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謎⑤ 幻のヒーロー
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翌日、火曜日。
女子と一緒に帰るという、もう一生ないであろう経験をし、カフェについたのが15:45。
店内に他の学生は見当たらず、ホッとする。
お互い飲み物を注文して、待つ間に佐々木さんが早速切り出した。
「あの、実は……大河くん、わたしと付き合っているフリをしてほしいの」
「えっ」
驚くと同時に、予想の範囲内。
きのうのうちに先生と相談しておいてよかった――でなければ、絶対気が動転していた。
斜め向こう側には、ラフなTシャツにデニム、青いレンズのサングラスをかけた先生。
佐々木さんは、ちょっとあごを引いた状態で、上目遣いでチラッとこちらの様子をうかがっている。
とりあえず、戸惑ったように聞き返してみた。
「えっと、フリっていうのは……」
「普通に、一緒にお弁当食べたり、休日に遊びに行ったり」
もしこれが普通のモテない男だったら、すぐに飛びつくだろう。
完全に役得だけど、おいしすぎる。
しかし俺は、ゆるく首を振った。
「申し訳ないんだけど……実は恋人がいるから、付き合ってるフリはできないや。ごめん」
正直に答えると、佐々木さんは、目がごろっと取れてしまうんじゃないかと思うくらい見開いて、絶句していた。
そりゃそうだ。友達ゼロで浮いてる俺に、恋人がいるなんて、思うはずがない。
佐々木さんは、びっくりしているのか疑っているのか興味本位なのかは分からないけど、矢継ぎ早に質問してきた。
「同級生?」
「年上で、社会人」
「どんなひと?」
「すごく綺麗なひと。それに頭いい」
「どのくらい付き合ってるの?」
「まだ2ヶ月くらい」
「何繋がり?」
「趣味」
「休みの日にデートとかするの?」
「向こうがひとり暮らしだから、ちょっと出かけたあと家でまったりが多い」
よどみなく答えるので、本当だと信じたらしい――とは言え、超常現象に遭ったみたいな表情だけど。
「……そっか。利用するみたいに言っちゃってごめんね」
「いや、いいんだけど。何か訳があるの?」
佐々木さんは、黙ってしまった。
どうしよう。
なんと声をかけていいやらと思いつつじっと待っていると、1分ほど経ったところで、ポツッと言った。
「変な手紙が届くの」
佐々木さんの話を総合すると、家に交際を迫るような怪文書が連続して届いたので、誰かと付き合っているフリをすれば解決するのではと考えた。
俺を選んだのは、周りに言いふらしたりしなさそうだという理由らしい。
それに、彼女はいないだろうと思い込んでいた、ごめんなさい、と謝られた。
「警察とか親に相談しないの?」
「大ごとにしたくなくて」
「そっか」
こんな大変な事態なのに、会話スキルがないせいで話が続かない。
自分の情けなさを思い知りつつ、ひとつ提案する。
「あの、親が無理なら、相談室とか」
「え?」
「いや、新葉先生なら、話したこと秘密にしてくれるかな、と……」
本を読んでいた先生が、チラッと顔を上げる。
いつもと違う風に髪をセットしていて、正直、めちゃくちゃかっこいい。
……と、そんな邪なことを考えている場合ではないので、気を取り直す。
「どうしよっかな。あんまりひとに見せたくなくて」
「無理にとは言わないけど」
佐々木さんは、しばらく考えたあと、小首をかしげた。
「大河くんも一緒に来てくれるなら」
「え……うん。分かった」
あしたの放課後、怪文書の実物を持って、相談室へ行く約束をした。
佐々木さんとは駅で別れ、完全に見送ったところで、柱の影で本を読む人物のもとへ駆け寄る。
「先生」
「来るの? あした」
心底嫌そうだ。
「ふたりで行きます」
ムスッとして、何も言わない。
さしずめ、ふたりきりの時間を邪魔されるのが不満だとか、そんなことだろう。
「あの、全然関係ない話していいですか?」
「何」
「先生、洋服もかっこいいです。なんか、芸能人みたい。かっこいい」
いつもふたりで歩いていると、着流し姿の物珍しさでひとの視線を集めるのだけど、きょうはなんというか、女のひとがチラチラ振り返ったりして見てる気がする。
先生はたぶん照れ隠しで、サングラスのズレを直した。
「内容は家でたっぷりイタズラしたあとに聞きましょうか。ほれ、お母上に……」
「クラスの子に相談されたから、夕飯食べて帰るね。って書きます」
初めて、本当のことが書ける。
相談してきた子と食べるわけじゃないけど、文面的に嘘は言っていない。
主語がないだけだ。
女子と一緒に帰るという、もう一生ないであろう経験をし、カフェについたのが15:45。
店内に他の学生は見当たらず、ホッとする。
お互い飲み物を注文して、待つ間に佐々木さんが早速切り出した。
「あの、実は……大河くん、わたしと付き合っているフリをしてほしいの」
「えっ」
驚くと同時に、予想の範囲内。
きのうのうちに先生と相談しておいてよかった――でなければ、絶対気が動転していた。
斜め向こう側には、ラフなTシャツにデニム、青いレンズのサングラスをかけた先生。
佐々木さんは、ちょっとあごを引いた状態で、上目遣いでチラッとこちらの様子をうかがっている。
とりあえず、戸惑ったように聞き返してみた。
「えっと、フリっていうのは……」
「普通に、一緒にお弁当食べたり、休日に遊びに行ったり」
もしこれが普通のモテない男だったら、すぐに飛びつくだろう。
完全に役得だけど、おいしすぎる。
しかし俺は、ゆるく首を振った。
「申し訳ないんだけど……実は恋人がいるから、付き合ってるフリはできないや。ごめん」
正直に答えると、佐々木さんは、目がごろっと取れてしまうんじゃないかと思うくらい見開いて、絶句していた。
そりゃそうだ。友達ゼロで浮いてる俺に、恋人がいるなんて、思うはずがない。
佐々木さんは、びっくりしているのか疑っているのか興味本位なのかは分からないけど、矢継ぎ早に質問してきた。
「同級生?」
「年上で、社会人」
「どんなひと?」
「すごく綺麗なひと。それに頭いい」
「どのくらい付き合ってるの?」
「まだ2ヶ月くらい」
「何繋がり?」
「趣味」
「休みの日にデートとかするの?」
「向こうがひとり暮らしだから、ちょっと出かけたあと家でまったりが多い」
よどみなく答えるので、本当だと信じたらしい――とは言え、超常現象に遭ったみたいな表情だけど。
「……そっか。利用するみたいに言っちゃってごめんね」
「いや、いいんだけど。何か訳があるの?」
佐々木さんは、黙ってしまった。
どうしよう。
なんと声をかけていいやらと思いつつじっと待っていると、1分ほど経ったところで、ポツッと言った。
「変な手紙が届くの」
佐々木さんの話を総合すると、家に交際を迫るような怪文書が連続して届いたので、誰かと付き合っているフリをすれば解決するのではと考えた。
俺を選んだのは、周りに言いふらしたりしなさそうだという理由らしい。
それに、彼女はいないだろうと思い込んでいた、ごめんなさい、と謝られた。
「警察とか親に相談しないの?」
「大ごとにしたくなくて」
「そっか」
こんな大変な事態なのに、会話スキルがないせいで話が続かない。
自分の情けなさを思い知りつつ、ひとつ提案する。
「あの、親が無理なら、相談室とか」
「え?」
「いや、新葉先生なら、話したこと秘密にしてくれるかな、と……」
本を読んでいた先生が、チラッと顔を上げる。
いつもと違う風に髪をセットしていて、正直、めちゃくちゃかっこいい。
……と、そんな邪なことを考えている場合ではないので、気を取り直す。
「どうしよっかな。あんまりひとに見せたくなくて」
「無理にとは言わないけど」
佐々木さんは、しばらく考えたあと、小首をかしげた。
「大河くんも一緒に来てくれるなら」
「え……うん。分かった」
あしたの放課後、怪文書の実物を持って、相談室へ行く約束をした。
佐々木さんとは駅で別れ、完全に見送ったところで、柱の影で本を読む人物のもとへ駆け寄る。
「先生」
「来るの? あした」
心底嫌そうだ。
「ふたりで行きます」
ムスッとして、何も言わない。
さしずめ、ふたりきりの時間を邪魔されるのが不満だとか、そんなことだろう。
「あの、全然関係ない話していいですか?」
「何」
「先生、洋服もかっこいいです。なんか、芸能人みたい。かっこいい」
いつもふたりで歩いていると、着流し姿の物珍しさでひとの視線を集めるのだけど、きょうはなんというか、女のひとがチラチラ振り返ったりして見てる気がする。
先生はたぶん照れ隠しで、サングラスのズレを直した。
「内容は家でたっぷりイタズラしたあとに聞きましょうか。ほれ、お母上に……」
「クラスの子に相談されたから、夕飯食べて帰るね。って書きます」
初めて、本当のことが書ける。
相談してきた子と食べるわけじゃないけど、文面的に嘘は言っていない。
主語がないだけだ。
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