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 グレイの豪邸へシェーンを連れていったライールは、門前でシェーンの帰りを待っていた。
 すると「ライール」と、エリカに名前を呼ばれた。

「どうだった?」と返すライール。

「それがさっぱり。大聖堂や寄宿舎も見て回ったけど、誰かをかくまったりしている形跡は無かった。
 ――ユリエルって子が、本当に二人組の会話を聞いたのか疑わしいわね」

「そうか…… やはり、尻尾を見せないな」
「グレイさんに会いにきたの?」
「ああ、シェーン大司教にお願いして、詰め所の少女を確認してもらおうと思ってな」
「賢明ね。父親だったら、白黒ハッキリするし、みんな信じてくれるだろうし」

 話していると、向こうからグレイとシェーンの二人が歩いてくるのが見えた。

「どうやら、うまくいったようだ」

 そう言って、ライールとエリカが並んでグレイを出迎えた。

「お忙しい中、ご足労頂いて感謝します。グレイさん」
「いや、いい。それよりも、王冠の呪いとやらが実在するのか…… そちらの方が重要だ」

「それは間違いありません」と、エリカ。「私も彼も、実際にこの目で、子供になったと思わしき聖女様のお姿を見ておりますから」

「あとは、グレイさんに確認してもらうだけなのです」とライール。
「なるほど…… 正直、あの男のことはどうでもいいが……」
冤罪えんざいを放っておくような方ではないと、私は思うておりますよ、グレイさん」

 シェーンが言った。それで、グレイが彼を見やった。

「あなたには叶いませんな、シェーン大司教」
「では、行きましょうか」

 四人が歩き出した。
 私道から大通りに出ると、行き交う人々が上を見上げながら、足を止めている。

「なんだ?」

 グレイたちも足を止めて、同じ方角を見やった。

 ――白い煙がたくさんあがっている。

「火事か……?」
「あの方角、詰め所の方じゃないかね……?」

 シェーンがつぶやくように言うと、他の三人が顔を見合わせた。

「エリカ!」と、走りつつライールが言った。「シェーン大司教を頼む!」

「無茶しないでよ!?」

 エリカが叫ぶと、ライールとグレイが併走するように、詰め所の方へ走っていった。

「う~む…… 思っていた以上の大事になってしまった……」

 シェーンは心配そうな表情で、立ち昇る煙を見ていた。


 詰め所の近くまで走ってくると、やはり煙が出ていた。
 数人の警備兵が外に出ていて、煙の行方ゆくえを見ている。
 二人ほど倒れていて、仲間の一人が介抱を続けていた。

「おいッ!」

 ライールが呼び掛けて、彼らに近付いた。

「あ、あなたはベリンガールの……?!」
「どうなっている?!」
「突然、煙が出てきて……! 出火元は不明です!」
「そいつらは大丈夫なのか?」
「そ、それが」

 ライールが目を細める。

「眠っていて、まだ目覚めないんです……」

 今度はライールの眉先が、それぞれ、上と下へ交互に動いた。

「子供はどこにいる?」

 グレイが立っている警備兵に尋ねると、彼は答えずに彼を見返していた。

「保護してある子供はどこにいるッ?!」
「え、えっと、迷子の子供は一人もいないはずですが……?」
「昨日、ユリエル逮捕のときに連れられてきた女の子だッ!!」
「じ、自分は知りません!」
「クソ……! ライール、君はここにいて救助を手伝ってくれ!」

 言うなり、グレイが煙の中へと突っ込んでいった。

「グレイさんッ! 危険ですッ!」

 ライールの言葉は、もう届いていない。
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