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百十六 四天王登場
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ステルポイジャンの執務室に、呼び出しを受けた四天王の一人が早速やって来ていた。
最初に現れたのはゲンブ、四天王の中では一番の年かさで四十歳。巨躯の持ち主だが、タゴロロームのドルバスには僅かに及ばないようだ。
彼等四天王の名、セイリュウ、ビャッコ、スザク、ゲンブはそもそも彼等の元々の名では無かった。相次ぐ合戦の中、彼等が四天王と称される始めた頃、セイリュウのなにがし、ビャッコのなにがしと二つ名として呼ばれていたものが、いつの間にか元の名を省いて使われるようになったものである。
彼等の元の名は・・・・・・今となってはどうでも良いようだ。彼等自身も最早異名である二つ名の方を使っていたからである。
「急な呼び出し、いよいよ合戦の始まりですか。近衛兵団を叩き潰してから一月半、休養の方はほぼ万全。『星と共に過ごす街』での酒と女も悪くはないが、我等武人はそればかりでは退屈というもの。」
事情を知らぬゲンブは能天気に高言を吐いた。
「ふむ。いざ戦となれば、その方共が頼りじゃ。合戦が恋しいとは頼もしい限り。だが、今日の呼び出しは別の相談だ。委細は皆が揃ってから話す。」
わしの苦労も知らず勝手なオダをあげよってと、ステルポイジャンは少しばかりイラっと来たが、平静な顔を崩さずに言った。
四天王の中でも、最年長のゲンブは寡黙な男で、普段はこんな軽口は叩かないのだ。
(勝手の違うゲッソリナでの生活で大分憂さが貯まっておるのか。)
とステルポイジャンは思い直した。
ゲンブは一言言ったきり、後は腕組みをして押し黙った。膝の間には、刃渡り百二十センチはあるごっつい剣を鞘ぐるみ抱いている。両刃で肉厚、重量感たっぷりの豪剣だ。
因みに、セイリュウは三十五歳、長身痩躯、少し長めの両刃の長剣、スザクは三十一歳、中肉中背、左右同型の両刃の剣の使い手である。最年少ビャッコは二十八歳、若干小柄、細身のしなりを持つ先の尖った剣(フェンシングの剣を想像いただきたい)を愛用の武器としていた。
順々に他の四天王が現れ、全員が揃ったのはゲンブがやって来てから一時間も経ってからであった。
「漸く揃ったな、実は。」
とステルポイジャンは、昨日の顛末を話した。
「テッフネールのオッサンなんて呼ぶからそんな事になんだよ。でもよう、あのオッサンがモスカの側に付いたからって、ステルポイジャンのオヤジも何慌ててんの? どって事ないでしょ。」
半ば揶揄するように言ったのは最年少のビャッコであった。
「大口を叩くな。あのテッフネール殿だぞ。敵に回ったら、どれだけ厄介だと思ってるんだ。」
セイリュウがビャッコに鬱陶しそうに言った。
「そんなもん、敵に回ったら、ぶっ殺しゃいいだけじゃない。ビビるほどのもんじゃないっしょ。」
せせら笑いを浮かべてビャッコが言い返す。
「お前、テッフネール殿に勝てるつもりか。」
セイリュウが苦虫を潰したような顔で言った。
「テッフネールのオッサンが隠遁してから何年経ってると思ってんのよ。他の奴等はいざ知らず、この俺はかなり腕を上げたぜ。麒麟も老いては駑馬にも劣るってよ、やり合うに事になった日にゃあ微塵に刻んでやらあ。」
どうやら、このビャッコという若僧、かなりのイケイケドンドンらしい。せせら笑いを含んだ勇ましい口が止まらない。
「ふむ、威勢がいいのう、ビャッコ。だが、本当にテッフネールが刻めるのか。」
重苦しい声でステルポイジャンが言った。
「あったり前だよ、オヤジ。あんな老いぼれ、大した事ないよ。」
尚も、ビャッコは言ったが、皆はその発言に虚勢を感じた。
ゲンブは黙って大剣の柄を握っている。他の二人も黙って顔を見合わせるばかりだ。テッフネールがどれだけ大きな存在なのか思いやられるというもの。
「スザク、お前はどう思う?」
セイリュウが話を振った。
「さてな。勝負は時の運、やって見なければ分からん・・・・・・とは言うものの、できればテッフネール殿とはやり合いたくないな。」
スザクは少しとぼけた様子で言った。
ゲンブは相変わらずダンマリを続けていた。
妙案は無いようだ。
「東のゴルゾーラ殿下との戦いはどうするつもりですか?」
ゲンブが不意にステルポイジャンに尋ねた。
「どうするとは?」
怪訝な顔でステルポイジャンが逆に問い返した。
「テッフネール殿が太后陛下の側に付いたとしても、大将軍と事を構えるとは思えません。第一、我等の軍を掌握できるのは大将軍のみ。余計な思案は捨てて、一番の敵から片付けて行ってはどうですか?」
最初入って来た時の軽口とは打って変わり、ゲンブは重みのある口調で言った。言い忘れたが、彼等四天王はいずれも連隊長を努めている一軍の主なのである。
「むう・・・・・・しかし、その隙に西からハンベエがゲッソリナに向かって来たら。」
テッフネールに狙われた以上、ハンベエの命は無いも同然と思い込んでいるにも拘わらず、ステルポイジャンからこんな言葉が漏れた。
「ハンベエとやらは、テッフネール殿が向かった上は、あの世に行く事は有っても、ゲッソリナに来る事はないでしょう。太后一派の動きが気になるなら、国王陛下を先頭に立てて、全軍を動かせば良いではないですか。そうすれば、太后達は置いてきぼり、我等に何の手出しもできなくなる。そうして、ボルマンスクの敵を片付ければ、後は後顧の憂い無く、太后退治ができるでしょう。」
そうゲンブは言った。他の三人は無言で肯いていた。
「いかにももっとものように聞こえる意見だが、ゲンブの考えには穴がある。」
しばらく腕組みをした後、ステルポイジャンはしかつめらしい顔付きで言った。
「我等が東に向かっても、貴族達は王宮守備を理由にゲッソリナに残るだろうと云う事だ。奴等貴族共は最終的には敵であり、信用できない。そんな奴等を背後に残してボルマンスクを攻めるのは危険が大き過ぎる。」
「貴族共が敵に回ると言っても、ゴルゾーラ太子と戦っている間に背後を突かれる事はないでしょう。」
「何故、そう言える。貴族共にとっては、ゴルゾーラ殿下であろうと、国王陛下であろうと、自分の利益に叶いさえすれば、馬を牛に乗り換えるだけの事だ。」
「万一、奴等が寝返ったとしても、ボルマンスクの敵を早く片付けて、その後ぶっ潰せば良いでしょう。」
「そう簡単に行くか? 万一、東で戦が膠着して貴族共が寝返ったら、我等は挟み撃ちになるぞ。」
「・・・・・・。」
「ボルマンスクのゴルゾーラ殿下達には向こうから攻めて来させるのだ。このゲッソリナに向けて攻め上って来た所を迎撃するのだ。攻める側は兵が別れ、待ち受ける側は兵が纏まる。必ず、有利に戦えるはずだ。」
とステルポイジャンは断言した。ステルポイジャンの頭の中には兵站の問題が有るのだろう。ボルマンスクを拠点とするゴルゾーラ達がゲッソリナを攻めれば兵站が延びると云う不利が有る。逆も又然りである。
「敵が攻めて来るのを悠長に待ってたら、相手は力を付けてしまいますよ。」
「相手が力を付ければ、その間にこちらも力を付ける。何より、東に攻め上って敗れたら、逃げ場に窮するが、ゲッソリナの近くなら南の我等の本拠地に撤退して巻き返す道が残っている。」
「・・・・・・。」
ゲンブは黙った。他の三人も複雑な顔で黙っている。ステルポイジャンの言葉に服したわけでは無く、今の時点でこれ以上言う気が起きなくなったようだ。
「話が横道に逸れているようじゃ。今日集まってもらったのは、テッフネールをどうするかという話だ。」
「テッフネールのオッサンが敵になったら、俺が斬るから、心配要らないって言ってるっしょ。」
ビャッコがやれやれと云う風に愚痴る。
「テッフネール殿が敵に回ったと決まったわけでも無いですから、神経質になり過ぎる必要は無いのでは、・・・・・・それに幾らテッフネール殿と云えど、我等四天王が力を合わせれば、よもや負ける事はありますまい。御安心下さい。」
ビャッコを無視する形でゲンブがステルポイジャンに言った。
「むう・・・・・・。」
ゲンブの言葉にステルポイジャンは、大きく腕を組んで黙り込んだ。しばらく、考え込んでいたが、
「つまり、テッフネールの事は様子を見ると云う事か?・・・・・・仕方ないか、わかった。・・・・・・とりあえず、今日からお前達四天王の軍はわしの直轄とする。各自の師団長にはわしの方から調整しておくから、ゲッソゴロロ街道方面に連隊を集結させて、我が命を待て。以上だ。」
と言った。心なしか、力のない口調であった。
四天王の面々は気をつけの姿勢を取って敬礼をすると、打ち揃ってその場を退出した。
「何だか、ステルポイジャンのオヤジ、弱っちくなってんじゃね?」
少し離れてから、ビャッコが誰に言うともなく言った。
「口を慎め、ビャッコ。」
セイリュウが窘めるように言った。
「そうは言うけど、昔のオヤジなら、あんなグズグズした事は言わなかったぜ。ゲンブの兄貴の提案したように、一番でかい敵からさっさと片付け始めたはずだ。それに、たかがテッフネールのオッサン一人の事で対策を考えたりしなかったよ、きっと。臆病になったのかな?」
「負けるわけに行かないから、慎重になられているのだろう。」
五月蝿そうにしながらも、セイリュウが答えてやる。
「色々、忖度しても始まらん。所詮我等は戦場の猟犬、出番は合戦の時だ。」
話を締め括るように言ってゲンブが背を向けた。
しばらくの後、ステルポイジャンはニーバルを呼び寄せ、四天王に明言したように、彼等を連隊ごと現在所属している師団から外し、自分の直属部隊として編成し直す手配を命じた。
その顔には、かつて前国王の御前会議で、ラシャレーと意見を争った時のような、ギラギラとした野獣の精気は失せ、苦悩めいたシワと疲労が見てとれた。
最初に現れたのはゲンブ、四天王の中では一番の年かさで四十歳。巨躯の持ち主だが、タゴロロームのドルバスには僅かに及ばないようだ。
彼等四天王の名、セイリュウ、ビャッコ、スザク、ゲンブはそもそも彼等の元々の名では無かった。相次ぐ合戦の中、彼等が四天王と称される始めた頃、セイリュウのなにがし、ビャッコのなにがしと二つ名として呼ばれていたものが、いつの間にか元の名を省いて使われるようになったものである。
彼等の元の名は・・・・・・今となってはどうでも良いようだ。彼等自身も最早異名である二つ名の方を使っていたからである。
「急な呼び出し、いよいよ合戦の始まりですか。近衛兵団を叩き潰してから一月半、休養の方はほぼ万全。『星と共に過ごす街』での酒と女も悪くはないが、我等武人はそればかりでは退屈というもの。」
事情を知らぬゲンブは能天気に高言を吐いた。
「ふむ。いざ戦となれば、その方共が頼りじゃ。合戦が恋しいとは頼もしい限り。だが、今日の呼び出しは別の相談だ。委細は皆が揃ってから話す。」
わしの苦労も知らず勝手なオダをあげよってと、ステルポイジャンは少しばかりイラっと来たが、平静な顔を崩さずに言った。
四天王の中でも、最年長のゲンブは寡黙な男で、普段はこんな軽口は叩かないのだ。
(勝手の違うゲッソリナでの生活で大分憂さが貯まっておるのか。)
とステルポイジャンは思い直した。
ゲンブは一言言ったきり、後は腕組みをして押し黙った。膝の間には、刃渡り百二十センチはあるごっつい剣を鞘ぐるみ抱いている。両刃で肉厚、重量感たっぷりの豪剣だ。
因みに、セイリュウは三十五歳、長身痩躯、少し長めの両刃の長剣、スザクは三十一歳、中肉中背、左右同型の両刃の剣の使い手である。最年少ビャッコは二十八歳、若干小柄、細身のしなりを持つ先の尖った剣(フェンシングの剣を想像いただきたい)を愛用の武器としていた。
順々に他の四天王が現れ、全員が揃ったのはゲンブがやって来てから一時間も経ってからであった。
「漸く揃ったな、実は。」
とステルポイジャンは、昨日の顛末を話した。
「テッフネールのオッサンなんて呼ぶからそんな事になんだよ。でもよう、あのオッサンがモスカの側に付いたからって、ステルポイジャンのオヤジも何慌ててんの? どって事ないでしょ。」
半ば揶揄するように言ったのは最年少のビャッコであった。
「大口を叩くな。あのテッフネール殿だぞ。敵に回ったら、どれだけ厄介だと思ってるんだ。」
セイリュウがビャッコに鬱陶しそうに言った。
「そんなもん、敵に回ったら、ぶっ殺しゃいいだけじゃない。ビビるほどのもんじゃないっしょ。」
せせら笑いを浮かべてビャッコが言い返す。
「お前、テッフネール殿に勝てるつもりか。」
セイリュウが苦虫を潰したような顔で言った。
「テッフネールのオッサンが隠遁してから何年経ってると思ってんのよ。他の奴等はいざ知らず、この俺はかなり腕を上げたぜ。麒麟も老いては駑馬にも劣るってよ、やり合うに事になった日にゃあ微塵に刻んでやらあ。」
どうやら、このビャッコという若僧、かなりのイケイケドンドンらしい。せせら笑いを含んだ勇ましい口が止まらない。
「ふむ、威勢がいいのう、ビャッコ。だが、本当にテッフネールが刻めるのか。」
重苦しい声でステルポイジャンが言った。
「あったり前だよ、オヤジ。あんな老いぼれ、大した事ないよ。」
尚も、ビャッコは言ったが、皆はその発言に虚勢を感じた。
ゲンブは黙って大剣の柄を握っている。他の二人も黙って顔を見合わせるばかりだ。テッフネールがどれだけ大きな存在なのか思いやられるというもの。
「スザク、お前はどう思う?」
セイリュウが話を振った。
「さてな。勝負は時の運、やって見なければ分からん・・・・・・とは言うものの、できればテッフネール殿とはやり合いたくないな。」
スザクは少しとぼけた様子で言った。
ゲンブは相変わらずダンマリを続けていた。
妙案は無いようだ。
「東のゴルゾーラ殿下との戦いはどうするつもりですか?」
ゲンブが不意にステルポイジャンに尋ねた。
「どうするとは?」
怪訝な顔でステルポイジャンが逆に問い返した。
「テッフネール殿が太后陛下の側に付いたとしても、大将軍と事を構えるとは思えません。第一、我等の軍を掌握できるのは大将軍のみ。余計な思案は捨てて、一番の敵から片付けて行ってはどうですか?」
最初入って来た時の軽口とは打って変わり、ゲンブは重みのある口調で言った。言い忘れたが、彼等四天王はいずれも連隊長を努めている一軍の主なのである。
「むう・・・・・・しかし、その隙に西からハンベエがゲッソリナに向かって来たら。」
テッフネールに狙われた以上、ハンベエの命は無いも同然と思い込んでいるにも拘わらず、ステルポイジャンからこんな言葉が漏れた。
「ハンベエとやらは、テッフネール殿が向かった上は、あの世に行く事は有っても、ゲッソリナに来る事はないでしょう。太后一派の動きが気になるなら、国王陛下を先頭に立てて、全軍を動かせば良いではないですか。そうすれば、太后達は置いてきぼり、我等に何の手出しもできなくなる。そうして、ボルマンスクの敵を片付ければ、後は後顧の憂い無く、太后退治ができるでしょう。」
そうゲンブは言った。他の三人は無言で肯いていた。
「いかにももっとものように聞こえる意見だが、ゲンブの考えには穴がある。」
しばらく腕組みをした後、ステルポイジャンはしかつめらしい顔付きで言った。
「我等が東に向かっても、貴族達は王宮守備を理由にゲッソリナに残るだろうと云う事だ。奴等貴族共は最終的には敵であり、信用できない。そんな奴等を背後に残してボルマンスクを攻めるのは危険が大き過ぎる。」
「貴族共が敵に回ると言っても、ゴルゾーラ太子と戦っている間に背後を突かれる事はないでしょう。」
「何故、そう言える。貴族共にとっては、ゴルゾーラ殿下であろうと、国王陛下であろうと、自分の利益に叶いさえすれば、馬を牛に乗り換えるだけの事だ。」
「万一、奴等が寝返ったとしても、ボルマンスクの敵を早く片付けて、その後ぶっ潰せば良いでしょう。」
「そう簡単に行くか? 万一、東で戦が膠着して貴族共が寝返ったら、我等は挟み撃ちになるぞ。」
「・・・・・・。」
「ボルマンスクのゴルゾーラ殿下達には向こうから攻めて来させるのだ。このゲッソリナに向けて攻め上って来た所を迎撃するのだ。攻める側は兵が別れ、待ち受ける側は兵が纏まる。必ず、有利に戦えるはずだ。」
とステルポイジャンは断言した。ステルポイジャンの頭の中には兵站の問題が有るのだろう。ボルマンスクを拠点とするゴルゾーラ達がゲッソリナを攻めれば兵站が延びると云う不利が有る。逆も又然りである。
「敵が攻めて来るのを悠長に待ってたら、相手は力を付けてしまいますよ。」
「相手が力を付ければ、その間にこちらも力を付ける。何より、東に攻め上って敗れたら、逃げ場に窮するが、ゲッソリナの近くなら南の我等の本拠地に撤退して巻き返す道が残っている。」
「・・・・・・。」
ゲンブは黙った。他の三人も複雑な顔で黙っている。ステルポイジャンの言葉に服したわけでは無く、今の時点でこれ以上言う気が起きなくなったようだ。
「話が横道に逸れているようじゃ。今日集まってもらったのは、テッフネールをどうするかという話だ。」
「テッフネールのオッサンが敵になったら、俺が斬るから、心配要らないって言ってるっしょ。」
ビャッコがやれやれと云う風に愚痴る。
「テッフネール殿が敵に回ったと決まったわけでも無いですから、神経質になり過ぎる必要は無いのでは、・・・・・・それに幾らテッフネール殿と云えど、我等四天王が力を合わせれば、よもや負ける事はありますまい。御安心下さい。」
ビャッコを無視する形でゲンブがステルポイジャンに言った。
「むう・・・・・・。」
ゲンブの言葉にステルポイジャンは、大きく腕を組んで黙り込んだ。しばらく、考え込んでいたが、
「つまり、テッフネールの事は様子を見ると云う事か?・・・・・・仕方ないか、わかった。・・・・・・とりあえず、今日からお前達四天王の軍はわしの直轄とする。各自の師団長にはわしの方から調整しておくから、ゲッソゴロロ街道方面に連隊を集結させて、我が命を待て。以上だ。」
と言った。心なしか、力のない口調であった。
四天王の面々は気をつけの姿勢を取って敬礼をすると、打ち揃ってその場を退出した。
「何だか、ステルポイジャンのオヤジ、弱っちくなってんじゃね?」
少し離れてから、ビャッコが誰に言うともなく言った。
「口を慎め、ビャッコ。」
セイリュウが窘めるように言った。
「そうは言うけど、昔のオヤジなら、あんなグズグズした事は言わなかったぜ。ゲンブの兄貴の提案したように、一番でかい敵からさっさと片付け始めたはずだ。それに、たかがテッフネールのオッサン一人の事で対策を考えたりしなかったよ、きっと。臆病になったのかな?」
「負けるわけに行かないから、慎重になられているのだろう。」
五月蝿そうにしながらも、セイリュウが答えてやる。
「色々、忖度しても始まらん。所詮我等は戦場の猟犬、出番は合戦の時だ。」
話を締め括るように言ってゲンブが背を向けた。
しばらくの後、ステルポイジャンはニーバルを呼び寄せ、四天王に明言したように、彼等を連隊ごと現在所属している師団から外し、自分の直属部隊として編成し直す手配を命じた。
その顔には、かつて前国王の御前会議で、ラシャレーと意見を争った時のような、ギラギラとした野獣の精気は失せ、苦悩めいたシワと疲労が見てとれた。
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