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七十九 老梟の心労
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エレナは王宮内の自室に戻った。何とイザベラが離れずに付いて行った。護衛のスパルスは『ご苦労様。』と別室に帰され、ハンベエとロキは客室へ案内された。
エレナの帰還を聞き付けると直ぐ様ラシャレーがやって来た。
えーと、その前にエレナの衣服について触れておく。王女は王宮に来る前に女性の服にお召し替え有りというわけで、男装の姿で王宮に帰って来たわけではない。もっとも、今更姿を変えて城内に戻っても、タゴロロームとの往復の間付け回していたサイレント・キッチンの二人を通じてエレナの変装の一件はバレバレなのだが、一般の兵士達に迄その姿を曝すのはいかがなものかと、という事なのであろう。
「ご無事で何よりでした。」
入室を許されて王女の部屋に罷り越したラシャレーは型通りの挨拶をした。
「宰相には忠告を無視した挙げ句、心配を掛けたようで、申し訳有りませんでしたわ。」
エレナも神妙に答えた。椅子に腰掛け、王女の容儀を整えて対応するエレナの左後ろにはイザベラが控えて立っている。
「不躾ですがな。後ろに居られる女人は、かつて姫君の命を狙ったイザベラ又の名を『殺し屋ドルフ』と呼ばれる人物ではありませんかな。」
ラシャレーはチクリと皮肉な口調で尋ねた。
「はい、かつて私の命を狙ったイザベラさんですわ。でも、もう私の命を狙うのは止めて、先日は危うい処を助けていただきましたの。一度殺されかけて、一度助けられた。私としては、差し引きゼロといたしたいですわ。」
「・・・・・・。しかし、我等王家を案じる者としては、その御仁をそのままにしておくわけには参りませんよ。少なくとも、姫様の命を狙った黒幕の名くらいは教えてもらわなければ。」
「その者の名はイザベラさんに教えてもらいました。」
「何と! して姫君の命を狙ったのは?」
「それは言えません。」
「・・・・・・しかし・・・・・・。」
「それは言えないのです。どうあっても言えないのです。」
「・・・・・・。」
ラシャレーは口をもごつかせ、強い口調で言い切るエレナを怪訝な面持ちで見つめた。
エレナはラシャレーの視線に目を伏せ、唇を噛みしめてから、続けて言った。
「ラシャレー宰相の立場、職責を思えば、私の言い分は筋の通らぬ事だと思います。でもその人物の名を出す事は出来ません。」
「もしや・・・・・・。」
「ラシャレー宰相。お願いです。その件についての調査は打ち切って下さい。無理なお願いだとは承知していますが、この件についてだけは折れていただけないでしょうか。」
エレナは拝むようにしてラシャレーに頭を垂れた。
ラシャレーは半ば驚きながらエレナを見つめていたが、
「解り申した。その件の詮索は止めましょう。」
と小枝を折るような口調で言った。
「その件には触れますまい。それはそうと、そちらの御仁に席を外してもらって、姫君と話したい事があるのですがな。」
「私の側を離れてイザベラさんの身の安全は保証してもらえるのですか?」
「ふむ。・・・・・・姫君、少し待っていていただけるかの。」
強硬的とも云えるエレナの言葉に、ラシャレーはさして不快の念も見せず、落ち着いた態度で言って部屋を出て行った。
それからしばらくしてラシャレーが戻って来て言った。
「イザベラについての手配を解除するよう通達して参りました。これでよろしいかな、姫君。」
「感謝致します。イザベラさん、すみませんが、ハンベエさん達のいる客室で待っていていただけますか。後で呼びに参ります。」
エレナはラシャレーに一礼し、イザベラに言った。
イザベラは、『ふーん』とでも言いたげな、不敵な笑みを浮かべてラシャレーを一瞥したが、エレナに片目をつぶって見せると、しゃなりしゃなりとしなやかに体を揺らしながら部屋を出て行った。
「折り入ってのお話との事。宰相もお座り下さい。」
エレナは自ら椅子を取ってきてラシャレーに勧めた。両者は椅子に腰掛けて差し向かった。
「さて、この度のバンケルク将軍の事については、まずはお悔やみ申し上げる。このような結果になり残念ですな。」
「いいえ、・・・・・・私、将軍にもお会いしましたが、何の役にも立てなくて。それはそうと、ハンベエさんはどうなるのですか?」
「ハンベエですかな。奴はバンケルクの後任としてタゴロロームの司令官に任命されました。まだ本人に報せは届いてませんがの。」
「え?」
エレナは驚いた。エレナはてっきりハンベエが罰っせられるものとばかり、思っていたのである。ハンベエがバンケルクの後任に任じられたと聞き、少なからず複雑な思いである。
「随分と寛大な処置なのですね。前回ゲッソリナで暴れた時の寛大な処置については粋なお計らいと思いましたが、今回は複雑な気持ちですわ。皆さん、呆れるほどハンベエさんに好意的ですのね。」
「ご不審はもっともですがな、ハンベエに強力な応援団が付きましての。」
「応援団、誰ですの?」
「大将軍のステルポイジャンですがの。どういうわけか、奴がやたらとハンベエの肩を持ちましてな。国王陛下もそれに従われましての。」
「国王陛下のお決めになられた事なら致し方ありませんが、死んだ将軍にはあまりにつれない措置です事。」
「バンケルクに関しては、罪が五つも数え上げられて断罪されましたな。それに姫君自身もバンケルクに危うく幽閉されかけたやに聞いておりますが。」
「それは・・・・・・誤解に基づくもので、将軍に私に対しての害意は無かったはずです。」
「はて、しかし、その一事だけでも万死に値しますぞ。姫君はハンベエが軍司令官に任命されたのがお気に召さないようだが。」
「・・・・・・政に口を出すのは慎みますわ。しかし、ハンベエさんも隅に置けない事ですね。いつの間にステルポイジャン将軍と懇意になったのかしら?」
「?・・・・・・ハンベエはてっきり姫君の味方だと思っておったのじゃが、何やら先程からの姫の口振りではまるで敵のように取れるが、ハンベエと何か有ったのですかな?」
「いえ、何も有りませんわ。ただ自分の浅はかさを思い知らされただけですわ。良く良く考えてみれば、今回の事も私がハンベエさんにタゴロローム守備軍への入隊を奨めたのが事の起こりとも言えます。まさかあの二人が相争い、こんな事になろうとは・・・・・・。」
エレナはそう言うと、俯いて顔を覆った。
「今回の事は誰も予想の出来ない事。あまりお気に病まないように。また、大将軍とハンベエが繋がっているというような事も今のところ無いようですな。それより、」
ラシャレーはそこで言葉を区切って、エレナが顔を上げるのを待った。
「それより?」
エレナは顔を上げて、鸚鵡返しに問い返した。
「国王陛下を見舞って差し上げて欲しいですな。一刻も早く、出来れば今日にでも。」
「父を。しかし、何かと風聞が。」
「そのような悠長な事を言っている場合ではないですがの。」
「まさか、父の具合はそんなに悪いのですか?」
「医師のドーゲンは何も言いませんから、ワシにも分かりませんがの、昨日お会いした時には酷く憔悴されていたご様子、事は一刻を争います。第一、子が親を見舞うのに何の遠慮が要りましょうや?」
「わざわざ教えていただき感謝しますわ。ラシャレー宰相の言われるようにいたしましょう。」
「ご理解いただき何よりですな。時にハンベエという男、何しに来たのですかな。それとイザベラも。」
「ハンベエさんの考えている事は私にはさっぱり分かりませんわ。宰相と話がしたいような事を言ってましたから、ご自身で確かめられては。イザベラさんやロキさんは私の身を案じて付いて来てくれたのですわ。」
「ふむ。」
ラシャレーは思案顔で眉を歪めた。
客室では、ハンベエがロキにラシャレーの印象を尋ねていた。これから会おうと云うのだから、今更ながらの話であるが、事前に少しでも情報が欲しいらしい。
「世間で言われてるのとは違ってたよお。見たところ、鬼でも蛇でも無かったよお。それよりハンベエ、バンケルク将軍をやっつけちゃったのは仕方ないと思うけどお。王宮まで乗り込んで大丈夫なのお? 捕まるかも知れないよお。今回は王女様は助けてくれないかも知れないしい。」
「おいおい、俺が王女に何時助けてもらったってんだ。王宮の連中が捕まえに来たら、暴れるだけの事さ。大分腕に覚えが出来たからな。」
ロキの心配をハンベエは鼻で笑った。
「そういう態度が敵を作るんじゃないのお。」
「敵なら大歓迎だ。まだ目標にはほど遠いからな。」
「目標?」
「おっと、何でもない。」
怪訝な顔するロキにハンベエは慌てて誤魔化した。ハンベエ、この若者は律儀と言うか杓子定規と言うか、このような状況になっても師フデンから申し渡された『千人斬り』を忘れていないのである。
バンケルクとの最終決戦でもハンベエは大いに人を斬った。ハンベエの計算では、漸く三百二十六人であった。
そんなハンベエの様子を、エレナの部屋から追い出されたイザベラが興味深げに見つめている。
イザベラは、この王宮に来るまでは借りてきた猫のように神妙な顔付きをしていたのだが、ラシャレーを見た瞬間から、何故か不敵で謎めいた笑みを浮かべているのである。どういう神経の構造になっているのか、首を捻るところである。
「皆さん、入りますよ。」
客室のドアがノックされ、声がかかった。
「どうぞ。」
と言うロキの返事に応じて入って来たのはエレナであった。
「ハンベエさん、後でラシャレー宰相が話したいそうですから、使いが来ると思います。イザベラさん、ご心配を掛けましたが、私、自殺したりしませんから、付き添いはもういいですよ。ここが気に入ったら、何時まででも居て下さい。ロキさんもね。」
エレナは、そう言うだけ言うと、直ぐに戻って行った。
「心境が急変したのかねえ、王女に取り付いていた死神はどっか行ったようだよ。まっ、一安心だよ。」
エレナの姿から何か感じ取ったのか、イザベラは呟くように言った。
「死神か。イザベラは前にもそんな事を言ったが、そんなものが見えるのかい。」
「茶化すんじゃないよ、ハンベエ。あんただって、王女が心配で、ノコノコこんな所まで来てんだろう、本当は。」
「俺は心配しても仕方のない事を心配したりはしないし、それほどお優しくはない。此処に来たのは、何か有りそうな臭いに誘われただけさ。」
ハンベエは無愛想に答えた。
ハンベエの言葉にイザベラは小首を傾げたが、後は何も言わなかった。
エレナの帰還を聞き付けると直ぐ様ラシャレーがやって来た。
えーと、その前にエレナの衣服について触れておく。王女は王宮に来る前に女性の服にお召し替え有りというわけで、男装の姿で王宮に帰って来たわけではない。もっとも、今更姿を変えて城内に戻っても、タゴロロームとの往復の間付け回していたサイレント・キッチンの二人を通じてエレナの変装の一件はバレバレなのだが、一般の兵士達に迄その姿を曝すのはいかがなものかと、という事なのであろう。
「ご無事で何よりでした。」
入室を許されて王女の部屋に罷り越したラシャレーは型通りの挨拶をした。
「宰相には忠告を無視した挙げ句、心配を掛けたようで、申し訳有りませんでしたわ。」
エレナも神妙に答えた。椅子に腰掛け、王女の容儀を整えて対応するエレナの左後ろにはイザベラが控えて立っている。
「不躾ですがな。後ろに居られる女人は、かつて姫君の命を狙ったイザベラ又の名を『殺し屋ドルフ』と呼ばれる人物ではありませんかな。」
ラシャレーはチクリと皮肉な口調で尋ねた。
「はい、かつて私の命を狙ったイザベラさんですわ。でも、もう私の命を狙うのは止めて、先日は危うい処を助けていただきましたの。一度殺されかけて、一度助けられた。私としては、差し引きゼロといたしたいですわ。」
「・・・・・・。しかし、我等王家を案じる者としては、その御仁をそのままにしておくわけには参りませんよ。少なくとも、姫様の命を狙った黒幕の名くらいは教えてもらわなければ。」
「その者の名はイザベラさんに教えてもらいました。」
「何と! して姫君の命を狙ったのは?」
「それは言えません。」
「・・・・・・しかし・・・・・・。」
「それは言えないのです。どうあっても言えないのです。」
「・・・・・・。」
ラシャレーは口をもごつかせ、強い口調で言い切るエレナを怪訝な面持ちで見つめた。
エレナはラシャレーの視線に目を伏せ、唇を噛みしめてから、続けて言った。
「ラシャレー宰相の立場、職責を思えば、私の言い分は筋の通らぬ事だと思います。でもその人物の名を出す事は出来ません。」
「もしや・・・・・・。」
「ラシャレー宰相。お願いです。その件についての調査は打ち切って下さい。無理なお願いだとは承知していますが、この件についてだけは折れていただけないでしょうか。」
エレナは拝むようにしてラシャレーに頭を垂れた。
ラシャレーは半ば驚きながらエレナを見つめていたが、
「解り申した。その件の詮索は止めましょう。」
と小枝を折るような口調で言った。
「その件には触れますまい。それはそうと、そちらの御仁に席を外してもらって、姫君と話したい事があるのですがな。」
「私の側を離れてイザベラさんの身の安全は保証してもらえるのですか?」
「ふむ。・・・・・・姫君、少し待っていていただけるかの。」
強硬的とも云えるエレナの言葉に、ラシャレーはさして不快の念も見せず、落ち着いた態度で言って部屋を出て行った。
それからしばらくしてラシャレーが戻って来て言った。
「イザベラについての手配を解除するよう通達して参りました。これでよろしいかな、姫君。」
「感謝致します。イザベラさん、すみませんが、ハンベエさん達のいる客室で待っていていただけますか。後で呼びに参ります。」
エレナはラシャレーに一礼し、イザベラに言った。
イザベラは、『ふーん』とでも言いたげな、不敵な笑みを浮かべてラシャレーを一瞥したが、エレナに片目をつぶって見せると、しゃなりしゃなりとしなやかに体を揺らしながら部屋を出て行った。
「折り入ってのお話との事。宰相もお座り下さい。」
エレナは自ら椅子を取ってきてラシャレーに勧めた。両者は椅子に腰掛けて差し向かった。
「さて、この度のバンケルク将軍の事については、まずはお悔やみ申し上げる。このような結果になり残念ですな。」
「いいえ、・・・・・・私、将軍にもお会いしましたが、何の役にも立てなくて。それはそうと、ハンベエさんはどうなるのですか?」
「ハンベエですかな。奴はバンケルクの後任としてタゴロロームの司令官に任命されました。まだ本人に報せは届いてませんがの。」
「え?」
エレナは驚いた。エレナはてっきりハンベエが罰っせられるものとばかり、思っていたのである。ハンベエがバンケルクの後任に任じられたと聞き、少なからず複雑な思いである。
「随分と寛大な処置なのですね。前回ゲッソリナで暴れた時の寛大な処置については粋なお計らいと思いましたが、今回は複雑な気持ちですわ。皆さん、呆れるほどハンベエさんに好意的ですのね。」
「ご不審はもっともですがな、ハンベエに強力な応援団が付きましての。」
「応援団、誰ですの?」
「大将軍のステルポイジャンですがの。どういうわけか、奴がやたらとハンベエの肩を持ちましてな。国王陛下もそれに従われましての。」
「国王陛下のお決めになられた事なら致し方ありませんが、死んだ将軍にはあまりにつれない措置です事。」
「バンケルクに関しては、罪が五つも数え上げられて断罪されましたな。それに姫君自身もバンケルクに危うく幽閉されかけたやに聞いておりますが。」
「それは・・・・・・誤解に基づくもので、将軍に私に対しての害意は無かったはずです。」
「はて、しかし、その一事だけでも万死に値しますぞ。姫君はハンベエが軍司令官に任命されたのがお気に召さないようだが。」
「・・・・・・政に口を出すのは慎みますわ。しかし、ハンベエさんも隅に置けない事ですね。いつの間にステルポイジャン将軍と懇意になったのかしら?」
「?・・・・・・ハンベエはてっきり姫君の味方だと思っておったのじゃが、何やら先程からの姫の口振りではまるで敵のように取れるが、ハンベエと何か有ったのですかな?」
「いえ、何も有りませんわ。ただ自分の浅はかさを思い知らされただけですわ。良く良く考えてみれば、今回の事も私がハンベエさんにタゴロローム守備軍への入隊を奨めたのが事の起こりとも言えます。まさかあの二人が相争い、こんな事になろうとは・・・・・・。」
エレナはそう言うと、俯いて顔を覆った。
「今回の事は誰も予想の出来ない事。あまりお気に病まないように。また、大将軍とハンベエが繋がっているというような事も今のところ無いようですな。それより、」
ラシャレーはそこで言葉を区切って、エレナが顔を上げるのを待った。
「それより?」
エレナは顔を上げて、鸚鵡返しに問い返した。
「国王陛下を見舞って差し上げて欲しいですな。一刻も早く、出来れば今日にでも。」
「父を。しかし、何かと風聞が。」
「そのような悠長な事を言っている場合ではないですがの。」
「まさか、父の具合はそんなに悪いのですか?」
「医師のドーゲンは何も言いませんから、ワシにも分かりませんがの、昨日お会いした時には酷く憔悴されていたご様子、事は一刻を争います。第一、子が親を見舞うのに何の遠慮が要りましょうや?」
「わざわざ教えていただき感謝しますわ。ラシャレー宰相の言われるようにいたしましょう。」
「ご理解いただき何よりですな。時にハンベエという男、何しに来たのですかな。それとイザベラも。」
「ハンベエさんの考えている事は私にはさっぱり分かりませんわ。宰相と話がしたいような事を言ってましたから、ご自身で確かめられては。イザベラさんやロキさんは私の身を案じて付いて来てくれたのですわ。」
「ふむ。」
ラシャレーは思案顔で眉を歪めた。
客室では、ハンベエがロキにラシャレーの印象を尋ねていた。これから会おうと云うのだから、今更ながらの話であるが、事前に少しでも情報が欲しいらしい。
「世間で言われてるのとは違ってたよお。見たところ、鬼でも蛇でも無かったよお。それよりハンベエ、バンケルク将軍をやっつけちゃったのは仕方ないと思うけどお。王宮まで乗り込んで大丈夫なのお? 捕まるかも知れないよお。今回は王女様は助けてくれないかも知れないしい。」
「おいおい、俺が王女に何時助けてもらったってんだ。王宮の連中が捕まえに来たら、暴れるだけの事さ。大分腕に覚えが出来たからな。」
ロキの心配をハンベエは鼻で笑った。
「そういう態度が敵を作るんじゃないのお。」
「敵なら大歓迎だ。まだ目標にはほど遠いからな。」
「目標?」
「おっと、何でもない。」
怪訝な顔するロキにハンベエは慌てて誤魔化した。ハンベエ、この若者は律儀と言うか杓子定規と言うか、このような状況になっても師フデンから申し渡された『千人斬り』を忘れていないのである。
バンケルクとの最終決戦でもハンベエは大いに人を斬った。ハンベエの計算では、漸く三百二十六人であった。
そんなハンベエの様子を、エレナの部屋から追い出されたイザベラが興味深げに見つめている。
イザベラは、この王宮に来るまでは借りてきた猫のように神妙な顔付きをしていたのだが、ラシャレーを見た瞬間から、何故か不敵で謎めいた笑みを浮かべているのである。どういう神経の構造になっているのか、首を捻るところである。
「皆さん、入りますよ。」
客室のドアがノックされ、声がかかった。
「どうぞ。」
と言うロキの返事に応じて入って来たのはエレナであった。
「ハンベエさん、後でラシャレー宰相が話したいそうですから、使いが来ると思います。イザベラさん、ご心配を掛けましたが、私、自殺したりしませんから、付き添いはもういいですよ。ここが気に入ったら、何時まででも居て下さい。ロキさんもね。」
エレナは、そう言うだけ言うと、直ぐに戻って行った。
「心境が急変したのかねえ、王女に取り付いていた死神はどっか行ったようだよ。まっ、一安心だよ。」
エレナの姿から何か感じ取ったのか、イザベラは呟くように言った。
「死神か。イザベラは前にもそんな事を言ったが、そんなものが見えるのかい。」
「茶化すんじゃないよ、ハンベエ。あんただって、王女が心配で、ノコノコこんな所まで来てんだろう、本当は。」
「俺は心配しても仕方のない事を心配したりはしないし、それほどお優しくはない。此処に来たのは、何か有りそうな臭いに誘われただけさ。」
ハンベエは無愛想に答えた。
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