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40. 1月10日 クラーク邸
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ヘンリーが新居の扉を開けると、そこには使用人が総揃いしていた。ホームズ家の使用人の何倍もいる。一人ずつ紹介をしてもらい、わたしは彼らを束ねるクラーク家の女主人になるのだと、ようやく実感しはじめた。
溜め息もののロングギャラリーを歩いた先には、広間や食堂があった。わたしは夢心地でヘンリーに案内されるがままに、新居となるこのタウンハウスを歩き回り、再び玄関ゲートに戻ってきた。精緻な装飾が施された手すりを、ゆっくりとしたカーブに沿って目で追っていく。
「上の階には何があるの?」
わたしはたまらず質問した。
「二階にはアリーの部屋を用意したんだ。行ってみる?」
「もちろん!」
大階段には絨毯が敷かれ、アイボリー色の壁にはヘンリーの実家が所有していた古い絵画が飾られていた。
大階段を上がると、ヘンリーに促されるようにして部屋に足を踏み入れた。大きなその部屋の正面奥には立派な出窓がついていた。ウィンドウシートになっていて、腰を降ろすことができる。
わたしは窓の近くまで来ると、カーテンを開けてみる。わたしは「わあ」と感嘆をもらした。ここからペニーパークを一望することができる。
「いい眺めだわ」
わたしはつぶやいた。
「気に入った?ここは寝室にと考えてるんだ。左右に続き部屋があるだろう。右側をアリーに使ってもらおうと思って」
アーチをくぐるとわたし専用のクローゼットとバスルームが続き、三連のアーチの先にあるその部屋は女性らしく曲線が多用されていて、ライトブルーとアイボリーの二色を基調としていた。
わたしたちは幾何学模様が細かく刺繍された青いファブリックのソファに腰掛けた。ヘンリーがスペルを短く口に出し、長い指をすっと動かすと、正面の暖炉に火がついた。
「ブルーのドレスをよく着ている印象だったから、ブルーを基調とした部屋にしてみたんだけど、好みじゃなければ直すから教えてほしい」
「直すところなんてどこもないわ」
わたしはこの先、この部屋で過ごす時間が多くなるのだろう。
「刺繍でもしてみようかしら」
「それもいいね。結婚式を挙げたら僕の飛翔船で旅行に行こうか。帰ってきたら、クラーク公爵夫人だ」
「ついにあなたの船を見ることができるのね!そうね、次にここに来るときはアリー・クラーク公爵夫人になるんだわ」
わたしは感慨深く言った。
「どんな気分?」
ヘンリーはわたしの手を取ると、親指でわたしの指をなぞりながら尋ねた。
「ここに住むのが待ちきれないわ。それに飛翔船で冒険できるのも!」
ヘンリーの瞳には、楽しそうにはしゃぐわたしが映っていた。
ノックの音が聞こえると、執事が入室してきた。その顔には困惑が浮かんでいる。執事はヘンリーに向かって小声で告げる。
「恐れ入ります。旦那様、玄関にお客様がいらっしゃっています。訪問カードもお持ちではなく、クラーク公爵に会わせろと、少しばかり興奮しておいでです」
「僕が対応した方がいいのかな?」
ヘンリーは立ち上がると「アリーはここで待っていて」と言い残し、執事と部屋を出て行った。
わたしはソファに座ったままじっとしていた。一体何が起きたのだろう。貴族の場合、親族が金の無心に来ることもめずらしくはないから、クラーク家の親族だろうか。それとも、義姉のキティだったらどうしよう?
わたしは様子を見に部屋を出たい衝動に駆られていた。
部屋の外から陶器が割れたような派手な音がすると、わたしはついに我慢できなくなり、部屋を出て足音を立てないように慎重に大階段まで歩いていった。
玄関には割れた花瓶が無残な姿で倒れていた。困惑するヘンリーの視線の先を追うと、そこには見事な赤毛の女性がいた。
溜め息もののロングギャラリーを歩いた先には、広間や食堂があった。わたしは夢心地でヘンリーに案内されるがままに、新居となるこのタウンハウスを歩き回り、再び玄関ゲートに戻ってきた。精緻な装飾が施された手すりを、ゆっくりとしたカーブに沿って目で追っていく。
「上の階には何があるの?」
わたしはたまらず質問した。
「二階にはアリーの部屋を用意したんだ。行ってみる?」
「もちろん!」
大階段には絨毯が敷かれ、アイボリー色の壁にはヘンリーの実家が所有していた古い絵画が飾られていた。
大階段を上がると、ヘンリーに促されるようにして部屋に足を踏み入れた。大きなその部屋の正面奥には立派な出窓がついていた。ウィンドウシートになっていて、腰を降ろすことができる。
わたしは窓の近くまで来ると、カーテンを開けてみる。わたしは「わあ」と感嘆をもらした。ここからペニーパークを一望することができる。
「いい眺めだわ」
わたしはつぶやいた。
「気に入った?ここは寝室にと考えてるんだ。左右に続き部屋があるだろう。右側をアリーに使ってもらおうと思って」
アーチをくぐるとわたし専用のクローゼットとバスルームが続き、三連のアーチの先にあるその部屋は女性らしく曲線が多用されていて、ライトブルーとアイボリーの二色を基調としていた。
わたしたちは幾何学模様が細かく刺繍された青いファブリックのソファに腰掛けた。ヘンリーがスペルを短く口に出し、長い指をすっと動かすと、正面の暖炉に火がついた。
「ブルーのドレスをよく着ている印象だったから、ブルーを基調とした部屋にしてみたんだけど、好みじゃなければ直すから教えてほしい」
「直すところなんてどこもないわ」
わたしはこの先、この部屋で過ごす時間が多くなるのだろう。
「刺繍でもしてみようかしら」
「それもいいね。結婚式を挙げたら僕の飛翔船で旅行に行こうか。帰ってきたら、クラーク公爵夫人だ」
「ついにあなたの船を見ることができるのね!そうね、次にここに来るときはアリー・クラーク公爵夫人になるんだわ」
わたしは感慨深く言った。
「どんな気分?」
ヘンリーはわたしの手を取ると、親指でわたしの指をなぞりながら尋ねた。
「ここに住むのが待ちきれないわ。それに飛翔船で冒険できるのも!」
ヘンリーの瞳には、楽しそうにはしゃぐわたしが映っていた。
ノックの音が聞こえると、執事が入室してきた。その顔には困惑が浮かんでいる。執事はヘンリーに向かって小声で告げる。
「恐れ入ります。旦那様、玄関にお客様がいらっしゃっています。訪問カードもお持ちではなく、クラーク公爵に会わせろと、少しばかり興奮しておいでです」
「僕が対応した方がいいのかな?」
ヘンリーは立ち上がると「アリーはここで待っていて」と言い残し、執事と部屋を出て行った。
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玄関には割れた花瓶が無残な姿で倒れていた。困惑するヘンリーの視線の先を追うと、そこには見事な赤毛の女性がいた。
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