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3 ジグソーパズル
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「俺さ、ちょっとひとりで外出てみようかなって思って」
ある朝、なんとなくで切り出してみた。
トーストをかじっていた蓮は目を丸くして固まり、ややあって、もぐもぐとしながら心配そうにたずねてきた。
「え? 大丈夫なの?」
「うん。ちょっと試しに」
元々自殺を考えるほどマイナス思考だったうえに、誰かに探されているかもしれない恐怖もあって、ひとりで出かけたことはまだ1回もなかった。
「うしろからついて行ってもいい?」
「いや、はじめてのおつかいじゃないんだから。大丈夫だよひとりで」
大まじめな顔で言う過保護な蓮に、ちょっと笑ってしまう。
蓮はしばらく眉間にしわを寄せたあと、自分のなかで何か納得したのか、うんうんとうなずいた。
「たしかに、ずーっとオレとベッタリじゃ気付かないこともあるかも知れないもんな。気晴らしになるなら行ってきたらいいよ。どこ行くの?」
「とりあえず駅前ブラつく」
「そっかそっか。じゃあオレは家で作業してるから」
駅ビルも開店直後ならそんなにひとがいないだろうということで、朝食を食べ終えてすぐに、家を出た。
もうすぐバレンタインデー。世の中は浮かれているらしい。
朝だというのにイルミネーションがチカチカしていて、ファッションビルのショーウィンドウには、デート服っぽいマネキンとSALEの文字。
地球の外から来たわけでもなし、元々は普通に出歩いていたんだから、過剰に怖がることもないはず。
そう思ってみるのだけど、やっぱりなんだか、恐怖感はある。
具体的に何がとかいうよりは、ひとの視線に対する条件反射的な不安かもしれない。
入って正面のフロアは、チョコレートの臨時売り場になっていた。
その後ろは、時計屋さん。アクセサリーのお店。輸入雑貨店。
どこも、やっぱりバレンタインなんだなって感じの、ギフトを意識したポップが並んでいる。
せっかくひとりで来たし、俺も蓮に何か買って贈ろうかなと思ったけれど、ふと思ってしまった。
働いてもいないし、ただ家にいるだけ。
蓮のためになることなんて何ひとつしてあげられていないのに、モノなんか贈ってどうなんだろう……と。
シンプルに、情けないな、と思う。
元々、自殺しようとしているなんて最高潮にダサい場面を助けられて関係が始まっているのだから、いまさら自分の情けなさに失望することなんてないかも知れない。
だけど、蓮だって体を壊して休学中の身なのだから、誰かに助けられることはあっても、誰かの世話なんてしてていいはずがないと思う。
でも現実には、世話をかけてしまっている自分がいる。
モノを渡す前に、他にもっとやることがあるだろう。
自信を持って感謝のプレゼントを渡せるラインにすら立てていない、と自己分析して、きょうは買うのをやめた。
「ただいま」
部屋に入ると、パソコンデスクに向かっていた蓮が、いすをくるりと回転させてこちらを向いた。
「おかえり。遅いから心配した」
まるでお母さんみたいな表情をするので、笑ってしまった。
遅いって、1時間も経っていない。
「どうだった? 大丈夫?」
「うん、ほんとただブラブラしてただけだし。特にトラブルもなく」
「良かった。楽しめた?」
「まあ、長めの散歩で健康になった感じはする」
「そっかそっか」
うれしそうにこくこくとうなずいた蓮は、いすを元の方向へ戻し、パソコンの電源を落とした。
「蓮は? 何やってたの?」
「バイトのメール来てたから、それ読んでた。んで、やろっかなーって」
ソファに移動してきたので、俺もさくっと手を洗ってその横に座った。
「バイトって? OBの方の建築事務所に戻るの?」
「いや、単発。決まった日に定期的に行くとかはまだ無理そうだから」
「単発も無理しないほうがいいんじゃないの?」
「んーん、こっちは気楽だからいいんだ」
以前、『単発バイトと貯金で食いつないでいる』と言っていたけれど、俺が来てから2週間、ずっと俺にかかりきりで、バイトには行っていなかった。
もしも俺のために抑えていたのだとしたら、申し訳ないなと思った。
「単発って例えばどんなことするの?」
「大体、学会とかシンポジウムのお手伝いかな。あとは、建築事務所の修羅場にひたすら線を引くだけ要員で駆り出されるやつ」
「え……? それって、バイトサイトで応募するやつじゃなくて?」
「うん、全部縁故」
驚いた。そして呆れた。
「蓮はさあ。そういうところで期待されるのがプレッシャーになって咳止まんなかったんでしょ? 命削ってバイトする?」
「無駄なフェスの警備員で貴重な人生の時間費やしたって、得るもの1個もないし。でもまあ、そうだね。バイト行った日の夜は全然咳止まんなくて眠れなかった」
蓮は、俺の肩に手を回して、そのまま体をぐっと引き寄せた。
そして、目を細めて微笑む。
「でもいまは、弓弦いたら咳出ないし。咳出るようなら断ればいいし。今回は、引き受けることについて何の心配もないかな」
ちょんちょんと、おでこに何度かキス。
「弓弦がいてくれると、何でもうまくいく気がするから不思議。ふたりで無理しないように、助け合って生きてこ?」
そう言われてほっとする自分が、幸せなような、ひととしてどうなのかと思うような。
とても複雑な気持ちになった。
何もしていなくても存在を肯定してもらえる。
死ぬまでの仁井田さんが、誰にもしてもらえなかったことだ。
ちゃんと役に立っているのだと言ってもらえて、本当にうれしい。
でも、そんなこと、言われてしまっていいのだろうか。
お互い弱っているのに蓮ばかりが頑張っていて、俺はやっと自力で外に出られたところだ。
これを『助け合ってる』と言ってしまうのは、ひととしてダメな気がする。
それに、もし蓮がバリバリに活躍した状態で出会っていたら、きっと引け目を感じていたろうし、こんな優しい気持ちになれたかどうか……自信がない。
ある朝、なんとなくで切り出してみた。
トーストをかじっていた蓮は目を丸くして固まり、ややあって、もぐもぐとしながら心配そうにたずねてきた。
「え? 大丈夫なの?」
「うん。ちょっと試しに」
元々自殺を考えるほどマイナス思考だったうえに、誰かに探されているかもしれない恐怖もあって、ひとりで出かけたことはまだ1回もなかった。
「うしろからついて行ってもいい?」
「いや、はじめてのおつかいじゃないんだから。大丈夫だよひとりで」
大まじめな顔で言う過保護な蓮に、ちょっと笑ってしまう。
蓮はしばらく眉間にしわを寄せたあと、自分のなかで何か納得したのか、うんうんとうなずいた。
「たしかに、ずーっとオレとベッタリじゃ気付かないこともあるかも知れないもんな。気晴らしになるなら行ってきたらいいよ。どこ行くの?」
「とりあえず駅前ブラつく」
「そっかそっか。じゃあオレは家で作業してるから」
駅ビルも開店直後ならそんなにひとがいないだろうということで、朝食を食べ終えてすぐに、家を出た。
もうすぐバレンタインデー。世の中は浮かれているらしい。
朝だというのにイルミネーションがチカチカしていて、ファッションビルのショーウィンドウには、デート服っぽいマネキンとSALEの文字。
地球の外から来たわけでもなし、元々は普通に出歩いていたんだから、過剰に怖がることもないはず。
そう思ってみるのだけど、やっぱりなんだか、恐怖感はある。
具体的に何がとかいうよりは、ひとの視線に対する条件反射的な不安かもしれない。
入って正面のフロアは、チョコレートの臨時売り場になっていた。
その後ろは、時計屋さん。アクセサリーのお店。輸入雑貨店。
どこも、やっぱりバレンタインなんだなって感じの、ギフトを意識したポップが並んでいる。
せっかくひとりで来たし、俺も蓮に何か買って贈ろうかなと思ったけれど、ふと思ってしまった。
働いてもいないし、ただ家にいるだけ。
蓮のためになることなんて何ひとつしてあげられていないのに、モノなんか贈ってどうなんだろう……と。
シンプルに、情けないな、と思う。
元々、自殺しようとしているなんて最高潮にダサい場面を助けられて関係が始まっているのだから、いまさら自分の情けなさに失望することなんてないかも知れない。
だけど、蓮だって体を壊して休学中の身なのだから、誰かに助けられることはあっても、誰かの世話なんてしてていいはずがないと思う。
でも現実には、世話をかけてしまっている自分がいる。
モノを渡す前に、他にもっとやることがあるだろう。
自信を持って感謝のプレゼントを渡せるラインにすら立てていない、と自己分析して、きょうは買うのをやめた。
「ただいま」
部屋に入ると、パソコンデスクに向かっていた蓮が、いすをくるりと回転させてこちらを向いた。
「おかえり。遅いから心配した」
まるでお母さんみたいな表情をするので、笑ってしまった。
遅いって、1時間も経っていない。
「どうだった? 大丈夫?」
「うん、ほんとただブラブラしてただけだし。特にトラブルもなく」
「良かった。楽しめた?」
「まあ、長めの散歩で健康になった感じはする」
「そっかそっか」
うれしそうにこくこくとうなずいた蓮は、いすを元の方向へ戻し、パソコンの電源を落とした。
「蓮は? 何やってたの?」
「バイトのメール来てたから、それ読んでた。んで、やろっかなーって」
ソファに移動してきたので、俺もさくっと手を洗ってその横に座った。
「バイトって? OBの方の建築事務所に戻るの?」
「いや、単発。決まった日に定期的に行くとかはまだ無理そうだから」
「単発も無理しないほうがいいんじゃないの?」
「んーん、こっちは気楽だからいいんだ」
以前、『単発バイトと貯金で食いつないでいる』と言っていたけれど、俺が来てから2週間、ずっと俺にかかりきりで、バイトには行っていなかった。
もしも俺のために抑えていたのだとしたら、申し訳ないなと思った。
「単発って例えばどんなことするの?」
「大体、学会とかシンポジウムのお手伝いかな。あとは、建築事務所の修羅場にひたすら線を引くだけ要員で駆り出されるやつ」
「え……? それって、バイトサイトで応募するやつじゃなくて?」
「うん、全部縁故」
驚いた。そして呆れた。
「蓮はさあ。そういうところで期待されるのがプレッシャーになって咳止まんなかったんでしょ? 命削ってバイトする?」
「無駄なフェスの警備員で貴重な人生の時間費やしたって、得るもの1個もないし。でもまあ、そうだね。バイト行った日の夜は全然咳止まんなくて眠れなかった」
蓮は、俺の肩に手を回して、そのまま体をぐっと引き寄せた。
そして、目を細めて微笑む。
「でもいまは、弓弦いたら咳出ないし。咳出るようなら断ればいいし。今回は、引き受けることについて何の心配もないかな」
ちょんちょんと、おでこに何度かキス。
「弓弦がいてくれると、何でもうまくいく気がするから不思議。ふたりで無理しないように、助け合って生きてこ?」
そう言われてほっとする自分が、幸せなような、ひととしてどうなのかと思うような。
とても複雑な気持ちになった。
何もしていなくても存在を肯定してもらえる。
死ぬまでの仁井田さんが、誰にもしてもらえなかったことだ。
ちゃんと役に立っているのだと言ってもらえて、本当にうれしい。
でも、そんなこと、言われてしまっていいのだろうか。
お互い弱っているのに蓮ばかりが頑張っていて、俺はやっと自力で外に出られたところだ。
これを『助け合ってる』と言ってしまうのは、ひととしてダメな気がする。
それに、もし蓮がバリバリに活躍した状態で出会っていたら、きっと引け目を感じていたろうし、こんな優しい気持ちになれたかどうか……自信がない。
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