婚約破棄された貧乏令嬢は、今日こそモテたい!

ともり

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39. 1月10日 ホームズ家のドローイングルーム(居間)

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 空は灰色一色、まるで長い眠りについたかのように色彩を失っている。霜が降りて、白く染まった地面のすき間から、植物は縮こまりながらも寒さに耐えつつ顔をのぞかせている。
ついこの間までの華々しい街の賑わいとは一転して、王都パールモルネには落ち着いた日々の暮らしが戻っていた。


 暖炉のそばはなんとも離れがたい。わたしは読書するふりをして、はやる気持ちを抑える。時計を確認してもさっきから五分とも進んでいない。義姉が不審者でも見るような目をわたしに向けてくる。
こんなに落ち着きがないのは、わたし宛に来たヘンリーからの手紙のせいだった。手紙には家の改装が終わったので、見に来てほしいと書いてあった。今日がその約束の日なのだ。

 ヘンリーが迎えに来ると、わたしはコートの中にしっかりと着込んで外に出た。

「この陰気な寒さには参っちゃうわね」
歯をガタガタと言わせながら、コートをしっかりと体に巻きつける。

「それじゃあ寄り道しないでまっすぐ飛んでいこう。さあ、乗って」
ヘンリーはわたしを空飛ぶ馬車に乗せると、隙のない身のこなしでわたしの隣に腰を降ろした。

「手紙を読んで、今日をずっと楽しみにしていたの」
わたしは感覚が戻ってきた指先を動かしながら尋ねた。
「ねえ、どんな家なの?」

「見てのお楽しみだよ。僕はすでに王宮から越してきていて、やっと中を整え終わったばかりだよ」

「ずいぶん早く完成したのね」

「僕も積極的に関わって魔法をふんだんに使ったよ。その方が効率的だしね。できるだけ早く住めるようにしたかったんだ」

いつまでも王宮暮らしというのも気を使うのだろう。わたしはねぎらいを込めて肩をぽんぽんと叩いた。

「ヒューバート王子にパーティーに引っ張り出されるのもそろそろ遠慮したくて。僕の冒険が博物館の展示や劇になった以上、できるだけ宣伝活動をしていたんだ。でも芸術ウィークも終わったし、正直もう開放されたいよ」

「芸術ウィークが終わっても、あなたの風刺イラストを新聞の社交欄で見たわよ。ずいぶんと楽しそうだったけど」
わたしはささやかな皮肉を込めて言った。

「僕は華やかな場は得意じゃないよ。気の利いた話なんてできないんだから、本当に勘弁してほしいよ」
ヘンリーはため息をついて、髪にかかる前髪をうっとおしそうに片手で払った。

わたしはあいかわらずヘンリーが女性に囲まれていたことにいい気はしなかったし、赤毛のグラマーは結局誰なんだと問い詰めてやりたかった。でもその気持ちをぐっとこらえた。器の小さい女だと呆れられたくなかったし、確かにヘンリーは元々社交的なタイプじゃないからだ。

「これ以上アリーに疑われるのも嫌だしね」
わたしはヘンリーに考えを見透かされていたのだろうか。頬がかっと熱くなった。


 空飛ぶ馬車は徐々に高度を落とすと、閑静な通りにある古くて大きな屋敷の前で止まった。赤いレンガの外壁に、白い格子の出窓が愛らしい。白い玄関ファサードにはステンドグラスがはめ込まれ、手入れが行き届いた緑が植えられている。

「ここがそうなの、ヘンリー?」
予想していたよりもずっと素晴らしくて、温かみを感じる外観だった。

「そうだよ。その様子だと、ここまでは合格みたいだね」

「もちろん!早く中も見てみたいわ」

ヘンリーはわたしの手を取ると、玄関まで案内した。
「オーケー。じゃあ行くよ」
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