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七十八 動きはいつも乱気流
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ゲッソリナ行政府の方針がハンベエをタゴロローム守備軍司令官にと決まり、丁度、ハンベエ達に向けて使者が発っせられた朝、ゲッソリナに入って来た四人組がいた。
ハンベエ、エレナ、イザベラ、ロキの四人である。いや待て、オマケのスパルスを忘れていた。五人であった。
ハンベエは一人前を進み、その後を追うようにエレナが歩いていた。
エレナの右隣にはロキ、左隣にはイザベラが付き添うようにぴったりとくっ付いていた。本来、王女エレナの脇を固めるのはスパルスの仕事のはずであったが、二人に押し退けられて、所在無さげに最後尾をとぼとぼ付いて行っていた。
ロキはともかく、イザベラがエレナの脇にぴったりとくっついている様は、かつては命を狙い狙われた間柄としては、些か奇妙である。縁は異なもの、味なもの。殺し合うのも多生の縁というわけでもあるまい。
ハンベエとエレナの今の関係は極めて微妙であった。
ハンベエは、戦いの後、降伏した兵士も含め、タゴロローム守備軍兵士一万人を糾合したが、その兵士達はドルバスとヘルデンに指揮させてタゴロローム陣地に帰らせた。そうして、自分は元々の第五連隊兵士を率いてハナハナ山に帰還した。
帰ると、ロキが真っ赤な顔をしてエレナとの決闘を詰ったが、どうにかこうにか機嫌を取り結んで、戦の顛末を知らせた。エレナとは顔を合わせなかった。流石にこの筋金入りのがさつ者も傷心のエレナには多少とも気を使ったようである。
バンケルクの最後はロキを通じてエレナに伝えられた。エレナは何も言わず、悲しげに目を伏せた。
それから此処に来る迄、ハンベエとエレナの会話はたった一言であった。
薬の影響が抜けて、小屋からようやく外に出たエレナに行き逢ったハンベエが、相変わらずのぶっきらぼうな言い方で、
「殺しに来るなら、いつでも待ってるぜ。」
と言ったのに対し、
「勝てる見込みがついたら、そうさせていただきますわ。」
とエレナが答えた一言きりである。後は、二人とも目を合わす事なく、何故かゲッソリナ迄来ているのである。
元々はエレナが、そろそろ一旦ゲッソリナに帰ると言い出したのが始まりだが、ハンベエが何故か、俺もゲッソリナに用がある、と一緒に来たのである。
ゲッソリナ行政府からの使者は今出たばかりであるから、軍司令官への任命はハンベエは知らない。むしろ、反逆者として処罰が検討されているのでは考えるのが通常である。
そんな時に、敵になるかも知れない人間達の本拠地にノコノコやって来るハンベエの気持ちはさっぱり解らないが、当人は少しも頓着していない様子だ。
ハナハナ山を出る時も、第五連隊兵士達が大いに反対したようだが、この男の言い出した事を止められる者もいない。『危険だ』と騒ぐ連隊兵士達をハエでも払うように鎮めて、近所に買い物に行くような気やすさでゲッソリナまでやって来てしまった。
ドルバスがハナハナ山に居たら、大いに反対したのかも知れないが、ドルバスはタゴロロームで守備軍兵士達を押さえ付けるのに大わらわのようである。
ハンベエもハンベエであるが、イザベラも王女暗殺未遂の一件でお尋ね者になっているのに、今回は変装する事も無く、王女エレナに寄り添って付いて来ている。
エレナ個人とは敵対関係を解消したようであるが、他の人間は露知らぬ事。こんな所を素のまま、うろうろするのもどうかと思われるが、こちらもそんな事は気に留めている様子はない。はてさて、腹の解らぬ輩達である。
「ハンベエさん、ゲッソリナまで来てしまいましたが、王宮まで来るつもりですか?」
此処に来て初めて、エレナがハンベエに話し掛けた。
「ああ、ちと宰相のラシャレーに会って置きたい。」
「ラシャレー宰相に会って、何をするつもりか知りませんが、この私がバンケルク将軍の仇を討つために、王宮の兵士達にあなたを殺すよう命じるとは考えないのですか。」
エレナは冷たい口調で言った。以前ははにかむように笑みを見せて物を言う乙女であったが、バンケルク絡んでのハンベエとの決闘の一件以来、少しの笑顔も見せていない。まあ、許婚者と思っていた人間を殺した相手にへらへら笑顔で話す奴もいまい。
ハンベエは振り返って、少し眠たそうな目でエレナの顔をみたが、
「別に構わないぜ。死骸が並ぶだけの話だ。」
と無味乾燥な口調で答えた。
ロキがハラハラした様子で、二人を交互に見ている。ここで、決闘の続きなど始められては堪らないと言いたげだ。
「ハンベエ殿、いくら何でも王女様に向かい口が過ぎるのでは?」
後ろからスパルスが咎めるように言った。
「済まぬな、何せ山中で好き勝手に暮して来たので、お偉方との話し方は知らないんだ。俺の知ってるのは人の斬り方くらいのものさ。」
ハンベエは少し離れた位置にいるスパルスに別に皮肉な口調でもなく、かといって自嘲している風でもなく、さらりと言い、エレナに向き直って続けて言った。
「俺の事は兵士に襲わせるなり、闇討ちするなり、好きにするとして、問題はイザベラだぜ。お尋ね者になったままのはずだが、大丈夫なのか?」
「イザベラさんの安全は私が保証します。命を狙われた私自身がイザベラさんと仲良くしていれば、他の者が滅多な事をする事も無いでしょう。イザベラさん、出来るだけ、私の側にいて下さい。」
いつの間にやら、エレナとイザベラはすっかり仲良くなってしまったのだろうか。面妖である。イザベラが催眠術でも使ったのかと疑念が浮かぶが、それはなさそうである。
と言って、イザベラはエレナに寄り添って歩いているが、二人が仲睦まじくという様子でもない。普段の挑発的な笑みは無く、エレナをちょっと痛々しげに見守っている風情だ。
反対側のロキもエレナに気を使ってか冴えない表情で言葉少なである。何、ロキはハンベエが帰って来た時こそ、エレナを殺しそうになった事に文句たらたらであったのだが、バンケルクを鎧袖一触、あっさりとやっつけたのには、『さっすがハンベエ!』と我が事のように喜んだのだ。要はエレナの手前、バンケルクの事に触れないようしているだけなのだ。
後ろを歩くスパルスも王女エレナの痛々しい顔を見れば、側に仕える者としては、明るい顔を見せるわけにもいかない。と言って、スパルスもバンケルクを悼んでいるわけでは無さそうだ。逆に、一将軍のバンケルクが尊い王女に求婚したのを快く思っていない節もある。
四人が四人とも気詰まりな顔をしているのだが、ハンベエのみはいつもの顔つきである。何かを気にしている雰囲気など更々なく、翳りのない顔で前を見ている。もっとも、元来無愛想な男なので、特にニコニコというわけでもないが。
ハンベエゲッソリナ到着の報は一足先に宰相ラシャレーに届いていた。王女エレナを護衛(結局何もしなかったが)していたサイレント・キッチンの二人が慌てて報せに行ったのである。
「ハンベエがゲッソリナにやって来たようですな。」
『声』から早速ラシャレーに報告が入った。
「ハンベエが・・・・・・何しに来たのだ。」
「あの男の考えてる事は最早さっぱり解りませんな。ラシャレー浴場に浸かりに来ただけというような事まで考えられますからな。」
「ノコノコと、無用心な男だ。」
「余程、腕に自信が有るのですな。まあ、私の知る範囲では、登場してから勝ち続けですからな。自信過剰の思い上がり野郎になってても不思議では有りませんな。」
「ハンベエにそんな兆候があるのか。」
「いや、分かりませんな。ただ、人は変わりますからな。バンケルク将軍の例も有りますな。以前のハンベエと同じに考えない方が良いですな。」
「うむ?・・・・・・以前のハンベエはどんな人間だったのじゃ?」
「躊躇なく人を斬る喧嘩屋で、何を考えているか分からない物騒な男ですな。」
「今のハンベエは?」
「敵と見定めたら、例え遥か身分が上の人間でも容赦しない剣呑な男。」
「何処がどう違うのじゃ?」
「・・・・・・。」
ラシャレーの問いに、『声』はうっと返答に窮してしまった。
「ふん、まあ良い。賢しらぶった事を申そうとするから、言葉に詰まるのだ。しばらく様子を見て、わしの所に呼べ。」
「ハンベエ以外にも王女様にロキ、それに驚いた事にイザベラらしき女が同行しているようですな。」
イザベラという名にラシャレーのこめかみがピクついた。
「イザベラじゃと、何故捕らえぬ? いや待て、王女と同行じゃと?」
「はあ、王女様にぴったりと寄り添っているようですな。姫様に危害を加える様子も無いので、手を出しかねておりますな。」
「・・・・・・何があったのじゃ?・・・・・・」
「分かりませんな。王女様に直接問いただされるのが良いと思いますな。」
「報せは、それだけか。」
「後、ベルゼリット城のボーンから、状況報告が有りますな。」
「何か動きが有るのか?」
「さしたる動きは無いようですな。ただ、王妃とガストランタ、少々親し過ぎるようですな。」
「親し過ぎる?」
「つまり、床を共にしているらしいですな。二人がそういう中である事は城内の者も知っているようですな。」
「・・・・・・、国王陛下の病はますます重いと申すのに・・・・・・しかし、ガストランタの奴、王妃の情夫の役を勤めるためにわざわざ南方から戻って来たわけでも有るまい。何を企んでいるか早く突き止めよ。」
「一つだけ気になる事が有りますな。ベルゼリット城の執事フーシエの使いの者が侍医のドーゲンの元を何度か訪ねているようです。」
「何っ。」
ラシャレーの言葉付きが急激に険しくなった。ドーゲンというのは、御前会議の時にも国王バブル6世の背後に控えていた国王の主治医である。
「国王陛下の病状を気にしての事とも思えませんな。」
「その者、手荒い手段を使っても何の連絡をしているか調べよ。」
「御意ですな。」
こちら、四人組いやおまけを入れて五人組、王宮に到着。
「王女様、まさか本当に兵士達にハンベエの殺害を命じたりしないよねえ。」
ロキがちょっぴり不安そうに言った。
「しませんよ。ハンベエさんに又無益な殺生をさせる事になるだけですから。もっとも、ハンベエさんはむしろ暴れたくてウズウズしているのかも知れませんが。」
エレナは伏し目がちにロキの方を見て、小さく言った。
「そっ、そうだよ、そうだよお。ハンベエは手加減知らないし、逃げない馬鹿だから、止めとくのがお勧めだよお。」
ロキは言いながら、ちらりとハンベエを見た。『逃げない馬鹿』と言われ、ハンベエは薄笑いを浮かべていた。
王女の帰還に城兵達が騒めき、門衛は慌てて城内に報告に走った。
ハンベエ、エレナ、イザベラ、ロキの四人である。いや待て、オマケのスパルスを忘れていた。五人であった。
ハンベエは一人前を進み、その後を追うようにエレナが歩いていた。
エレナの右隣にはロキ、左隣にはイザベラが付き添うようにぴったりとくっ付いていた。本来、王女エレナの脇を固めるのはスパルスの仕事のはずであったが、二人に押し退けられて、所在無さげに最後尾をとぼとぼ付いて行っていた。
ロキはともかく、イザベラがエレナの脇にぴったりとくっついている様は、かつては命を狙い狙われた間柄としては、些か奇妙である。縁は異なもの、味なもの。殺し合うのも多生の縁というわけでもあるまい。
ハンベエとエレナの今の関係は極めて微妙であった。
ハンベエは、戦いの後、降伏した兵士も含め、タゴロローム守備軍兵士一万人を糾合したが、その兵士達はドルバスとヘルデンに指揮させてタゴロローム陣地に帰らせた。そうして、自分は元々の第五連隊兵士を率いてハナハナ山に帰還した。
帰ると、ロキが真っ赤な顔をしてエレナとの決闘を詰ったが、どうにかこうにか機嫌を取り結んで、戦の顛末を知らせた。エレナとは顔を合わせなかった。流石にこの筋金入りのがさつ者も傷心のエレナには多少とも気を使ったようである。
バンケルクの最後はロキを通じてエレナに伝えられた。エレナは何も言わず、悲しげに目を伏せた。
それから此処に来る迄、ハンベエとエレナの会話はたった一言であった。
薬の影響が抜けて、小屋からようやく外に出たエレナに行き逢ったハンベエが、相変わらずのぶっきらぼうな言い方で、
「殺しに来るなら、いつでも待ってるぜ。」
と言ったのに対し、
「勝てる見込みがついたら、そうさせていただきますわ。」
とエレナが答えた一言きりである。後は、二人とも目を合わす事なく、何故かゲッソリナ迄来ているのである。
元々はエレナが、そろそろ一旦ゲッソリナに帰ると言い出したのが始まりだが、ハンベエが何故か、俺もゲッソリナに用がある、と一緒に来たのである。
ゲッソリナ行政府からの使者は今出たばかりであるから、軍司令官への任命はハンベエは知らない。むしろ、反逆者として処罰が検討されているのでは考えるのが通常である。
そんな時に、敵になるかも知れない人間達の本拠地にノコノコやって来るハンベエの気持ちはさっぱり解らないが、当人は少しも頓着していない様子だ。
ハナハナ山を出る時も、第五連隊兵士達が大いに反対したようだが、この男の言い出した事を止められる者もいない。『危険だ』と騒ぐ連隊兵士達をハエでも払うように鎮めて、近所に買い物に行くような気やすさでゲッソリナまでやって来てしまった。
ドルバスがハナハナ山に居たら、大いに反対したのかも知れないが、ドルバスはタゴロロームで守備軍兵士達を押さえ付けるのに大わらわのようである。
ハンベエもハンベエであるが、イザベラも王女暗殺未遂の一件でお尋ね者になっているのに、今回は変装する事も無く、王女エレナに寄り添って付いて来ている。
エレナ個人とは敵対関係を解消したようであるが、他の人間は露知らぬ事。こんな所を素のまま、うろうろするのもどうかと思われるが、こちらもそんな事は気に留めている様子はない。はてさて、腹の解らぬ輩達である。
「ハンベエさん、ゲッソリナまで来てしまいましたが、王宮まで来るつもりですか?」
此処に来て初めて、エレナがハンベエに話し掛けた。
「ああ、ちと宰相のラシャレーに会って置きたい。」
「ラシャレー宰相に会って、何をするつもりか知りませんが、この私がバンケルク将軍の仇を討つために、王宮の兵士達にあなたを殺すよう命じるとは考えないのですか。」
エレナは冷たい口調で言った。以前ははにかむように笑みを見せて物を言う乙女であったが、バンケルク絡んでのハンベエとの決闘の一件以来、少しの笑顔も見せていない。まあ、許婚者と思っていた人間を殺した相手にへらへら笑顔で話す奴もいまい。
ハンベエは振り返って、少し眠たそうな目でエレナの顔をみたが、
「別に構わないぜ。死骸が並ぶだけの話だ。」
と無味乾燥な口調で答えた。
ロキがハラハラした様子で、二人を交互に見ている。ここで、決闘の続きなど始められては堪らないと言いたげだ。
「ハンベエ殿、いくら何でも王女様に向かい口が過ぎるのでは?」
後ろからスパルスが咎めるように言った。
「済まぬな、何せ山中で好き勝手に暮して来たので、お偉方との話し方は知らないんだ。俺の知ってるのは人の斬り方くらいのものさ。」
ハンベエは少し離れた位置にいるスパルスに別に皮肉な口調でもなく、かといって自嘲している風でもなく、さらりと言い、エレナに向き直って続けて言った。
「俺の事は兵士に襲わせるなり、闇討ちするなり、好きにするとして、問題はイザベラだぜ。お尋ね者になったままのはずだが、大丈夫なのか?」
「イザベラさんの安全は私が保証します。命を狙われた私自身がイザベラさんと仲良くしていれば、他の者が滅多な事をする事も無いでしょう。イザベラさん、出来るだけ、私の側にいて下さい。」
いつの間にやら、エレナとイザベラはすっかり仲良くなってしまったのだろうか。面妖である。イザベラが催眠術でも使ったのかと疑念が浮かぶが、それはなさそうである。
と言って、イザベラはエレナに寄り添って歩いているが、二人が仲睦まじくという様子でもない。普段の挑発的な笑みは無く、エレナをちょっと痛々しげに見守っている風情だ。
反対側のロキもエレナに気を使ってか冴えない表情で言葉少なである。何、ロキはハンベエが帰って来た時こそ、エレナを殺しそうになった事に文句たらたらであったのだが、バンケルクを鎧袖一触、あっさりとやっつけたのには、『さっすがハンベエ!』と我が事のように喜んだのだ。要はエレナの手前、バンケルクの事に触れないようしているだけなのだ。
後ろを歩くスパルスも王女エレナの痛々しい顔を見れば、側に仕える者としては、明るい顔を見せるわけにもいかない。と言って、スパルスもバンケルクを悼んでいるわけでは無さそうだ。逆に、一将軍のバンケルクが尊い王女に求婚したのを快く思っていない節もある。
四人が四人とも気詰まりな顔をしているのだが、ハンベエのみはいつもの顔つきである。何かを気にしている雰囲気など更々なく、翳りのない顔で前を見ている。もっとも、元来無愛想な男なので、特にニコニコというわけでもないが。
ハンベエゲッソリナ到着の報は一足先に宰相ラシャレーに届いていた。王女エレナを護衛(結局何もしなかったが)していたサイレント・キッチンの二人が慌てて報せに行ったのである。
「ハンベエがゲッソリナにやって来たようですな。」
『声』から早速ラシャレーに報告が入った。
「ハンベエが・・・・・・何しに来たのだ。」
「あの男の考えてる事は最早さっぱり解りませんな。ラシャレー浴場に浸かりに来ただけというような事まで考えられますからな。」
「ノコノコと、無用心な男だ。」
「余程、腕に自信が有るのですな。まあ、私の知る範囲では、登場してから勝ち続けですからな。自信過剰の思い上がり野郎になってても不思議では有りませんな。」
「ハンベエにそんな兆候があるのか。」
「いや、分かりませんな。ただ、人は変わりますからな。バンケルク将軍の例も有りますな。以前のハンベエと同じに考えない方が良いですな。」
「うむ?・・・・・・以前のハンベエはどんな人間だったのじゃ?」
「躊躇なく人を斬る喧嘩屋で、何を考えているか分からない物騒な男ですな。」
「今のハンベエは?」
「敵と見定めたら、例え遥か身分が上の人間でも容赦しない剣呑な男。」
「何処がどう違うのじゃ?」
「・・・・・・。」
ラシャレーの問いに、『声』はうっと返答に窮してしまった。
「ふん、まあ良い。賢しらぶった事を申そうとするから、言葉に詰まるのだ。しばらく様子を見て、わしの所に呼べ。」
「ハンベエ以外にも王女様にロキ、それに驚いた事にイザベラらしき女が同行しているようですな。」
イザベラという名にラシャレーのこめかみがピクついた。
「イザベラじゃと、何故捕らえぬ? いや待て、王女と同行じゃと?」
「はあ、王女様にぴったりと寄り添っているようですな。姫様に危害を加える様子も無いので、手を出しかねておりますな。」
「・・・・・・何があったのじゃ?・・・・・・」
「分かりませんな。王女様に直接問いただされるのが良いと思いますな。」
「報せは、それだけか。」
「後、ベルゼリット城のボーンから、状況報告が有りますな。」
「何か動きが有るのか?」
「さしたる動きは無いようですな。ただ、王妃とガストランタ、少々親し過ぎるようですな。」
「親し過ぎる?」
「つまり、床を共にしているらしいですな。二人がそういう中である事は城内の者も知っているようですな。」
「・・・・・・、国王陛下の病はますます重いと申すのに・・・・・・しかし、ガストランタの奴、王妃の情夫の役を勤めるためにわざわざ南方から戻って来たわけでも有るまい。何を企んでいるか早く突き止めよ。」
「一つだけ気になる事が有りますな。ベルゼリット城の執事フーシエの使いの者が侍医のドーゲンの元を何度か訪ねているようです。」
「何っ。」
ラシャレーの言葉付きが急激に険しくなった。ドーゲンというのは、御前会議の時にも国王バブル6世の背後に控えていた国王の主治医である。
「国王陛下の病状を気にしての事とも思えませんな。」
「その者、手荒い手段を使っても何の連絡をしているか調べよ。」
「御意ですな。」
こちら、四人組いやおまけを入れて五人組、王宮に到着。
「王女様、まさか本当に兵士達にハンベエの殺害を命じたりしないよねえ。」
ロキがちょっぴり不安そうに言った。
「しませんよ。ハンベエさんに又無益な殺生をさせる事になるだけですから。もっとも、ハンベエさんはむしろ暴れたくてウズウズしているのかも知れませんが。」
エレナは伏し目がちにロキの方を見て、小さく言った。
「そっ、そうだよ、そうだよお。ハンベエは手加減知らないし、逃げない馬鹿だから、止めとくのがお勧めだよお。」
ロキは言いながら、ちらりとハンベエを見た。『逃げない馬鹿』と言われ、ハンベエは薄笑いを浮かべていた。
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