自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第368話 オリー・リザルト 5 森の魔女&人生の終焉

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 レバンダリニア皇国のダナー町。
 そこが今、俺のいる場所らしい。

 カルドサリ王国の北に隣接している国だ。
 移転させられたのが、まだ同じ大陸内で良かったと言うべきか……。
 大陸内であれば、共用語で言葉が通じるし使用する通貨も同じだからだ。

 いつもなら寝ている時間に3時間も歩いた所為せいで、俺の疲労は限界に達している。
 周りを見渡せば、もう朝方だった。

 取りえず体を休める宿を見付けて眠ろう。

 俺は町の門から一番近い宿に入り、ベッドの上に倒れ込み泥のように眠りについた。
 目が覚めると窓から見える光はなく、夜になっていた。

 昨日起きた出来事をもう一度振り返ってみる。
 どうやら俺は、触れてはいけない人物に禁を犯したらしい。

 国外追放――。

 そういった処罰がある事は知っていたが、事前に何の連絡もなくいきなり問答無用で移転させられるとは思わなかった。

 カルドサリ王国には、森の魔女と噂される存在がいる。
 その魔女の正体はエルフの王族だ。

 何代か前の国王が、交流のために来賓らいひんで来ていたエルフの王女に一目惚ひとめぼれして第2王妃に迎えた事があった。
 王女も国王の事が好きになり、2人は非常に仲睦なかむつまじい様子だったそうだ。

 だが当時の王妃は第2王妃に子供が出来ると、自分の息子の継承権が危うくなると感じて王女を亡き者にしようと画策する。
 しかしエルフの王族には、影衆という護衛が付いているので王女を暗殺する事は不可能だった。

 結局、たくらみはバレて王妃は斬首ざんしゅされる。

 この件があってか、後に王になった王弟の孫は他種族と関る事を止めたみたいだ。
 そして現在に至るまで、カルドサリ王国は他種族との交易を一切していない。

 第2王妃だった王女は、自分が命を狙われた事にショックを受け王宮を去って森にこもってしまったらしい。
 そこで子供を産み、以降人前には全く出なくなったと聞く。

 そして人々は第2王妃だった王女の事を忘れないために、森の魔女と呼んだ。

 実際、見た人間がいなので噂は眉唾まゆつばだと思っていたが……。
 サラというあの少女の容姿を思い出す。

 確かに美しい少女だった。
 年齢の割にスタイルも良かったな。
 姿変えの魔道具で、いくらか変化していたのだろう。

 その少女に手を出したから、俺は処罰されたのか。
 
 少女が森の魔女の系譜だったら、エルフの王族である事に間違いない。
 当時のカルドサリ国王は第2王妃を溺愛できあいしていたようだから、その後にまつわる警護にも万全の体制を期していたんだろうな。

 命を取られなかっただけ、国外追放はましな処分だ。
 あぁ、でも俺は少女を暗殺する再依頼を出してしまった!

 1度目は国外追放で許してもらえたが、2度目は命が無いかもしれない……。
 その後1週間、宿から一歩も出ずにいつ死刑執行人が現れるかと戦々恐々せんせんきょうょうとした日々を過ごした。

 2回目の実行日が過ぎてからも無事だった事で、俺はこの国でどう生きるか考えていた。
 カルドサリ王国には、もう戻れない。

 叔父のコネも、元公爵の嫡男だという事も他国では通用しない。
 貴族出身である意味がなくなってしまった。

 冒険者ギルドの仕事しか経験がなかったので、やれる仕事は少なかった。
 これはもう誰にでも出来る冒険者になるしかない。

 あんなに馬鹿にしていた冒険者を自分がする事になるなんて、皮肉なものだな……。
 魔法学校に通い、習得した魔法があるからスキップ制度でC級冒険者にはなれるだろう。

 伯爵家以上に生まれた子供は、暗黙の了解で15歳まで魔物を倒してLvを上げる事は絶対にしない。

 それはLvが上がると基礎値が固定されるからだ。
 子供の頃から、それはもう何度も言い聞かされて育つ事になる。

 好奇心が強い子供のために、親は貴族としてのアドバンテージを持たせる必要があるから口酸っぱく繰り返す。

 俺も10回以上は注意された覚えがある。
 
 庶民が10歳で冒険者登録をしてLv上げをするのは、貴族が庶民より力をつけるために必要な事だった。

 この5歳の差は大きい。

 仮に庶民が10歳の時にLv1になった場合、Lv20でステータス表記はHP/MPともに210。
 貴族出身者が15歳の時にLv1になった場合、Lv20でステータス表記はHP/MPともに315となる。

 これを知っているかどうかで、冒険者として成功出来る率が跳ね上がるだろうな。
 貴族はあらゆる面で優遇されていると言っても良いだろう。

 魔物を討伐したのは、魔法学校の3年生時に演習でゴブリンを倒した経験しかない。
 俺の魔法適性は火魔法で、今使用出来るのはファイヤーボールLv2だけだった。

 剣術も槍術も父が亡くなる10歳の頃までは指南役がいて練習していたが、知らない間にいなくなっていた。
 きっと叔母が家庭教師と同様に首にしたんだろう。

 ステータスにも習得された表記はない。
 35歳で冒険者を始めるのか……。

 現在のLvは1でHP/MPは30だった。

 ダナー町の冒険者ギルドで冒険者登録をし、スキップ制度の申請を出した。
 35歳という年齢もあってスキップ制度の許可は下り、本日これからギルドマスターが立会ってくれると言う。

 試験の魔物は森に出現するベアだった。

 ゴブリンしか倒した事はなかったが、遠距離からファイヤーボールの魔法を撃てば大丈夫なはず

 ベアの出現する森まで案内をするギルドマスターの後をついていった。

 道中に出てきた、スライムや角ウサギはファイヤーボールを撃って倒す。
 ギルドマスターはスキップ制度に必要な魔物を安全に狩る事が出来るか見るだけなので、基本的に魔物を狩るのは俺だけだ。

 角ウサギは確か本体も持ち帰る必要があったが、魔法で丸焼きにしてしまったので換金出来ないだろう。

 魔石だけは大丈夫か?
 折角せっかく倒したので、マジックバッグに入れておく。

 しばらく森を歩いていると、お目当てのベアと遭遇そうぐうした。
 思った以上に大型の魔物だった事に、対応が一瞬遅れる。

 その一瞬の間にベアが咆哮ほうこうをあげながら突進してきた!
 俺との距離がわずか3mになる。

 急いで魔法の詠唱をしたが間に合わず、ベアの爪で大きく首筋を切り裂かれた。
 強い衝撃しょうげきと痛みで、段々意識が朦朧もうろうとしてくる。

 地面に倒れた視線の先に体内から流れる血の量を見て、自分の死をさとった。

 あぁ、結局俺はここで死ぬのか……。

 プライドなんて捨てて、F級の薬草採取から始めていれば良かった。
 下手に魔法が使えると過信して、魔物の討伐経験も無いのにスキップ制度の申請なんかするんじゃなかったな……。

 くそみたいな俺の人生が、これで終わりじゃ笑えない。
 
 ギルドマスターが「馬鹿な男じゃな」と呟いたのを聞いたのが、記憶に残る最後の言葉だった――。

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