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10. 9月22日 豪奢なタウンハウス

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 夜会の場所は、ペニーパークが見下ろせる豪奢なタウンハウスだった。ボールルームとなっている広間へ足を踏み入れると、そこは常夏の楽園だった。
異国の木が植えられた入口の先には、あちこちから笑い声が生まれ、人々は開放的な気分になっているようだ。
水の音が聞こえる気がするけど、気のせい?
いや、気のせいじゃなかった。魔法でつくられた入り江がある。

 産業革命によって蒸気機械で成功した時代の寵児や、有名音楽家など、有名人の姿も見かける。人々の背中に羽が付いている様に見えるのは気のせいだろうか。わたしは冷静に考えても、答えが見つからなかった。
パーティーの熱気にあてられていないわたしは、どうやらひとりだけ浮いているみたい。
いや、羽は生えてないから、地に足をつけているというべきか。

 いつの間にか一緒に来たルーシーの周りには人だかりが出来ていた。持ち前の行動力を見せ、着いて早々にパーティーの主役になっている。

「あら、あなたはまだ羽をつけていないの?あなたにも羽が必要よ」
声をかけてきたのは、魅惑的な若い女性だった。

「トニー、このご令嬢にあなたの魔法をかけてあげくちゃ」と彼女が言うと、トニーと呼ばれた派手な身なりの男性がこちらへやって来た。
魔法って文字通りの魔法よね?

「やあ、真夏の楽園へようこそ。テーマは妖精なんだ。君にも一夜の魔法をさずけよう」
男は言うと、素早くスペルを唱えた。間違いない、魔法だ。
「さあ、これで自由の翼を手に入れたね」

 背中に小さく透明な羽が生えてきた。
「飛べないただの飾り羽だから気をつけて」と、トニーは小声で付け加えてウィンクした。
「それじゃあ、今宵は楽しんで」

「ええ、あなたも」とわたしが言ったときには、もう二人は新しいゲストに魔法をかけていた。


 パーティーは久しぶりだけど、こんなにイカれたパーティーは初めての経験だ。着いて早々、羽をつけられるなんて!

 婚約が決まっているわたしには費用のかさむ社交の場は無駄だと義姉がうるさく言うので、ほとんど夜会に参加してこなかったけど、パーティーはいつの間にこんなに進化したんだろう。
わたしは生きる化石みたいだ。


 ルーシーは次々とダンスを踊っている。その姿は、まるで月夜に姿を現す本物の妖精の女王みたいだ。
一方、わたしは一向にダンスの誘いがかからない。せっかくの羽もしぼんでしまいそうだ。
わたしも次々にダンスを申し込まれてみたい。一度でいいからモテてみたい。

 これ以上みじめな気持ちにならないように、軽食がある隣の部屋へと移動し、給仕係からもらったアイスクリームを食べていた。

 すると、後ろから声をかけられた。
「レディ、よろしければ一曲、踊っていただけませんか?」
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