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九 狙った相手に真っしぐら
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古着屋で、一揃えの服を買ったハンベエは、ロキに案内してもらって、フナジマ広場にやって来た。フナジマ広場はローマのコロッセウムのような円形の広場で周囲は壁で囲まれており、出入口が東西南北にある。出入口は人が三人横に並んで通れる程の広さである。円形の壁の内側には腰掛け用に石段が組まれ、三段まで用意されている。
広場内は、四角く切り揃えられた石が敷き詰められている。広さはざっと二十メートル四方である。
(分かりやすい話だ。袋の鼠にして、人数で討ち取る腹か。・・・・・・だが敵さんの思惑どおりに行くかな?)
ハンベエは内円を回りながら思案していた。
「ここは、元々から決闘場として造られたらしいよ。あまり使われていないらしいけど。回りは見物席だよ。」
ハンベエの後ろを歩きながら、ロキが説明する。
「あの壁で被われている場所は何だ?」
見物席の一番上にトーチカのように箱型に囲われ、四十センチぐらいの覗き窓が幾つか切られた構造物があった。
「あれは、貴賓席だよ。王様とかの見物席用に作られたらしい。」
ロキが答えた。
(あそこに弓の射手を配置されたら、ちょっとやっかいだな。)
ハンベエはそう考えた後、ロキに言った。
「しかし、ロキは色々良く知ってるな。」
「だって、オイラはこの町で育ったんだもの。この広場から北へ二百メートルほど行くと小川があるんだ。魚取りなんかもした事があるよ。」
「小川か。好都合だな。」
「好都合?・・・・・・何の事なの?」
「あくまで予定だ。」
「予定?ハンベエは時々、謎めいた事言うよね。」
「謎めいた事か。ふふ、悪いな。ま、小川については明日になれば分かるよ。」
ハンベエは、そう言って見物席の石段に登り、ロキのいう貴賓席に向かった。近づいてみると、それは、他の見物客の視線を遮るのが目的のようで、それほど強固には造られていなかった。
一通り、フナジマ広場を見終わったハンベエはロキと共に『キチン亭』に帰る事とした。
「ところで、ロキ、明日の決闘は見に来るか?」
何気なくハンベエが尋ねた。
「何言ってんだよ。当たり前だろう。オイラが見に来なくて誰が来るんだよお。」
「だよな。」
ハンベエはニヤっと笑ったが、少々頭痛ハチマキなのだ。
敵が尋常の勝負だけで終わらせてくれればいいのだが、数を頼んでハンベエを討ち取りにきた場合、ロキが巻き添えになる可能性がある。流石にハンベエもその時にロキの身まで守ってやれるかと言われたら、うーんと悩んでしまうのだ。
実は、エレナはそういう事も含め、助け船を出してくれていたのだが、肝心のロキが付いて行かなかったので、船は流れてしまったのである。まあ、ハンベエもロキの顔を潰さない配慮とエレナに反発するものがあったので、頼めなかったのだが・・・・・・。
(ロキが見物するなら、誰か腕の立ちそうな奴をロキのそばに付けて置かないとなあ。・・・・・・ロキと俺を監視しているアイツはどうかな。ダメ元で頼んでみるかな。)
実は、『キチン亭』からこのフナジマ広場に来るまでの間、ずっと二人をつけている一つの気配をハンベエは感じている。襲ってくる気配がないので、ずっと気が付いてない振りをしているのだが、ハンベエの感じるところでは決して雑魚ではない。昨日の襲撃組に比べればはるかに腕の立つ奴だろう。
ロキとハンベエは『キチン亭』に帰る道すがら市場に寄った。特に買物は無かったのだが、ハンベエがそこを通ろうと提案したので、別に断る理由のないロキも付いて行った。
流石に、ゲッソリナは大都市、市場は人人人でごった返している。その雑踏の中をハンベエとロキはさして急ぐでもなく歩いて行った。
「そこのイカしたお兄さん。」
途中、女の声に呼び止められた。振り反るとローブを着た女が机を前に座っていた。歳の頃は二十代後半だろうか? 色は少々浅黒いが中々の美人である。
「ハアイ、イカしたって言われて振り返るなんて、結構自信家タイプだね。占ってあげるから、ちょっと寄ってかない?」
女は色っぽくウインクして、ハンベエに笑いかけた。身なりとはひどくアンバランスな所作である。
ハンベエは小首を傾げながら、その若い女占い師の前に行き、
「占いか。いくらだ?」
とボソリと尋ねた。
「銅貨三十枚が普段の値段だけど、ここんところシケてるんで、銀貨の二枚も出してくれると助かるんだけど。」
「銀貨二枚は銅貨三十枚の七倍弱だ。激しいインフレだな。」
「こういう商売の値段は有って無いようなもんでね。お兄さん、山から出て来たばかりってお人好しそうな雰囲気なんで、吹っかけてみてるんだけど、どうかな?」
「ロキ、銀貨二枚出してくれ。」
ハンベエはロキを振り返って言った。
ロキは納得のいかない顔をしたが、黙って銀貨二枚をハンベエに差し出した。それをハンベエは女の机に置いた。
「ありがとうよ。素直で気前のいいお兄さんだねえ。名はなんて言うんだい?」
「俺の名はハンベエ。」
「ハンベエ・・・・・・あんまりイカさない名前だね。まあ、名前はともかく、あんた、剣難の相が出てるよ。近い内に大勢の人間と斬り合わなきゃならないようだね。」
「ふうん、お前の占いは良く当たるのか?」
「当たるも当たらないも百発百中だよ。」
「なるほど、で、俺はどうなるのかな?」
「運が良ければ無事でいられるって、出てるね。」
「あっははは、なるほど大した占いだ。」
ハンベエはカラカラと笑った。
(あいつか、間違いない。)
ハンベエは笑いながら、自分達を『キチン亭』から付けて来たと思われる男を目の端で捕らえた。
何であいつって分かるんだって?・・・・・・こういうのは特殊な動物的嗅覚の問題である。ハンベエは山中で獣を相手に過ごした経験から独特の勘を育てあげていた。
そいつは三十半ばの中肉中背の兵士風の男で、ハンベエ達から十メートルちょっと離れたところで、古道具屋が地面に広げている品物を眺めている振りをしていた。
大胆にかなり近くまで来ていたのである。もっとも、ハンベエが相手を確かめるため、ワザと人の多いところへ誘い込んだのである。人の混雑しているところなら、見失わないように近くに来なければならないし、大勢の人がいる中なら、不審がられる心配もないと相手も姿を見せるだろうと考え、人のごった返している市場にわざわざやって来たのであった。
「手を見せてご覧。」
占い師の女がハンベエに言った。ハンベエは黙って手を出した。
「おやおや、ゴツイ手をしてるね。」
と言いながら、女占い師はさりげなく小さな紙をハンベエの手に握り込ませた。ハンベエはおやっと思ったが、さりげなくなく手を戻した。
「今夜十時に。うふふ」
女占い師は意味深な笑みを浮かべて小さな声で笑った。
「銀貨二枚ももらったから、あんたがその気なら、いい事してあげるよ。うふふ。」
女占い師が色っぽく言った。妖艶な雰囲気である。
ハンベエは男の方に半分注意を取られていたので、
「ああ。ありがとうよ。」
と生返事をしてしまったが、考え直して答えた。
「でも、今日明日は大忙しなんだ。無理っぽいな。」
「あらあら、残念だこと。まあ、当てにしないで待ってるよ、ハンベエさん。あたしの名はイザベラ。ちゃんと覚えといてよ。人生命のあるうちに楽しんどかないと損だよ。」
女占い師はそう言って笑った。とらえどころの無い、どこまで本気なのか分からない女である。
「イザベラか。覚えておく事とする。」
ハンベエはそう言うと、歩きだした。
ロキが続いた。
そのハンベエが目を付けた男も、気に入った品物が無いなあという風情で、古道具屋を離れて歩きだした。意外と早足でハンベエ達を追い越し、向こうへと歩いて行った。
「銀貨二枚も払って何の約束してたの?」
とロキが言った。あんまり機嫌の良くない感じだ。
「ただの世間話だ。俺も有名人になってるみたいだな。」
「ハンベエ、鼻の下が長くなってたよ。実は女好きだったんだ。」
「・・・・・・はて?、山の中に居たんで、良く分からないが、そうなのかな?・・・・・・しかし、中々、いい女だったじゃないか。」
「いい女? 気味の悪い女だと思うけど・・・・・・王女様の方がずっと綺麗じゃないか。」
「王女はいい事してくれないからな。多分。」
「ハンベエ、スケベだ。」
「やっぱり、そうなるか。」
「なんか誘われてたみたいだけど、行くの?」
「今日明日はそれどころじゃないなあ、ご存知のとおり。」
「他の日なら、誘いに応じるの?」
「さあなあ、どうなのかなあ。でも、さっきの女占い師も言ってたけど、命のあるうちに楽しんどかないと損だからなあ。」
いつの間にか、二人は市場を抜け、通りを歩いていた。
ハンベエが目を付けた男はボーン・クラッシュという名で、皆にはボーンと呼ばれていた。ゴロデリア王国宰相ラシャレーの配下の隠密部隊(又は秘密警察)に所属する諜報工作員であり、部隊内では腕利きの方であった。今日は隠密部隊の長にいきなり、ロキとハンベエの見張りを命ぜられ、ずっと監視していたのだ。
その隠密部隊がどういう方法で、またどの時点でハンベエ達の所在を把握したかは定かではないが、早朝のラシャレーの会話から考えると中々仕事が早いではないか。あなどれんなあ。
ボーンが部隊の長から命ぜられたのは、あくまで監視のみで手は一切出すなという事。また、すこぶる腕が立つらしいので、下手に近づかない方がいいという、あまり嬉しくない注意も受けていた。
ボーンは一旦ハンベエ達を追い越して遠く離れ、相手の視界から消えてから再び監視に入るつもりであった。急ぎ足で、しかし、目立たないように歩いて行く・・・・・・つもりだった。
「オーイ、ちょっと待ってくれ。」
と後ろから、声が掛かった。かなり後ろの方からの声だったので、素知らぬ顔で脇道に反れようとボーンは考えたが、あいにくの一本道であった。
振り返ると、ハンベエが早足でこっちに向かって来る。
ボーンは、内心ぎょっとしたが、怪訝そうにハンベエを見た。
ハンベエが凄い速度で近づいてくる。
ボーンはもっと凄い速度でハンベエから遠ざかりたい気分だったが、怪しまれないよう、回りを見回して、自分に用かなあ? という風な顔をした。
(腕が立つって聞いてるが、まさか、いきなり斬り付けて来ないだろうな。勘弁してくれよ。)
などとボーンが不安を抱いた時には、ハンベエは三歩で届く距離まで近づいていた。
抜くなよ、斬り合いはゴメンだよ、と心の内で願うボーンに、ハンベエはニヤっと妙に人懐っこい笑顔を見せて、
「よお。」
と声を掛けた。
広場内は、四角く切り揃えられた石が敷き詰められている。広さはざっと二十メートル四方である。
(分かりやすい話だ。袋の鼠にして、人数で討ち取る腹か。・・・・・・だが敵さんの思惑どおりに行くかな?)
ハンベエは内円を回りながら思案していた。
「ここは、元々から決闘場として造られたらしいよ。あまり使われていないらしいけど。回りは見物席だよ。」
ハンベエの後ろを歩きながら、ロキが説明する。
「あの壁で被われている場所は何だ?」
見物席の一番上にトーチカのように箱型に囲われ、四十センチぐらいの覗き窓が幾つか切られた構造物があった。
「あれは、貴賓席だよ。王様とかの見物席用に作られたらしい。」
ロキが答えた。
(あそこに弓の射手を配置されたら、ちょっとやっかいだな。)
ハンベエはそう考えた後、ロキに言った。
「しかし、ロキは色々良く知ってるな。」
「だって、オイラはこの町で育ったんだもの。この広場から北へ二百メートルほど行くと小川があるんだ。魚取りなんかもした事があるよ。」
「小川か。好都合だな。」
「好都合?・・・・・・何の事なの?」
「あくまで予定だ。」
「予定?ハンベエは時々、謎めいた事言うよね。」
「謎めいた事か。ふふ、悪いな。ま、小川については明日になれば分かるよ。」
ハンベエは、そう言って見物席の石段に登り、ロキのいう貴賓席に向かった。近づいてみると、それは、他の見物客の視線を遮るのが目的のようで、それほど強固には造られていなかった。
一通り、フナジマ広場を見終わったハンベエはロキと共に『キチン亭』に帰る事とした。
「ところで、ロキ、明日の決闘は見に来るか?」
何気なくハンベエが尋ねた。
「何言ってんだよ。当たり前だろう。オイラが見に来なくて誰が来るんだよお。」
「だよな。」
ハンベエはニヤっと笑ったが、少々頭痛ハチマキなのだ。
敵が尋常の勝負だけで終わらせてくれればいいのだが、数を頼んでハンベエを討ち取りにきた場合、ロキが巻き添えになる可能性がある。流石にハンベエもその時にロキの身まで守ってやれるかと言われたら、うーんと悩んでしまうのだ。
実は、エレナはそういう事も含め、助け船を出してくれていたのだが、肝心のロキが付いて行かなかったので、船は流れてしまったのである。まあ、ハンベエもロキの顔を潰さない配慮とエレナに反発するものがあったので、頼めなかったのだが・・・・・・。
(ロキが見物するなら、誰か腕の立ちそうな奴をロキのそばに付けて置かないとなあ。・・・・・・ロキと俺を監視しているアイツはどうかな。ダメ元で頼んでみるかな。)
実は、『キチン亭』からこのフナジマ広場に来るまでの間、ずっと二人をつけている一つの気配をハンベエは感じている。襲ってくる気配がないので、ずっと気が付いてない振りをしているのだが、ハンベエの感じるところでは決して雑魚ではない。昨日の襲撃組に比べればはるかに腕の立つ奴だろう。
ロキとハンベエは『キチン亭』に帰る道すがら市場に寄った。特に買物は無かったのだが、ハンベエがそこを通ろうと提案したので、別に断る理由のないロキも付いて行った。
流石に、ゲッソリナは大都市、市場は人人人でごった返している。その雑踏の中をハンベエとロキはさして急ぐでもなく歩いて行った。
「そこのイカしたお兄さん。」
途中、女の声に呼び止められた。振り反るとローブを着た女が机を前に座っていた。歳の頃は二十代後半だろうか? 色は少々浅黒いが中々の美人である。
「ハアイ、イカしたって言われて振り返るなんて、結構自信家タイプだね。占ってあげるから、ちょっと寄ってかない?」
女は色っぽくウインクして、ハンベエに笑いかけた。身なりとはひどくアンバランスな所作である。
ハンベエは小首を傾げながら、その若い女占い師の前に行き、
「占いか。いくらだ?」
とボソリと尋ねた。
「銅貨三十枚が普段の値段だけど、ここんところシケてるんで、銀貨の二枚も出してくれると助かるんだけど。」
「銀貨二枚は銅貨三十枚の七倍弱だ。激しいインフレだな。」
「こういう商売の値段は有って無いようなもんでね。お兄さん、山から出て来たばかりってお人好しそうな雰囲気なんで、吹っかけてみてるんだけど、どうかな?」
「ロキ、銀貨二枚出してくれ。」
ハンベエはロキを振り返って言った。
ロキは納得のいかない顔をしたが、黙って銀貨二枚をハンベエに差し出した。それをハンベエは女の机に置いた。
「ありがとうよ。素直で気前のいいお兄さんだねえ。名はなんて言うんだい?」
「俺の名はハンベエ。」
「ハンベエ・・・・・・あんまりイカさない名前だね。まあ、名前はともかく、あんた、剣難の相が出てるよ。近い内に大勢の人間と斬り合わなきゃならないようだね。」
「ふうん、お前の占いは良く当たるのか?」
「当たるも当たらないも百発百中だよ。」
「なるほど、で、俺はどうなるのかな?」
「運が良ければ無事でいられるって、出てるね。」
「あっははは、なるほど大した占いだ。」
ハンベエはカラカラと笑った。
(あいつか、間違いない。)
ハンベエは笑いながら、自分達を『キチン亭』から付けて来たと思われる男を目の端で捕らえた。
何であいつって分かるんだって?・・・・・・こういうのは特殊な動物的嗅覚の問題である。ハンベエは山中で獣を相手に過ごした経験から独特の勘を育てあげていた。
そいつは三十半ばの中肉中背の兵士風の男で、ハンベエ達から十メートルちょっと離れたところで、古道具屋が地面に広げている品物を眺めている振りをしていた。
大胆にかなり近くまで来ていたのである。もっとも、ハンベエが相手を確かめるため、ワザと人の多いところへ誘い込んだのである。人の混雑しているところなら、見失わないように近くに来なければならないし、大勢の人がいる中なら、不審がられる心配もないと相手も姿を見せるだろうと考え、人のごった返している市場にわざわざやって来たのであった。
「手を見せてご覧。」
占い師の女がハンベエに言った。ハンベエは黙って手を出した。
「おやおや、ゴツイ手をしてるね。」
と言いながら、女占い師はさりげなく小さな紙をハンベエの手に握り込ませた。ハンベエはおやっと思ったが、さりげなくなく手を戻した。
「今夜十時に。うふふ」
女占い師は意味深な笑みを浮かべて小さな声で笑った。
「銀貨二枚ももらったから、あんたがその気なら、いい事してあげるよ。うふふ。」
女占い師が色っぽく言った。妖艶な雰囲気である。
ハンベエは男の方に半分注意を取られていたので、
「ああ。ありがとうよ。」
と生返事をしてしまったが、考え直して答えた。
「でも、今日明日は大忙しなんだ。無理っぽいな。」
「あらあら、残念だこと。まあ、当てにしないで待ってるよ、ハンベエさん。あたしの名はイザベラ。ちゃんと覚えといてよ。人生命のあるうちに楽しんどかないと損だよ。」
女占い師はそう言って笑った。とらえどころの無い、どこまで本気なのか分からない女である。
「イザベラか。覚えておく事とする。」
ハンベエはそう言うと、歩きだした。
ロキが続いた。
そのハンベエが目を付けた男も、気に入った品物が無いなあという風情で、古道具屋を離れて歩きだした。意外と早足でハンベエ達を追い越し、向こうへと歩いて行った。
「銀貨二枚も払って何の約束してたの?」
とロキが言った。あんまり機嫌の良くない感じだ。
「ただの世間話だ。俺も有名人になってるみたいだな。」
「ハンベエ、鼻の下が長くなってたよ。実は女好きだったんだ。」
「・・・・・・はて?、山の中に居たんで、良く分からないが、そうなのかな?・・・・・・しかし、中々、いい女だったじゃないか。」
「いい女? 気味の悪い女だと思うけど・・・・・・王女様の方がずっと綺麗じゃないか。」
「王女はいい事してくれないからな。多分。」
「ハンベエ、スケベだ。」
「やっぱり、そうなるか。」
「なんか誘われてたみたいだけど、行くの?」
「今日明日はそれどころじゃないなあ、ご存知のとおり。」
「他の日なら、誘いに応じるの?」
「さあなあ、どうなのかなあ。でも、さっきの女占い師も言ってたけど、命のあるうちに楽しんどかないと損だからなあ。」
いつの間にか、二人は市場を抜け、通りを歩いていた。
ハンベエが目を付けた男はボーン・クラッシュという名で、皆にはボーンと呼ばれていた。ゴロデリア王国宰相ラシャレーの配下の隠密部隊(又は秘密警察)に所属する諜報工作員であり、部隊内では腕利きの方であった。今日は隠密部隊の長にいきなり、ロキとハンベエの見張りを命ぜられ、ずっと監視していたのだ。
その隠密部隊がどういう方法で、またどの時点でハンベエ達の所在を把握したかは定かではないが、早朝のラシャレーの会話から考えると中々仕事が早いではないか。あなどれんなあ。
ボーンが部隊の長から命ぜられたのは、あくまで監視のみで手は一切出すなという事。また、すこぶる腕が立つらしいので、下手に近づかない方がいいという、あまり嬉しくない注意も受けていた。
ボーンは一旦ハンベエ達を追い越して遠く離れ、相手の視界から消えてから再び監視に入るつもりであった。急ぎ足で、しかし、目立たないように歩いて行く・・・・・・つもりだった。
「オーイ、ちょっと待ってくれ。」
と後ろから、声が掛かった。かなり後ろの方からの声だったので、素知らぬ顔で脇道に反れようとボーンは考えたが、あいにくの一本道であった。
振り返ると、ハンベエが早足でこっちに向かって来る。
ボーンは、内心ぎょっとしたが、怪訝そうにハンベエを見た。
ハンベエが凄い速度で近づいてくる。
ボーンはもっと凄い速度でハンベエから遠ざかりたい気分だったが、怪しまれないよう、回りを見回して、自分に用かなあ? という風な顔をした。
(腕が立つって聞いてるが、まさか、いきなり斬り付けて来ないだろうな。勘弁してくれよ。)
などとボーンが不安を抱いた時には、ハンベエは三歩で届く距離まで近づいていた。
抜くなよ、斬り合いはゴメンだよ、と心の内で願うボーンに、ハンベエはニヤっと妙に人懐っこい笑顔を見せて、
「よお。」
と声を掛けた。
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