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Day2 - 水戸くんは、恥ずかしくないの?
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スコンと抜ける音が響いて、体育館の天井めがけて、シャトルが宙を舞った。
僕はその軌道を目で追い、軽くいなして打ち返す。
水戸くんのラケットを空が切り、シャトルはぽとりと床に落ちた。
「すごいね、理空、バドミントン得意なんだ」
「中学のときバド部だったから」
ラケットでシャトルをすくい上げ、開いた左手でぱっと掴む。
水戸くんは爽やかに汗を拭いながら言った。
「これだけうまくラケットがさばけるなら、2.5次元ミュージカルいけるんじゃない?」
「え!? いや、テニスとバドミントンは違うし、僕は歌が下手だし、ミュージカル科の人たちとは違うしっ」
「理空が出るなら、絶対観に行くけどな」
一瞬だけもやんと想像して、自分で噴き出してしまった。
ちょっとカラフルなウィッグをつけて、ガッチガチに緊張しながらラケットを振る自分は、どう考えてもテニスの騎士ではなかった。
「はい、水分補給」
「ありがと」
手渡されたスポドリを半分まで飲み、かたわらのベンチに腰掛ける。
昼下がりに本気でバドミントンをしているのは、当然、僕たちだけだった。
というか、他の人たちは多分、学生視聴者の下校時刻に合わせて自室に戻っているはずだ。
僕たちもそうした方がよかったのかもしれないけど、水戸くんが『運動しよう』とさわやかに言ったので、素直にそうした。
健康的な人なんだなと思う。
役者は体力勝負だし、こうやって体づくりをするのが大事なのかもしれない。
「次、カフェに行ってみない? 無料で食べ放題らしいよ」
「へー、すごいね。メロンソーダあるかな」
飲食代も、ゲーセンなども、すべて無料。
擬似デートなので、遊び放題だ。
カフェに移動すると、おしゃれな店内には、5組ほどのカップルがいた。
明らかに演技がかっている人もいれば、普通に友達同士みたいな人たちもいる。
僕たちの後ろの席の人たちは、びっくりするほどあざとかった。
「はい、あーん」
「おいしー。たっくんすきー」
水戸くんは肩をすくめ、苦笑いしている。
「この会話って、視聴者さんたちには聞こえてるんだよね?」
「うん。共用部分は施設ごとに映るから、複数カップルを観察できる仕組みってことみたい」
耳をそばだてて、学ぼうとする……と、水戸くんは俺の手を握り、難しい顔をして首を振った。
「理空、いま、他の奴のこと考えてたでしょ」
「えっ? え、まあ……うん。僕、付き合ったことないから、正解が分かんないし、参考にしよっかなって思って」
「だめー」
水戸くんは僕の手を取り、手首に口づけながら言った。
「俺とのデートなんだから、俺のことだけ考えてください」
「ちょ、ちょっとこれ、はずかし……」
ふと、レジの上のディスプレイを見ると、参加者の名前がずらりと並んでいた。
「あ、水戸くん。あれ、ランキングかな?」
「そうだね。初日のポイントが出てるはず」
カップルは50組。
無意識に下から数えて、全然見つからない。
「あれ、なんで無いん……」
「18位」
「ん?」
「俺たち、18位らしいよ」
「へ、ぇ?」
すっとぼけた声が漏れてしまった。
こんな無名の僕が? いや、水戸くんの力か。
「すごいね水戸くん」
「なんで他人事みたいに言うの」
「え? きっと、水戸くんのファンの人が入れてくれたんだよ。優しいね」
「……はあ。君は」
何か言いかけたところで、パフェが運ばれてきた。
美しい顔の人の目の前に、巨大チョコバナナ。
さっき昼ごはんのときも思ったけれど、水戸くんは、痩せの大食いタイプだ。
僕がメロンソーダのアイスを崩していると、水戸くんが「あーん」と言った。
何かと思って顔を上げる……と、長いスプーンの先に、大きすぎるひと口がどでんと乗っている。
「はい、あーん」
「んぐ」
これ、さっきの正解を見習うなら、『おいしい、水戸くん好き』って言わないといけないんだろうか。
……と思いつつ、口がぱんぱんで、何も言えない。
「かわい」
微笑むその手には、紙ナプキンが準備されている。
いますぐにでも口の周りを拭きたいというオーラが出まくっていて――照れてしまって、むせた。
僕はその軌道を目で追い、軽くいなして打ち返す。
水戸くんのラケットを空が切り、シャトルはぽとりと床に落ちた。
「すごいね、理空、バドミントン得意なんだ」
「中学のときバド部だったから」
ラケットでシャトルをすくい上げ、開いた左手でぱっと掴む。
水戸くんは爽やかに汗を拭いながら言った。
「これだけうまくラケットがさばけるなら、2.5次元ミュージカルいけるんじゃない?」
「え!? いや、テニスとバドミントンは違うし、僕は歌が下手だし、ミュージカル科の人たちとは違うしっ」
「理空が出るなら、絶対観に行くけどな」
一瞬だけもやんと想像して、自分で噴き出してしまった。
ちょっとカラフルなウィッグをつけて、ガッチガチに緊張しながらラケットを振る自分は、どう考えてもテニスの騎士ではなかった。
「はい、水分補給」
「ありがと」
手渡されたスポドリを半分まで飲み、かたわらのベンチに腰掛ける。
昼下がりに本気でバドミントンをしているのは、当然、僕たちだけだった。
というか、他の人たちは多分、学生視聴者の下校時刻に合わせて自室に戻っているはずだ。
僕たちもそうした方がよかったのかもしれないけど、水戸くんが『運動しよう』とさわやかに言ったので、素直にそうした。
健康的な人なんだなと思う。
役者は体力勝負だし、こうやって体づくりをするのが大事なのかもしれない。
「次、カフェに行ってみない? 無料で食べ放題らしいよ」
「へー、すごいね。メロンソーダあるかな」
飲食代も、ゲーセンなども、すべて無料。
擬似デートなので、遊び放題だ。
カフェに移動すると、おしゃれな店内には、5組ほどのカップルがいた。
明らかに演技がかっている人もいれば、普通に友達同士みたいな人たちもいる。
僕たちの後ろの席の人たちは、びっくりするほどあざとかった。
「はい、あーん」
「おいしー。たっくんすきー」
水戸くんは肩をすくめ、苦笑いしている。
「この会話って、視聴者さんたちには聞こえてるんだよね?」
「うん。共用部分は施設ごとに映るから、複数カップルを観察できる仕組みってことみたい」
耳をそばだてて、学ぼうとする……と、水戸くんは俺の手を握り、難しい顔をして首を振った。
「理空、いま、他の奴のこと考えてたでしょ」
「えっ? え、まあ……うん。僕、付き合ったことないから、正解が分かんないし、参考にしよっかなって思って」
「だめー」
水戸くんは僕の手を取り、手首に口づけながら言った。
「俺とのデートなんだから、俺のことだけ考えてください」
「ちょ、ちょっとこれ、はずかし……」
ふと、レジの上のディスプレイを見ると、参加者の名前がずらりと並んでいた。
「あ、水戸くん。あれ、ランキングかな?」
「そうだね。初日のポイントが出てるはず」
カップルは50組。
無意識に下から数えて、全然見つからない。
「あれ、なんで無いん……」
「18位」
「ん?」
「俺たち、18位らしいよ」
「へ、ぇ?」
すっとぼけた声が漏れてしまった。
こんな無名の僕が? いや、水戸くんの力か。
「すごいね水戸くん」
「なんで他人事みたいに言うの」
「え? きっと、水戸くんのファンの人が入れてくれたんだよ。優しいね」
「……はあ。君は」
何か言いかけたところで、パフェが運ばれてきた。
美しい顔の人の目の前に、巨大チョコバナナ。
さっき昼ごはんのときも思ったけれど、水戸くんは、痩せの大食いタイプだ。
僕がメロンソーダのアイスを崩していると、水戸くんが「あーん」と言った。
何かと思って顔を上げる……と、長いスプーンの先に、大きすぎるひと口がどでんと乗っている。
「はい、あーん」
「んぐ」
これ、さっきの正解を見習うなら、『おいしい、水戸くん好き』って言わないといけないんだろうか。
……と思いつつ、口がぱんぱんで、何も言えない。
「かわい」
微笑むその手には、紙ナプキンが準備されている。
いますぐにでも口の周りを拭きたいというオーラが出まくっていて――照れてしまって、むせた。
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