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十二 煮ても焼いても
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フナジマ広場から帰る途中、ハンベエは何か忘れているような気がして、首を捻っていた。
(はて?、何だったかな?・・・・・・)
「ハンベエ、昨日と同じように市場を通って帰るの?オイラ、昨日の占い師、何となく好きになれないんだよねぇ。
占い師!、それだ、昨日占い師のイザベラから小さな紙切れを渡されたが、ボーンとのやり取りですっかり忘れていた、とハンベエは紙切れを取り出して確認した。
『紳士淑女の社交場!ボンボン酒場』
紙切れにはそう書かれている。背景に裸の男女の淫らな絵が描かれていた。
(何だこれは?・・・・・・『今夜十時に』って言ってたな。ここで落ち合おうという事だったのかな?)
ハンベエは、漠然と何だか惜しいことをしたような気がしたが、黙然と紙切れをしまった。
「ハンベエ、何見てるの?」
ロキが尋ねた。ハンベエは少々ウザイと思ったが、
「昨日、占い師に渡された紙切れだ。」
と言ってロキに見せた。
「何これ?、何だか厭らしい絵が書いてるし・・・・・・ハンベエ、ああいうのがタイプなの?・・・・・・まあ、大人のでやる事だから、オイラ、何も言わないけど。」
「変な気を回すな。まだ何もない。」
ハンベエはフッと笑って、
「まあ、好みかどうかと聞かれたら、どうも好みらしいが、それより、ちょっと気になってな。あの女、どうして今日俺が斬り合いするのを知っていたのかな?」
「占いの力じゃないの?」
「占い、ロキはそういうのを信じるのか?」
ハンベエは、おやっという顔をしてロキを見た。
「ハンベエは信じないの?」
「俺は、その類の事は一切信じない。神、仏、悪魔、妖怪変化、皆人間がこしらえ上げた嘘っぱちと信じている。」
それは師のフデンの教えでもあった。『この世には摩訶不思議の事は一切ないと心得よ。怪奇神がかりの事に心惑わすなかれ』、『神を頼るなかれ、仏を頼るなかれ、運に頼るなかれ、ただ己有るのみ、これヒョウホウの始めの始めなり』と師のフデンは教えた。
顔をみて、近いうちに大勢の人間と斬り合う運命にある、などと分かる道理が有るわけはない。知っていたのだ、最初から・・・・・・ハンベエは当然のようにそう思っていた。
「でも、ハンベエ、オイラは、あの占い師の女の人は何だか気味悪いよお。」
ロキはそう言った。
「そうか。では、今日は『キチン亭』に真っ直ぐ帰るか。昼飯も食べたいところだしな。」
別にこだわりもせず、ハンベエはそう言った。ロキとは仲良くして行きたい、嫌がるロキを無理に引っ張ってイザベラに会いに行ってもしょうがない。と言って、ロキを一人きりでキチン亭に帰すのは、危なっかしい。ボーンとはとりあえず、紳士協定が成立している感じだが、どこの誰が狙っているか、分かったものでは無いのである。
「わあい、やっぱり、ハンベエは話せるや。」
ロキはうれしそうに言った。二人は昨日とは別の道を通って『キチン亭』に帰った。
フナジマ広場でハンベエ達と別れたボーンは事の顛末を彼の所属する隠密部隊に報告し、広場に転がっている死骸の始末を手配した。ボーンの所属する隠密部隊は、前回、やはりハンベエに斬り捨てられた末端部隊員五名に続き、今回、三十七名の死体を始末する事になってしまった。やれやれ、ハンベエとかいうやっかいな死神は、面倒な仕事を作ってくれるものだと、さぞかし迷惑に思った事だろう。
隠密部隊と言っても、ボーンは表に姿を現さない本当の隠密であるが、警察部隊として、姿を隠さず活動している部隊員もいるので、それが死体の処理に当たるのである。
前回の五人は秘密裏に、そして、今回の三十七人は公式に処理された。
それやこれやの処理を献立てた後、ボーンはハンベエ達に知らせるため、キチン亭に向かった。
隠密部隊の長の判断により、ボーンの任務遂行方法が変更されていた。ロキ及びハンベエの監視を続ける事に変更はないが、相手方に対し、無理に姿を隠す必要はない、むしろ、せっかく知り合いになったのだから、友達路線で身辺を見張るようボーンは命じられた。
敵に簡単に正体を見破られるなど、ボーンにはかつて無かったどヘマである。しかし、隠密部隊の長はこれを失敗としてボーンを処分する事なく、あまつさえ、ボーンとハンベエ達の間に発生した薄っぺらな友好関係を逆手に取って役立てようというのだ。柔軟過ぎる対応というべきであろう。
というわけで、キチン亭に向かったボーンは、そのままロキ達が逗留している部屋に直行した。
既に夕方になっていた。ドアをノックし、中に入るとボーンは、とりあえず、死骸の始末を伝えた。
「まあ、感謝してもらいたいものだな。ぐずる部隊の連中を説得するのは、結構骨だったんだからよ。」
ボーンはちょっと勿体ぶった口調で言った。
ハンベエは他意のない笑顔を見せて、
「いやいや、本当に助かったよ。大した礼もできなくて申し訳ないが、とりあえず、貴公は俺がぶった斬る連中のリストからは外して置くよ。」
と言った。
「うん、そうだね。ボーンさんみたいな親切な人は殺しちゃいけないよお。」
間髪を入れず、ロキが相槌を打つ。
「まあ、そういうわけで、これからも仲良くして行こう。ボーンさん。」
ハンベエもロキを真似て、ボーンに呼び掛けた。二人の口調にボーンはたじたじになってしまった。
だが、負けてばかりもいられない。体勢を建て直して、話し掛ける。
「それは有難い申し出だよ、全く。俺は切った張ったは、どちらかというと好きじゃない。ハンベエとは大違いな事にな。」
「いや、俺だって別に斬り合いが好きってわけでも・・・・・・。」
「良く言うぜ。たった三日の間に四十二人も殺しておいて。きっと人を斬るのが日課なんだろう。」
ボーンはズケズケと言った。日課と言われて、ハンベエも苦笑するしかない。人には明かさないが、千人斬りを目指している以上、日課になりかねない。それと、ボーンは知らないようであるが、斬った数は四十三人である。このペースで行けば、百人はそう遠くないかも知れない。その時、ハンベエはレベルアップするのだろうか?、現在の経験値四十三はどんな意味を持っているのだろう?、RPGなら、敵を倒して行く毎に経験値が蓄積され、グレードアップするのだが、ハンベエにそういう作用が働くのだろうか?・・・・・・おっとっと、余計な話が過ぎたようだ。その間にもボーンの話は続いている。
「こう見えても、この俺、ボーンクラッシュはだ。ラシャレー配下の隠密部隊『サイレント・キッチン』部隊の中では、かなりいい線行ってるんだぜ。それがだ、おまえ達二人に関わったばかりに、秘密監視中に正体を見破られるという大味噌を付けてしまった。この失点は、俺の給与に大きく響いてしまうんだよな。俺って可哀想だろう?。」
「ふうん、ボーンさんはラシャレー配下の隠密部隊『サイレント・キッチン』所属なんだあ。メモメモっと。」
「うっ・・・・・・まあ、まあいい、今さら隠しても仕方のない事だ。で、俺って可哀想だろう。」
「そうだよう。ボーンさん、今さら隠し事は止めて、ザックバランに行こうよお。せっかく仲良しになったんだからねえ。」
「うん、ザックバランに行こう。で、俺って可哀想だろう?」
「可哀想? 何で?」
「だから、おまえ達に正体がバレたんで、減俸になるかも知れないんだよ。可哀想だろう?」
「・・・・・・、オイラに言われても。・・・・・・そうだ。・・・・・・もし給与が下がったら、ハンベエに給与下げた奴をぶった斬ってもらって、溜飲を下げたら?。」
「俺を失職させる気かよ。そうじゃなくて、その失態を穴埋めする手柄が欲しいんだよ。」
「手柄?・・・・・・うーん、じゃあ、今日、ハンベエが斬った三十七人のうち、十人くらいはボーンさんが斬った事にしちゃえば。」
「いや、それ全然手柄にならないし。」
「えーっ、だって悪者退治だよお。」
「ハンベエの斬ったベルガンはゲッソリナ警察隊の憲兵隊長で悪者じゃないの・・・・・・どちらかと云えば、どこの馬の骨かも分からないハンベエの方が悪者なの。俺が、一緒になって、警察部隊と闘ったなんて事になったら、解雇されるか、処分されちゃうよ。」
「でも、どう見ても、あの憲兵隊長の方が悪者でハンベエの方が正義の味方だよ。だって、あのベルガンって奴、見るからに悪人って感じだもん。きっと権力をカサに着て、色んな悪事をしてるに違いないよお。」
いや待て、ロキは決闘場で初めてベルガンを見ただけのはずで、人相だって、そんなに良く確認して無いはずである。実際、ベルガンはそういう奴だったらしいが。・・・・・・口から出まかせ絶好調、結果オーライな少年ではある。
「確かに、ベルガンが叩けば埃のでる奴だった事は間違いないが、それじゃ、俺の手柄にはならないんだよ。」
「困ったね。」
「いやいや、困る事はない。あのバンケルク将軍から王女に宛てられた手紙、その内容を教えてくれればいいんだよ。」
「王女様への手紙・・・・・・」
「そう、その手紙の内容。」
「ああー、それが知りたくて、オイラ達を付け回してたんだあ。・・・・・・うーん、ボーンさんのためなら、教えてあげるのもヤブサカでは無いんだけど。・・・・・・」
「勿体ぶらずに教えてくれよ。」
「残念だけど、手紙の中身は知らないんだよお。オイラ、人の手紙を盗み見るようなタイプの人間じゃないし。」
ロキの一言にボーンは、少し黙ってしまった。『人の手紙を盗みみるようなタイプの人間』という言葉は、人の秘密を探るボーンのような職業の人間には痛烈な嫌みである。勿論、ロキは嫌みを言うつもりで言ったわけではない。
が、ボーンは大人であった、少し呼吸をおいて、再び話し始めた。
「そりゃそうだ。ロキは人の手紙を盗み見るような人間じゃないだろう。では、バンケルク将軍から言付けとか別には無かったかい?」
「とにかく急いで、直接王女様に届けてくれ、という話だったよお。」
「何か知ってる事はないのかな。」
「手紙の内容については、全然知らないよお。」
「・・・・・・じゃあ、手紙を届けた後、王女は人払いをしたが、何の話をしてたのかな。」
「王女様にねぎらいの言葉をかけてもらって、いっぱい誉められたよお。」
「それだけか?」
「後、ハンベエに勇者は妄りに闘わないって説教してたよお。」
「それだけ?」
「それだけだよお。」
「人払いする必要ないじゃないか。」
「ああ、後、オイラ達に王宮に泊まって行くようにしきりに勧めたけど・・・・・・きっとオイラ達の身を案じてくれたんだ。王女様って、綺麗で優しい人だ。」
いい加減、ボーンもロキとのやり取りに疲れてきた。ため息まじりに、
「つまり、手掛かりなしって事か・・・・・・」
と言ってうなだれた。
「ところで、すっかり忘れていたが、今朝ふん縛って、貴賓席に放り込んでた奴等はどうなった?」
それまで、ずっと黙っていたハンベエが、ボーンとロキのやり取りが一段落するのを待っていたように言った。
「ああ、あれ、生きてるよ。今回の決闘事件の生き証人として、取り調べられてる。」
「取り調べ?」
「三十七人も死体が出て、憲兵隊長が死んでるんだぜ。大事件だ。調査があるのは当然だろう。」
(はて?、何だったかな?・・・・・・)
「ハンベエ、昨日と同じように市場を通って帰るの?オイラ、昨日の占い師、何となく好きになれないんだよねぇ。
占い師!、それだ、昨日占い師のイザベラから小さな紙切れを渡されたが、ボーンとのやり取りですっかり忘れていた、とハンベエは紙切れを取り出して確認した。
『紳士淑女の社交場!ボンボン酒場』
紙切れにはそう書かれている。背景に裸の男女の淫らな絵が描かれていた。
(何だこれは?・・・・・・『今夜十時に』って言ってたな。ここで落ち合おうという事だったのかな?)
ハンベエは、漠然と何だか惜しいことをしたような気がしたが、黙然と紙切れをしまった。
「ハンベエ、何見てるの?」
ロキが尋ねた。ハンベエは少々ウザイと思ったが、
「昨日、占い師に渡された紙切れだ。」
と言ってロキに見せた。
「何これ?、何だか厭らしい絵が書いてるし・・・・・・ハンベエ、ああいうのがタイプなの?・・・・・・まあ、大人のでやる事だから、オイラ、何も言わないけど。」
「変な気を回すな。まだ何もない。」
ハンベエはフッと笑って、
「まあ、好みかどうかと聞かれたら、どうも好みらしいが、それより、ちょっと気になってな。あの女、どうして今日俺が斬り合いするのを知っていたのかな?」
「占いの力じゃないの?」
「占い、ロキはそういうのを信じるのか?」
ハンベエは、おやっという顔をしてロキを見た。
「ハンベエは信じないの?」
「俺は、その類の事は一切信じない。神、仏、悪魔、妖怪変化、皆人間がこしらえ上げた嘘っぱちと信じている。」
それは師のフデンの教えでもあった。『この世には摩訶不思議の事は一切ないと心得よ。怪奇神がかりの事に心惑わすなかれ』、『神を頼るなかれ、仏を頼るなかれ、運に頼るなかれ、ただ己有るのみ、これヒョウホウの始めの始めなり』と師のフデンは教えた。
顔をみて、近いうちに大勢の人間と斬り合う運命にある、などと分かる道理が有るわけはない。知っていたのだ、最初から・・・・・・ハンベエは当然のようにそう思っていた。
「でも、ハンベエ、オイラは、あの占い師の女の人は何だか気味悪いよお。」
ロキはそう言った。
「そうか。では、今日は『キチン亭』に真っ直ぐ帰るか。昼飯も食べたいところだしな。」
別にこだわりもせず、ハンベエはそう言った。ロキとは仲良くして行きたい、嫌がるロキを無理に引っ張ってイザベラに会いに行ってもしょうがない。と言って、ロキを一人きりでキチン亭に帰すのは、危なっかしい。ボーンとはとりあえず、紳士協定が成立している感じだが、どこの誰が狙っているか、分かったものでは無いのである。
「わあい、やっぱり、ハンベエは話せるや。」
ロキはうれしそうに言った。二人は昨日とは別の道を通って『キチン亭』に帰った。
フナジマ広場でハンベエ達と別れたボーンは事の顛末を彼の所属する隠密部隊に報告し、広場に転がっている死骸の始末を手配した。ボーンの所属する隠密部隊は、前回、やはりハンベエに斬り捨てられた末端部隊員五名に続き、今回、三十七名の死体を始末する事になってしまった。やれやれ、ハンベエとかいうやっかいな死神は、面倒な仕事を作ってくれるものだと、さぞかし迷惑に思った事だろう。
隠密部隊と言っても、ボーンは表に姿を現さない本当の隠密であるが、警察部隊として、姿を隠さず活動している部隊員もいるので、それが死体の処理に当たるのである。
前回の五人は秘密裏に、そして、今回の三十七人は公式に処理された。
それやこれやの処理を献立てた後、ボーンはハンベエ達に知らせるため、キチン亭に向かった。
隠密部隊の長の判断により、ボーンの任務遂行方法が変更されていた。ロキ及びハンベエの監視を続ける事に変更はないが、相手方に対し、無理に姿を隠す必要はない、むしろ、せっかく知り合いになったのだから、友達路線で身辺を見張るようボーンは命じられた。
敵に簡単に正体を見破られるなど、ボーンにはかつて無かったどヘマである。しかし、隠密部隊の長はこれを失敗としてボーンを処分する事なく、あまつさえ、ボーンとハンベエ達の間に発生した薄っぺらな友好関係を逆手に取って役立てようというのだ。柔軟過ぎる対応というべきであろう。
というわけで、キチン亭に向かったボーンは、そのままロキ達が逗留している部屋に直行した。
既に夕方になっていた。ドアをノックし、中に入るとボーンは、とりあえず、死骸の始末を伝えた。
「まあ、感謝してもらいたいものだな。ぐずる部隊の連中を説得するのは、結構骨だったんだからよ。」
ボーンはちょっと勿体ぶった口調で言った。
ハンベエは他意のない笑顔を見せて、
「いやいや、本当に助かったよ。大した礼もできなくて申し訳ないが、とりあえず、貴公は俺がぶった斬る連中のリストからは外して置くよ。」
と言った。
「うん、そうだね。ボーンさんみたいな親切な人は殺しちゃいけないよお。」
間髪を入れず、ロキが相槌を打つ。
「まあ、そういうわけで、これからも仲良くして行こう。ボーンさん。」
ハンベエもロキを真似て、ボーンに呼び掛けた。二人の口調にボーンはたじたじになってしまった。
だが、負けてばかりもいられない。体勢を建て直して、話し掛ける。
「それは有難い申し出だよ、全く。俺は切った張ったは、どちらかというと好きじゃない。ハンベエとは大違いな事にな。」
「いや、俺だって別に斬り合いが好きってわけでも・・・・・・。」
「良く言うぜ。たった三日の間に四十二人も殺しておいて。きっと人を斬るのが日課なんだろう。」
ボーンはズケズケと言った。日課と言われて、ハンベエも苦笑するしかない。人には明かさないが、千人斬りを目指している以上、日課になりかねない。それと、ボーンは知らないようであるが、斬った数は四十三人である。このペースで行けば、百人はそう遠くないかも知れない。その時、ハンベエはレベルアップするのだろうか?、現在の経験値四十三はどんな意味を持っているのだろう?、RPGなら、敵を倒して行く毎に経験値が蓄積され、グレードアップするのだが、ハンベエにそういう作用が働くのだろうか?・・・・・・おっとっと、余計な話が過ぎたようだ。その間にもボーンの話は続いている。
「こう見えても、この俺、ボーンクラッシュはだ。ラシャレー配下の隠密部隊『サイレント・キッチン』部隊の中では、かなりいい線行ってるんだぜ。それがだ、おまえ達二人に関わったばかりに、秘密監視中に正体を見破られるという大味噌を付けてしまった。この失点は、俺の給与に大きく響いてしまうんだよな。俺って可哀想だろう?。」
「ふうん、ボーンさんはラシャレー配下の隠密部隊『サイレント・キッチン』所属なんだあ。メモメモっと。」
「うっ・・・・・・まあ、まあいい、今さら隠しても仕方のない事だ。で、俺って可哀想だろう。」
「そうだよう。ボーンさん、今さら隠し事は止めて、ザックバランに行こうよお。せっかく仲良しになったんだからねえ。」
「うん、ザックバランに行こう。で、俺って可哀想だろう?」
「可哀想? 何で?」
「だから、おまえ達に正体がバレたんで、減俸になるかも知れないんだよ。可哀想だろう?」
「・・・・・・、オイラに言われても。・・・・・・そうだ。・・・・・・もし給与が下がったら、ハンベエに給与下げた奴をぶった斬ってもらって、溜飲を下げたら?。」
「俺を失職させる気かよ。そうじゃなくて、その失態を穴埋めする手柄が欲しいんだよ。」
「手柄?・・・・・・うーん、じゃあ、今日、ハンベエが斬った三十七人のうち、十人くらいはボーンさんが斬った事にしちゃえば。」
「いや、それ全然手柄にならないし。」
「えーっ、だって悪者退治だよお。」
「ハンベエの斬ったベルガンはゲッソリナ警察隊の憲兵隊長で悪者じゃないの・・・・・・どちらかと云えば、どこの馬の骨かも分からないハンベエの方が悪者なの。俺が、一緒になって、警察部隊と闘ったなんて事になったら、解雇されるか、処分されちゃうよ。」
「でも、どう見ても、あの憲兵隊長の方が悪者でハンベエの方が正義の味方だよ。だって、あのベルガンって奴、見るからに悪人って感じだもん。きっと権力をカサに着て、色んな悪事をしてるに違いないよお。」
いや待て、ロキは決闘場で初めてベルガンを見ただけのはずで、人相だって、そんなに良く確認して無いはずである。実際、ベルガンはそういう奴だったらしいが。・・・・・・口から出まかせ絶好調、結果オーライな少年ではある。
「確かに、ベルガンが叩けば埃のでる奴だった事は間違いないが、それじゃ、俺の手柄にはならないんだよ。」
「困ったね。」
「いやいや、困る事はない。あのバンケルク将軍から王女に宛てられた手紙、その内容を教えてくれればいいんだよ。」
「王女様への手紙・・・・・・」
「そう、その手紙の内容。」
「ああー、それが知りたくて、オイラ達を付け回してたんだあ。・・・・・・うーん、ボーンさんのためなら、教えてあげるのもヤブサカでは無いんだけど。・・・・・・」
「勿体ぶらずに教えてくれよ。」
「残念だけど、手紙の中身は知らないんだよお。オイラ、人の手紙を盗み見るようなタイプの人間じゃないし。」
ロキの一言にボーンは、少し黙ってしまった。『人の手紙を盗みみるようなタイプの人間』という言葉は、人の秘密を探るボーンのような職業の人間には痛烈な嫌みである。勿論、ロキは嫌みを言うつもりで言ったわけではない。
が、ボーンは大人であった、少し呼吸をおいて、再び話し始めた。
「そりゃそうだ。ロキは人の手紙を盗み見るような人間じゃないだろう。では、バンケルク将軍から言付けとか別には無かったかい?」
「とにかく急いで、直接王女様に届けてくれ、という話だったよお。」
「何か知ってる事はないのかな。」
「手紙の内容については、全然知らないよお。」
「・・・・・・じゃあ、手紙を届けた後、王女は人払いをしたが、何の話をしてたのかな。」
「王女様にねぎらいの言葉をかけてもらって、いっぱい誉められたよお。」
「それだけか?」
「後、ハンベエに勇者は妄りに闘わないって説教してたよお。」
「それだけ?」
「それだけだよお。」
「人払いする必要ないじゃないか。」
「ああ、後、オイラ達に王宮に泊まって行くようにしきりに勧めたけど・・・・・・きっとオイラ達の身を案じてくれたんだ。王女様って、綺麗で優しい人だ。」
いい加減、ボーンもロキとのやり取りに疲れてきた。ため息まじりに、
「つまり、手掛かりなしって事か・・・・・・」
と言ってうなだれた。
「ところで、すっかり忘れていたが、今朝ふん縛って、貴賓席に放り込んでた奴等はどうなった?」
それまで、ずっと黙っていたハンベエが、ボーンとロキのやり取りが一段落するのを待っていたように言った。
「ああ、あれ、生きてるよ。今回の決闘事件の生き証人として、取り調べられてる。」
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