126 / 757
<外伝> 椎名 賢也
椎名 賢也 62 再びミリオネの町へ 1
しおりを挟む
冒険者ギルドで換金を済ませた後で自宅に戻ると、今後の事について沙良から提案があった。
「お兄ちゃん。ダンジョン終わっちゃったし、もうこの町でやる事ないから他のダンジョンへ行こう! まだ自宅、諦めてないんでしょ?」
「そうだな、レベルを上げてもらわないと」
「じゃあ、やっぱ迷宮都市じゃない?」
「俺も聞いた事がある。最深攻略組が18階にいるらしいぞ? アーサーが言ってたな」
「この町ともお別れだね。今後は3人で頑張ろう!」
「早くLv30まで上げてくれ!」
「了解! 旭に明日の朝、出発するって伝えておいてね」
2年間過ごしたリースナーの町を出る時は、大勢の人に見送られる事になった。
路上生活をしていた子供達は、泣きながら手を振っている。
炊き出しを手伝ってくれた女性冒険者や、最終攻略組の冒険者達まで総出だ。
沙良はミリオネの町を出発する時と同じように、泣いて手を振り返している。
最初にこの町にきた時は、沙良を狙う奴隷商やマジックバッグを狙う冒険者の対処に悩んだが良い経験になった。
異世界では、いずれ通る道だったと思う。
覚悟を決めて対応したが、結局この2年間で沙良を狙う冒険者は後を絶たなかった。
男性冒険者の実に1割もの人間を不能にしたんだ。
それはこの異世界が、法によって人権が守られていない事の証明だった。
妹を守り抜くために、これからは旭もいる事だし心強い味方が出来たと思う。
妹が好きなら何も言わないでも守ってくれるだろう。
こいつは一応空手も習っていたし、俺よりは強いと思って間違いない。
まぁ茜に負けるようじゃ、どれだけ有効なのか疑問が残る所だが……。
素人よりはマシな筈だ。
俺は喧嘩なんてした事がないしな。
ダンジョンで11年間を過ごしたなら、魔法の扱いにも長けているから心配は要らない。
2人で沙良を守っていけば良い。
妹には傷ひとつ付けさせる気はないんだから、協力してもらおう。
あいつには何も知らずに幸せに生きてほしい。
人の悪意に絶望する事がないように……。
そして最後に冒険者ギルドに挨拶に行った際、再びお腹を壊した事にして解体場の親父から預かってもらっていた5セットのペンダントとイヤリングを受け取った。
無事、沙良ヘのプレゼントが完成したのだ。
これで20歳の誕生日の準備は調った。
本当にギリギリになってしまい焦ったよ。
俺が1カラットの宝石のカットに中々OKを出せないでいたから、宝石屋には大分迷惑をかけてしまった。
でも拘った甲斐は充分にあっただろう。
スマホのカメラで写したような繊細なカットを実現出来たんだから、俺としては満足のいく作品になっていると思う。
指輪は旭が順調にアプローチを成功すれば、購入するだろう。
宝石は沢山余っているから、本人が作るのも有りだ。
そうして俺達は、3人で迷宮都市のダンジョンを攻略するためにハンフリー公爵領を出た。
沙良に手を出してきた奴隷商と冒険者だが、クランリーダーが犯人を捜し出し衛兵所に連れていった。
そのお陰で奴隷商は捕まり、違法行為が摘発され鉱山送りとなったようだ。
これでリースナーの町の治安も大分良くなるだろう。
俺は最後まで、自分の手で始末を付ける事にならずに済んで安心した。
沙良が迷宮都市にいく前に、ミリオネの町に寄って子供達に武器や防具を渡したいと言ったので一度寄る事にする。
あれから2年が経過している。
子供達の成長は早いから、皆大きくなっている事だろう。
馬車に揺られて半日。
久し振りにミリオネの町へと帰ってきた。
前回きた時は、直接ミリオネの森に移転しローリエを採取しただけだから町の中には入っていないのだ。
沙良が最初に購入した家へと向かう。
俺と旭はその後を付いていった。
家には冒険者登録が出来ない10歳以下の子供が、1人で留守番をしていたらしい。
沙良はその子供に今住んでいる人数を聞き、アプリコットの詰まった巾着を人数分と未使用の解体ナイフを渡していた。
そして夕食は自分が作る事を伝えて家を出る。
その後も家を4軒回り、同じように巾着を人数分渡し夕食を作る事を伝えていく。
子供達の家の庭を借りて、沙良が夕食を作り出した。
今回はダンジョンで狩ったファングボアの肉を使用し、コンソメも使用してスープを作る事にしたらしい。
沙良がコカトリスの卵を使って卵焼きを作ると言うので、これは遂に出番が来たと喜んだがオリハルコンの解体ナイフを取り出した途端に頭を殴られた。
解せん。
しかも兄を殴るとは何事だ!
が、怒っている妹は怖いので大人しくライトボールでコカトリスの卵を電子切開しておいた。
妹は、綺麗に割られた殼を洗ってまた収納している。
なんでもコカトリスの卵は殻にその値打ちがあるらしく、買取金額は銀貨10枚(10万円)だが中身の卵は1万円くらいだとか。
今回使用した卵の殻は銀貨9枚(9万円)の価値があるので、節約大好きな妹は換金してもらう心算なんだろう。
俺達2人は沙良が料理をしている間に露店に行き、パンと串焼きを購入してきた。
旭がダンジョンから出て初めて歩く街並みを、興味津々の様子で見ている姿に自分の時の事を思い出して笑ってしまった。
沙良に不審者のようだから落ち着いてと言われたんだっけな。
リースナーの町では、直ぐに乗合馬車に乗ってしまったから旭は異世界の景色を見た事がない。
ダンジョン内では20畳の部屋に閉じこめられていたから、異世界を満喫しているんだろう。
露店で鉄貨を払って商品を受け取る事も楽しそうだった。
--------------------------------------
お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
--------------------------------------
「お兄ちゃん。ダンジョン終わっちゃったし、もうこの町でやる事ないから他のダンジョンへ行こう! まだ自宅、諦めてないんでしょ?」
「そうだな、レベルを上げてもらわないと」
「じゃあ、やっぱ迷宮都市じゃない?」
「俺も聞いた事がある。最深攻略組が18階にいるらしいぞ? アーサーが言ってたな」
「この町ともお別れだね。今後は3人で頑張ろう!」
「早くLv30まで上げてくれ!」
「了解! 旭に明日の朝、出発するって伝えておいてね」
2年間過ごしたリースナーの町を出る時は、大勢の人に見送られる事になった。
路上生活をしていた子供達は、泣きながら手を振っている。
炊き出しを手伝ってくれた女性冒険者や、最終攻略組の冒険者達まで総出だ。
沙良はミリオネの町を出発する時と同じように、泣いて手を振り返している。
最初にこの町にきた時は、沙良を狙う奴隷商やマジックバッグを狙う冒険者の対処に悩んだが良い経験になった。
異世界では、いずれ通る道だったと思う。
覚悟を決めて対応したが、結局この2年間で沙良を狙う冒険者は後を絶たなかった。
男性冒険者の実に1割もの人間を不能にしたんだ。
それはこの異世界が、法によって人権が守られていない事の証明だった。
妹を守り抜くために、これからは旭もいる事だし心強い味方が出来たと思う。
妹が好きなら何も言わないでも守ってくれるだろう。
こいつは一応空手も習っていたし、俺よりは強いと思って間違いない。
まぁ茜に負けるようじゃ、どれだけ有効なのか疑問が残る所だが……。
素人よりはマシな筈だ。
俺は喧嘩なんてした事がないしな。
ダンジョンで11年間を過ごしたなら、魔法の扱いにも長けているから心配は要らない。
2人で沙良を守っていけば良い。
妹には傷ひとつ付けさせる気はないんだから、協力してもらおう。
あいつには何も知らずに幸せに生きてほしい。
人の悪意に絶望する事がないように……。
そして最後に冒険者ギルドに挨拶に行った際、再びお腹を壊した事にして解体場の親父から預かってもらっていた5セットのペンダントとイヤリングを受け取った。
無事、沙良ヘのプレゼントが完成したのだ。
これで20歳の誕生日の準備は調った。
本当にギリギリになってしまい焦ったよ。
俺が1カラットの宝石のカットに中々OKを出せないでいたから、宝石屋には大分迷惑をかけてしまった。
でも拘った甲斐は充分にあっただろう。
スマホのカメラで写したような繊細なカットを実現出来たんだから、俺としては満足のいく作品になっていると思う。
指輪は旭が順調にアプローチを成功すれば、購入するだろう。
宝石は沢山余っているから、本人が作るのも有りだ。
そうして俺達は、3人で迷宮都市のダンジョンを攻略するためにハンフリー公爵領を出た。
沙良に手を出してきた奴隷商と冒険者だが、クランリーダーが犯人を捜し出し衛兵所に連れていった。
そのお陰で奴隷商は捕まり、違法行為が摘発され鉱山送りとなったようだ。
これでリースナーの町の治安も大分良くなるだろう。
俺は最後まで、自分の手で始末を付ける事にならずに済んで安心した。
沙良が迷宮都市にいく前に、ミリオネの町に寄って子供達に武器や防具を渡したいと言ったので一度寄る事にする。
あれから2年が経過している。
子供達の成長は早いから、皆大きくなっている事だろう。
馬車に揺られて半日。
久し振りにミリオネの町へと帰ってきた。
前回きた時は、直接ミリオネの森に移転しローリエを採取しただけだから町の中には入っていないのだ。
沙良が最初に購入した家へと向かう。
俺と旭はその後を付いていった。
家には冒険者登録が出来ない10歳以下の子供が、1人で留守番をしていたらしい。
沙良はその子供に今住んでいる人数を聞き、アプリコットの詰まった巾着を人数分と未使用の解体ナイフを渡していた。
そして夕食は自分が作る事を伝えて家を出る。
その後も家を4軒回り、同じように巾着を人数分渡し夕食を作る事を伝えていく。
子供達の家の庭を借りて、沙良が夕食を作り出した。
今回はダンジョンで狩ったファングボアの肉を使用し、コンソメも使用してスープを作る事にしたらしい。
沙良がコカトリスの卵を使って卵焼きを作ると言うので、これは遂に出番が来たと喜んだがオリハルコンの解体ナイフを取り出した途端に頭を殴られた。
解せん。
しかも兄を殴るとは何事だ!
が、怒っている妹は怖いので大人しくライトボールでコカトリスの卵を電子切開しておいた。
妹は、綺麗に割られた殼を洗ってまた収納している。
なんでもコカトリスの卵は殻にその値打ちがあるらしく、買取金額は銀貨10枚(10万円)だが中身の卵は1万円くらいだとか。
今回使用した卵の殻は銀貨9枚(9万円)の価値があるので、節約大好きな妹は換金してもらう心算なんだろう。
俺達2人は沙良が料理をしている間に露店に行き、パンと串焼きを購入してきた。
旭がダンジョンから出て初めて歩く街並みを、興味津々の様子で見ている姿に自分の時の事を思い出して笑ってしまった。
沙良に不審者のようだから落ち着いてと言われたんだっけな。
リースナーの町では、直ぐに乗合馬車に乗ってしまったから旭は異世界の景色を見た事がない。
ダンジョン内では20畳の部屋に閉じこめられていたから、異世界を満喫しているんだろう。
露店で鉄貨を払って商品を受け取る事も楽しそうだった。
--------------------------------------
お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
--------------------------------------
966
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。