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謎③ 英雄の暗号
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家に帰り、早速暗号の読解にとりかかる。
まずは1番簡単な、『賽は投げられた』と言った人物の特定。
ガイウス・ユリウス・カエサル。
古代ローマの英雄的な政治家、軍人、文筆家らしい。
カエサルの名前が入った暗号の法則が分かればいいのだから、素直にそう検索すればいい。
<カエサル 暗号>
1番上に出てきたのは『シーザー式暗号』というものだった。
シーザー? カエサルじゃなくて?
外したかなと思いつつ、タップしてみる。
なるほど、カエサルはラテン語の発音で、英語名ではシーザーと呼ばれているらしい。
暗号の法則はこれで間違いなさそうだ。
説明を読んでみると、仕組みは実に単純明快で、アルファベットを決まった文字数ずらすだけ。
先生は『1つ分、進めるか戻す』と言っていたから、たとえばBなら、進めればC、戻せばA。
先生が書いた暗号は[QJBAAPMMB22]
まずは、全部の文字を1文字分進めてみる。
[RKCBBNNC33]
全然人名にはならない。
では、戻したらどうか。
[PIAZZOLLA11]
「ピザみたい」
思わず口から出てしまったけど、これならあり得る気がする。
Piazzollaなる音楽家がいるかを検索してみたら、ちゃーんといた。
【アストル・ピアソラ】 Astor Piazzolla
1921年3月11日生まれの、作曲家・バンドネオン奏者。
ジャンルは、アルゼンチンタンゴ。
誕生日も11日で一致。
piazzolla11@白い犬で確定だ。
メモ紙を見ながら、ニヤニヤしてしまった。
先生の連絡先、ついでに、どんな音楽が好きかまで知っちゃったのだから。
タンゴなんて聞いたことがないし、バンドネオンというのがどんな楽器なのかも知らないけど、なんというか……ジャズでもクラシックでもないところが、さすが新葉先生って感じでかっこいいなと思った。
さて、アドレスが分かったところで、何と送ろうかと迷う。
先生は『なるべく情熱的に頼むよ』と言っていた。
これも何かの暗号なのだろうか。それとも、作文の宿題?
とりあえず、ピアソラの曲がどんなものなのかを聴いた方がいいと思い、動画で検索した。
鋭く短く1音1音が切れる、スタッカートのような調子で、ちょっと物悲しげな、でも力強いメロディ。
タンゴといえば社交ダンスのイメージだし、情熱的な感じがする。
バンドネオンという楽器は、アコーディオンのようなものだった。
素早く膨らませたり縮めたりしながら巧みにボタンを操作する様子を見ていると、高揚感を覚える。
約3分間の曲ををリピートすること20回。
迷いに迷って作った文面はこれだ。
――J NJTT ZPV CBEMZ
別に返事はくれなくてもよくて、ただ、いま1番思ってることを書いただけだ。
休み明けに、相談室でダメ出しでもなんでもしてくれたらそれでいい。
緊張しつつ送った、20秒後。なんと、返事が来た。
「え!?」
驚きすぎて、思わず電話を取り落としそうになる。
即レスも即レス。
開いてみると、080から始まる電話番号だけが書いてあった。
ずらしたら変な数字になっちゃうし、シーザー式ではなさそう。
緊張しつつ、かけてみた。
コール1回で電話がつながる。
『ごきげんよう』
「え……っと。電話番号、教えてくれてありがとうございました」
話す内容を何も考えていなくて、こんなすっとぼけたことを言ってしまった。
先生は少し沈黙したあと、棒読みのように言った。
『I miss you badly. そうかね、そんなにかね』
「はい。めちゃくちゃ」
迷いに迷って送った文章は、『すごく恋しい』。
本来は『ひどく』という意味のbadlyは、missにくっつけると、『すごく恋しい』という焦がれたニュアンスになると、つい最近授業で習った――まさか自分がそんな文を使う日が来るとは思っていなかったけど。
辞書を引いて、切実さを表す言葉は他にも見つけた。
でもあえて悪い意味のbadlyを選んで、尋常じゃないくらい恋しいということを伝えてみたつもりだ。
『君は、可愛い顔してずいぶんませたことを言うんだね』
「えっと。ピアソラの曲を聴いてみたら、めちゃくちゃ先生に会いたくなっちゃって」
『なぜ?』
「家の縁側で、さらっと浴衣姿でこれを聴きながら月見をしている先生を想像したら、かっこいいな。とか」
先生は、黙った。何も言わない。
俺は半笑いで言った。
「電話だと、どんな表情してるか分かんないですね。けど、微妙な顔で笑いをこらえてるんだろうなってことは分かります」
『そんなわけないじゃない。感動に打ち震えて言葉を失っていただけだよ』
少しの沈黙。先生はクスッと笑った。
『あした、うちへおいで。場所は分かるね?』
「はい。西永福の駅を出て、交番側へ」
『待ってるよ。おやすみ』
最近ようやく、『好き』というのがどういう感情なのかが分かってきた。
先生をふと頭に思い浮かべるとき、大事にしたい、されたいという気持ちがぶわっと膨れ上がる。
先生の好きなところは色々あるけど、1番はやっぱり、独特な方法で愛情表現をしてくるところ、かな。
まずは1番簡単な、『賽は投げられた』と言った人物の特定。
ガイウス・ユリウス・カエサル。
古代ローマの英雄的な政治家、軍人、文筆家らしい。
カエサルの名前が入った暗号の法則が分かればいいのだから、素直にそう検索すればいい。
<カエサル 暗号>
1番上に出てきたのは『シーザー式暗号』というものだった。
シーザー? カエサルじゃなくて?
外したかなと思いつつ、タップしてみる。
なるほど、カエサルはラテン語の発音で、英語名ではシーザーと呼ばれているらしい。
暗号の法則はこれで間違いなさそうだ。
説明を読んでみると、仕組みは実に単純明快で、アルファベットを決まった文字数ずらすだけ。
先生は『1つ分、進めるか戻す』と言っていたから、たとえばBなら、進めればC、戻せばA。
先生が書いた暗号は[QJBAAPMMB22]
まずは、全部の文字を1文字分進めてみる。
[RKCBBNNC33]
全然人名にはならない。
では、戻したらどうか。
[PIAZZOLLA11]
「ピザみたい」
思わず口から出てしまったけど、これならあり得る気がする。
Piazzollaなる音楽家がいるかを検索してみたら、ちゃーんといた。
【アストル・ピアソラ】 Astor Piazzolla
1921年3月11日生まれの、作曲家・バンドネオン奏者。
ジャンルは、アルゼンチンタンゴ。
誕生日も11日で一致。
piazzolla11@白い犬で確定だ。
メモ紙を見ながら、ニヤニヤしてしまった。
先生の連絡先、ついでに、どんな音楽が好きかまで知っちゃったのだから。
タンゴなんて聞いたことがないし、バンドネオンというのがどんな楽器なのかも知らないけど、なんというか……ジャズでもクラシックでもないところが、さすが新葉先生って感じでかっこいいなと思った。
さて、アドレスが分かったところで、何と送ろうかと迷う。
先生は『なるべく情熱的に頼むよ』と言っていた。
これも何かの暗号なのだろうか。それとも、作文の宿題?
とりあえず、ピアソラの曲がどんなものなのかを聴いた方がいいと思い、動画で検索した。
鋭く短く1音1音が切れる、スタッカートのような調子で、ちょっと物悲しげな、でも力強いメロディ。
タンゴといえば社交ダンスのイメージだし、情熱的な感じがする。
バンドネオンという楽器は、アコーディオンのようなものだった。
素早く膨らませたり縮めたりしながら巧みにボタンを操作する様子を見ていると、高揚感を覚える。
約3分間の曲ををリピートすること20回。
迷いに迷って作った文面はこれだ。
――J NJTT ZPV CBEMZ
別に返事はくれなくてもよくて、ただ、いま1番思ってることを書いただけだ。
休み明けに、相談室でダメ出しでもなんでもしてくれたらそれでいい。
緊張しつつ送った、20秒後。なんと、返事が来た。
「え!?」
驚きすぎて、思わず電話を取り落としそうになる。
即レスも即レス。
開いてみると、080から始まる電話番号だけが書いてあった。
ずらしたら変な数字になっちゃうし、シーザー式ではなさそう。
緊張しつつ、かけてみた。
コール1回で電話がつながる。
『ごきげんよう』
「え……っと。電話番号、教えてくれてありがとうございました」
話す内容を何も考えていなくて、こんなすっとぼけたことを言ってしまった。
先生は少し沈黙したあと、棒読みのように言った。
『I miss you badly. そうかね、そんなにかね』
「はい。めちゃくちゃ」
迷いに迷って送った文章は、『すごく恋しい』。
本来は『ひどく』という意味のbadlyは、missにくっつけると、『すごく恋しい』という焦がれたニュアンスになると、つい最近授業で習った――まさか自分がそんな文を使う日が来るとは思っていなかったけど。
辞書を引いて、切実さを表す言葉は他にも見つけた。
でもあえて悪い意味のbadlyを選んで、尋常じゃないくらい恋しいということを伝えてみたつもりだ。
『君は、可愛い顔してずいぶんませたことを言うんだね』
「えっと。ピアソラの曲を聴いてみたら、めちゃくちゃ先生に会いたくなっちゃって」
『なぜ?』
「家の縁側で、さらっと浴衣姿でこれを聴きながら月見をしている先生を想像したら、かっこいいな。とか」
先生は、黙った。何も言わない。
俺は半笑いで言った。
「電話だと、どんな表情してるか分かんないですね。けど、微妙な顔で笑いをこらえてるんだろうなってことは分かります」
『そんなわけないじゃない。感動に打ち震えて言葉を失っていただけだよ』
少しの沈黙。先生はクスッと笑った。
『あした、うちへおいで。場所は分かるね?』
「はい。西永福の駅を出て、交番側へ」
『待ってるよ。おやすみ』
最近ようやく、『好き』というのがどういう感情なのかが分かってきた。
先生をふと頭に思い浮かべるとき、大事にしたい、されたいという気持ちがぶわっと膨れ上がる。
先生の好きなところは色々あるけど、1番はやっぱり、独特な方法で愛情表現をしてくるところ、かな。
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