に愛おしくなった。
「死の女神は、役目を終えたら行く場所があるの」
彼女はそう言うと無理して微笑んだ。
「君のその笑顔を見ていたい」
「死ぬに死ねないシスター・レイはもう笑わない」そう言って真顔に戻った。まだ震える胸の内を理性で隠した。
「じゃあね、佑斗さん。おやすみなさい」彼女は立ち上がると店から出ていった。
残された俺は大きく進路を変えた命の行き先に、一瞬迷子になった。遠ざかるヒールの音。気がつけば自分でも僅かばかりに涙が流れた。
そんな時シスター・レイは再び現れた。オレンジ色のソファーの向かいにどっかり、と座り込んだ彼女は信じられない程___荒みきっていた。
スパンコールのついた水色のワンピースは所々がほつれて、髪もしっかりカールされておらず櫛も入れてない様子だった。アイシャドウはオレンジで、ダークプラムの口紅が禿げかけている。
「わかる?」シスター・レイは引きつった笑みを浮かべた。
「もう、前みたいにハイになれないの」
彼女はそう言って袖口を肘までめくると、注射針の何本と打たれた跡を見せびらかした。
__つまりは、そういう事だ。
オマケに首元の黒いチョーカーのリボンには金色の刺繍で"I Can't Live With With Out You"と縫い込まれており、そのチョーカーの下は包帯でグルグル巻きにされていた。
__つまりは、そういう事だ。
俺たちはどうやら同じ地点にまで堕ちたらしい。
理由はあえて聞かなかった。その代わり、彼女の為に果汁100%のオレンジジュースを頼んだ。
「少なくともあなたの命は差し引いてあと5年ね」シスター・レイは口を開くなり弱々しくそう宣告した。
「信じられないね。そこまで残っているとは」俺はいつもの癖で自嘲した。
「生きたくないの?」
「君もだろ」
彼女はため息をついた。
「まあ、そんなところね」
「どうして、そうなった?」俺は何も頼まず水を飲む。コーヒーは胃を痛めるから飲めなくなった。
「あなたから命を奪おうとすると」彼女はひとくちオレンジジュースを飲んだ。
「少年が現れて私を憎悪むき出しの目でみつめてくる。彼は私の事を心底憎んでくる。その目が怖いの。彼は私の今までの過ちを全部知っている」
「男の子相手に何故そこまで怯える事がある?」
「その少年は、かつてのあなたよ」
「えっ?」
俺は生まれて初めて「怒り」の感情を覚えた時のことを思い出した。マリーという飼い犬の死。その時俺は確かにそう感じた。
「愛する者を奪われたら怒りをたずさえて取り戻さなくてはいけない。この世の中は不純でいっぱいだから、命をかけてでも守り抜かなきゃいけないことがあるのだ」と。
俺は一瞬動揺した。俺が今かろうじて生きているのは昔の俺が感情をほとぼらせているからなのか。そして、そのエネルギーが自分の中にまだ残っているということなのか。
シスター・レイは泣き出した。「彼は私をメチャクチャにする。今回はあなたの命を奪い取ることはこれ以上できない」彼女のアイラインが滲んで頬を伝った。
「私には時間がある。金もある。何故なら身体を売っているから」彼女がしゃくり上げる。絶対絶命の女王陛下の羽の扇子は羽が抜け落ちてみずほらしいただの扇子と化していた。
「怖いの、あなたが。私に今までの罰を与えようとしているの。あなたの中の少年は真実を知っている。私があなたの命を奪うのではなく「意思」を奪っているという事を知っている。あなたの幼い命は雷のように神聖で残酷。それに触れたら私は感電してしまう。だから」
彼女は首元を斜めに切る動作をする。
「失敗しちゃった…」
彼女は再び泣いた。最初に出会った頃の自信満々な態度が嘘みたいになりをひそめていた。
俺は再び水を飲み言った。
「じゃあ、一緒に死のうか」
彼女は手の甲で顔を拭いながら首を横に振る。
「分かってる?これはたかがあなたの夢の中の話しよ?私とあなたは近い距離にいるけど、交わることは決してない」
「俺にも何も残っていない。これ以上失うものはない。どうして今日君は現れた?」
泣き止んだ様子のシスター・レイは息を整えてこう吐き出した。
「あなたに生きて欲しいから」
彼女はそう言うと、前みたいにクラッチバッグから千円札を取りだした。そしてテーブルに置く。
「俺たちはもう会えないのか?」消えて欲しいと憎たらしくさえ思っていたシスター・レイが、急に愛おしくなった。
「死の女神は、役目を終えたら行く場所があるの」
彼女はそう言うと無理して微笑んだ。
「君のその笑顔を見ていたい」
「死ぬに死ねないシスター・レイはもう笑わない」そう言って真顔に戻った。まだ震える胸の内を理性で隠した。
「じゃあね、佑斗さん。おやすみなさい」彼女は立ち上がると店から出ていった。
残された俺は大きく進路を変えた命の行き先に、一瞬迷子になった。遠ざかるヒールの音。気がつけば自分でも僅かばかりに涙が流れた。
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