自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第343話 椎名 香織 3 お姉ちゃん、継母と継子に会う

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 夕食のパンをメイドが投げ捨てていった後で、もう誰も納屋に来ないだろうとお姉ちゃんはホームの能力を使用して自宅へと帰った。

 これ、考えたら物すごくチートだよね?
 異世界からいつでも自宅に帰れるんだよ!?

 移転系の能力は同じ世界を移動するものが多いのに、日本と同じ環境の自宅に戻る事が出来るなんて異世界転移物の小説だったら最強だ。

 苦労する事態が何も無いんだから……。
 日本人が異世界に転移・転生して困るのは衣食住だもん。

 冒険者としてダンジョン攻略をするようになっても、夜には自宅に帰れるなんてヌルゲー過ぎる。
 まぁ、そのお陰でお姉ちゃんもダンジョン攻略を積極的にしてくれると思うから、ホームの能力はあって良かった。

 テントで宿泊なんて嫌がりそうだよ。

 夕食はアイテムBOXから熱々のピザを出して、オレンジジュースを飲んでいた。

 いいなぁ~。
 ピザってどんな味がするんだろう?
 異世界には固いパンしか無いんだよね~。

 メイドが投げつけたあのパン、実は庶民が食べるパンじゃないと知ったらお姉ちゃんはビックリするだろうな。

 異世界では貴族でも同じパンを食べる。
 違いは焼き立ての物か日にちが経過した物かだけだ。

 パン種を発酵するという発想が無いのか、夢で食パンを初めて見た時はその余りの柔らかさに思わず目が釘付けになっちゃった。

 トーストの上にバターをたっぷり塗り、サクッっと軽い音を立てながらかじって食べる姿を見て、何度日本の家族の下に生まれたかったと思ったことか!

 もう食に関しては、異世界じゃ太刀打ち出来ない程発展している。
 パンひとつとってみても、公爵令嬢の私が食べていた物と比べ物にならないのだ。

 そしてジュース!
 飲み物の種類も、紅茶一択の異世界とは違って多種多様にある。
 
 炭酸と言われる飲み物は、泡が入っているのかシュワシュワしているのが興味をそそられる。
 真っ黒なコーヒーも、賢也お兄ちゃんがよく飲んでいたんだよね~。
 お姉ちゃんは、その上に生クリームをたっぷり載せた物が好きだったみたい。
 
 夢で家族が食卓を囲んで食事をしているシーンを見るのが、何よりも楽しみだった。
 どんな味なんだろうと想像するだけで幸せな気分になれる。

 そして、家族皆が今日一日あった出来事の話を聞く事が嬉しかったんだ。
 椎名家は、とても仲の良い家族だったと思う。

 長男の賢也お兄ちゃんは妹弟ていまいの面倒をよく見てくれていたし、働いているお母さんのために沙良お姉ちゃんは高校生になるとお弁当を賢也お兄ちゃんの分まで作ってあげていた。

 月に1度、旭さんの分も作っていたのは何故なぜだろう?
 
 茜ちゃんや双子達が高校生になった時も、ちゃんと早起きして作ってあげていたんだよ。

 それって中々出来ない事じゃないかな。

 お母さんは子沢山で大変だったと思うけど、お弁当を作ったのは賢也お兄ちゃんが高校3年生になるまでの2年間だけだもん。

 私もお姉ちゃんが作ったお弁当を持って、学校に通いたかったなぁ~。
 そうしたら友達に自慢出来たのに!

 公爵令嬢だった私には、友達は1人も居なかったんだけどね。
 お母様が病弱で全く社交に出なかったので、私はお茶会に出席する事が出来ず友達を作れなかった。

 本当に寂しい子供時代だったと思うよ。
 話し相手は、両親代わりの老執事と乳母とメイドだけだったんだから……。


 それからお姉ちゃんは、部屋の外やベランダに出て移動出来る範囲を調べるとリビングのTVをつけた。
 そしてTVが映った事に驚いている。

 DVDは見られるかも知れないと思っていたみたいだけど、TVが映るとは思わなかったんだろう。
 私も正直、何故なぜ? と一瞬困惑こんわくしてしまった。
 
 通信系は全滅らしく、携帯もPCのネットもつながらなかったみたいだ。
 お姉ちゃんが言う『手紙の人』が娯楽を提供してくれたのかな?

 翌日、朝食を食べて再び納屋内に戻る。
 30分後に現れた継母付きのメイドが、お姉ちゃんの手をつかんで強引に納屋から引きずり出した!

 このメイドは、本当に公爵令嬢の身分を理解していない。
 私の乳母だったメイド長が見たら、即解雇だっただろう。

 本来継承権がある私の体に触れるのは、私付きのメイドだけが許されている事なのに……。

 お姉ちゃんは、ここでも言いたい事があったみたいだけど現在の立場を思ってか顔をしかめながら耐えてくれた。

 納屋の外には、赤い髪にオレンジ色の瞳を持つ特徴的な色合いの継母が手に棒を持って継子と一緒に居る。
 あの棒で何度も何度も叩かれた事を思い出し、もう自分の体は無いのに恐怖で身がすくむ思いがした。
 
 体罰なんて可愛いものじゃなく、ただ継母のその日の気分によって私はサンドバッグにされたのだ。
 私を叩いている時の目付きは尋常じんじょうじゃなく、どうしてそんな憎まれているのか謎のまま。
 
 最初の頃は理由も分からず叩かれる事に「何をするの! 止めて!」と声を上げていたけど、私が少しでも反抗的な態度を取ると余計継母からの仕打ちがひどくなるので、自分の身を守るために何も言わずに堪えるようになった。
 
 継母はお姉ちゃんを一瞥いちべつして、「反省しましたか?」と棒をてのひらに打ち付けながら問いかける。 

 あぁ、ここで言い返すとお姉ちゃんが叩かれてしまう!
 とても痛いので、どうかはいと言って!

 継子は相変わらず意地の悪そうな顔をしニヤニヤと笑って、お姉ちゃんがどう答えるか見物していた。
 最初、父親が再婚した時は同い年の姉妹で仲良くなれると思ったけど、その性格の悪さに無理だとさとった。

 継母そっくりな態度は、子供ながら異常を感じる程だった。
 流石さすが、悪役令嬢。

 ゲームのシナリオ通りなら、この国の皇太子と婚約して主人公のヒロインを虐め倒す役だけあって子供の時から悪役が板についている。

 お姉ちゃんは少し考えた後、聞こえるかどうかの小さな声で「反省しました」と答えてくれたのでほっとした。

 再びメイドに手をつかまれて、強引に公爵邸の中に入れられる。
 その後、3階のメイドが使う部屋に押し込まれた。

 私の部屋は継子のサリナに取られてしまったので、お父様が不在の現在はここが自室になる。
 そんな部屋でも、隙間風で体の体温が奪われる状態じゃないだけ随分ずいぶんましだった。
 
 きっと私はあの納屋の中で、餓死か凍死をしたんじゃないかな……。
 2度目の死因は最悪だよ。

 絶対に2人の事は許さないから!!

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